【冷たい墓石で鬼は泣く~睦拾伍~】

文字数 1,080文字

 わたしの目は虚ろだった。

 とはいえ、意識が遠退いているとか、死に掛けているとかではない。ただ、まばたきを可能な限りしないため、藤十郎様に対して、あらゆる情けを捨て去るために目から光という光を追い払っているに過ぎなかった。

 これで終わりーーわたしの中では確定していた。わたしの向こう側に立つのは、脚を震わす藤十郎様の姿。やはり戦う姿勢になっていない。当たり前だ。戦う姿勢すら教わっていない人間がどうやって戦うというのだ。

 チラリと藤乃助様のほうを見た。藤乃助様は神妙な面持ちだった。そして、その視線はわたしのほうへと向いていた。恐らく、わたしをどうやったら引き止めることが出来るか考えているに違いない。

 しかし、わたしはもうウンザリなのだ。

 わたしはゆっくりと木刀の切っ先を藤十郎様に向けた。藤十郎様はヒッと甲高い声を上げた。もはやこの時点で勝負は決まっていた。勝とうという気迫がない。それはつまり戦おうという意思すらないということだ。右手から無様にぶら下がっている木刀はもはや枯れ果てた雑草のようだった。

「藤乃助様」わたしは構えを解いていった。「藤十郎様の得物を変えて下さい」

 この申し出には藤十郎様も藤乃助様も意外だったようだった。それもそうだろう。得物を変えるということは、木刀ではない何かで戦うということ。それはつまりーー

「一体、何をするのだ?」

 藤乃助様は呆然としていった。だが、そんなことはもはやどうでもいい。わたしを打ち首にしたければすればいい。やはりわたしはどこかに属するということが根本から無理なのだ。そういう意味でいえば、わたしと馬乃助は兄弟だった。ふたりして何処かに定住することが出来ない。それが牛野の家に生まれた兄弟の宿命だったのかもしれない。

 そして、もしかしたら、野垂れ死にするであろう運命もーー

「藤十郎様に刀をお渡し下さい」

 そうわたしがいうと、やはりおふたりはビクリと動いた。そして、脇に控えている従者までも。わたしはその場にいる誰もに緊張が走り、動けずにいるのを見ていった。

「どうせ、このままじゃ藤十郎様も動けないでしょう。刀を使って大丈夫です。そして、わたしは木刀。これならわたしが防御の体勢になれば即終了。わたしの負け。命もろとも消え失せるまでです」

「ま、待て!」藤乃助様は声を上げた。「そんなこと、出来るはずが......!」

「ならば、わたしに刀をお貸し下さい」わたしは感情を殺していった。「戦おうという意志がなければ、藤十郎様、アナタは死ぬ。死にたくなければ、必死になって戦うことです」

 わたしは本気だった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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