【帝王霊~捌拾死~】
文字数 1,137文字
生きているのか死んでいるのかわからない人というのは一定数いるモノだ。
それはもはや死んだような目をしていたり、表情をしていたり、そもそも存在が薄すぎているのかもわからないだったりと色んなシチュエーションがあるだろうーーもちろん、それらの中には明らかな悪意のあるモノも存在するが、目や顔が死んでいるということに関していえば、それはどんな人にも起こりうることだとあたしは思うのだ。
朝、ストリートを歩けば死んだような顔をしながらヨレヨレのスーツを着ている者がいる。或いは電車の中で半分うなだれたように下を向いているサラリーマンや学生がいる。これが夜になってもやはり同じような人種は現れる。というより、疲れという意味では夜のほうがそういった者たちは顕著になるといっていい。
朝昼夜、あらゆる時間を問わず、ストリートを蠢くゾンビのような存在はいる。というか、そんな生気がまったく感じられないような人たちは、そもそも精神的に危険な状況に陥っていたりもするので、もはや活動するよりも休むことを優先させるべきだと思うのだが、日本の社会はいつだって目まぐるしく回っている。そのペースに遅れてはならないーーそういった強迫観念が社会を生きる者たちを支配する。そのペースから遅れれば社会的な脱落者になってしまう。そんなことはまったくないのに、気づけば人は社会や社会が標榜する「常識」の奴隷となっている。
そして、そんな「脱落者」が人生に絶望し、自ら死を選ぶーー今の世の中、ある意味殆どの人がゾンビと化して、日々の生活を無機質に淡々と生きているのかもしれない。
やはり、人間、精神的なダメージを受け続けると、その防衛本能から感情は死んでいく。大きな木の塊を彫刻刀で雑に刻んで行くように。だが、それ以上にキツイのは彫刻刀ではなくチェーンソーで切り刻んだ場合だろう。それはどういう場合かといえば、シンプルに一度にとてつもなく大きな精神的ダメージを受けた場合である。
人間、肉体と違って精神は一度ダメになると強くなるどころか、むしろ壊れやすさが増してしまう。まるで、割れたガラスの置物をセロハンテープで継ぎ接ぎにしたように。
詩織を抱く男もそういった生気の感じられない、死んだような表情、目をしていた。まるで、何かに取り憑かれたようだった。
「......どうしたんだよ?」
弓永くんがいった。弓永くんの顔は珍しく強張り、引きつっていた。緊張している。ひと目見てそうだとわかった。
「詩織さん、どうかしたのか......?」
弓永くんの声が震えていた。訊ねられた男は口を開かなかった。よく見れば身体が震えていた。そして、男はゆっくりと声を震わせながらことばを紡いだ。
「詩織が......、死んだ」
【続く】
それはもはや死んだような目をしていたり、表情をしていたり、そもそも存在が薄すぎているのかもわからないだったりと色んなシチュエーションがあるだろうーーもちろん、それらの中には明らかな悪意のあるモノも存在するが、目や顔が死んでいるということに関していえば、それはどんな人にも起こりうることだとあたしは思うのだ。
朝、ストリートを歩けば死んだような顔をしながらヨレヨレのスーツを着ている者がいる。或いは電車の中で半分うなだれたように下を向いているサラリーマンや学生がいる。これが夜になってもやはり同じような人種は現れる。というより、疲れという意味では夜のほうがそういった者たちは顕著になるといっていい。
朝昼夜、あらゆる時間を問わず、ストリートを蠢くゾンビのような存在はいる。というか、そんな生気がまったく感じられないような人たちは、そもそも精神的に危険な状況に陥っていたりもするので、もはや活動するよりも休むことを優先させるべきだと思うのだが、日本の社会はいつだって目まぐるしく回っている。そのペースに遅れてはならないーーそういった強迫観念が社会を生きる者たちを支配する。そのペースから遅れれば社会的な脱落者になってしまう。そんなことはまったくないのに、気づけば人は社会や社会が標榜する「常識」の奴隷となっている。
そして、そんな「脱落者」が人生に絶望し、自ら死を選ぶーー今の世の中、ある意味殆どの人がゾンビと化して、日々の生活を無機質に淡々と生きているのかもしれない。
やはり、人間、精神的なダメージを受け続けると、その防衛本能から感情は死んでいく。大きな木の塊を彫刻刀で雑に刻んで行くように。だが、それ以上にキツイのは彫刻刀ではなくチェーンソーで切り刻んだ場合だろう。それはどういう場合かといえば、シンプルに一度にとてつもなく大きな精神的ダメージを受けた場合である。
人間、肉体と違って精神は一度ダメになると強くなるどころか、むしろ壊れやすさが増してしまう。まるで、割れたガラスの置物をセロハンテープで継ぎ接ぎにしたように。
詩織を抱く男もそういった生気の感じられない、死んだような表情、目をしていた。まるで、何かに取り憑かれたようだった。
「......どうしたんだよ?」
弓永くんがいった。弓永くんの顔は珍しく強張り、引きつっていた。緊張している。ひと目見てそうだとわかった。
「詩織さん、どうかしたのか......?」
弓永くんの声が震えていた。訊ねられた男は口を開かなかった。よく見れば身体が震えていた。そして、男はゆっくりと声を震わせながらことばを紡いだ。
「詩織が......、死んだ」
【続く】