【モノローグ~アポカリプト~】
文字数 2,085文字
暗闇(SE:ドアチャイム2→ドアを開ける1→ドアを閉める1)
明転すると男、椅子に座り、テーブルの向こう側の相手に話し掛けている。
「神はテレビの中にいる。あるロックスターはそう歌いました。
これは文明が発達した結果、神の存在が軽んじられ、そのネームバリューが大安売りになってしまったことを皮肉ったモノです。
まぁ、わざわざお部屋に上げて頂いて、これからわたしの信仰する宗教のことをお話しようとしているのに、これでは本末転倒も良いところですが、少しだけお付き合い頂けないでしょうか。......ありがとうございます。
ーーさて、話を戻しますが、先程のロックスターのフレーズも今風にいえば『神はスマホの中にいる』でしょうか。
今の時代、スマホがあれば出来ないことはありません。動画を撮ることも、観ることも、文章を書くことも、音楽を聴くことも、受信も発信もできる。自分で配信することも出来る。
動画サイトやSNS、匿名掲示板を見てみて下さい。どこもかしこも『神』というフレーズで溢れ返っている。例えば音楽やゲーム、スポーツのプレイヤー、かわいいアイドル、果てはケチな幸運にまで『神』と言う。
......まったく下らない。
科学や文明の発達によって、『神は死んだ』とほざいた哲学者がいましたが、まったくバカ馬鹿しい話です。
神はいます。我々のこころの中に。神はいつだって我々をこころの中から見守って下さっているのです。
......そんな胡散臭いモノを見るような目で見ないで下さいよ。わたしはいつだって大真面目です。その証拠に、今からアナタのことをひとつ一つ言い当てて見せますね。
......疑ってるんですか? それでこそ、やりがいがあるというモノです。ではーー」
男、目を瞑り電波を受信するように唸る。
「......あぁ、なるほど。アナタ、この前、四年付き合った恋人と別れましたね。原因は結婚への意識のズレ、ですか。......何でわかるのか、ですか? 見えるからです。お父様は早くに亡くされてますね。......あなたが中学生の時にガンで、ですか。お母様は田舎のほうでアナタの弟さんとペットの犬と同居してらっしゃって今も元気にスーパーでパートの仕事をしていらっしゃる。それと......、この前、健康診断で肝臓とコレステロールで引っ掛かっていますね。......いかがですか?
どうしてわかるのか、って? これも修行したからこそ出来ることでしてーーん、アナタも、ですか? もちろん出来ますよ。ただ、我々と修行をすればの話ですが。
まぁ、わたしからいえるのは、アナタは今、邪気をまとっている。今のアナタが不幸なのも、そのせいです。もし、アナタがそれを取り除きたいというならば、今すぐ入信して共に教主様と修行することです。
......教主様ですか? あの御方は現人神様、いわば神の化身でございます。人のこころの中にある神が具現化した存在ですから、当然、人間の考えることなどお見通し。だからこそ、教主様の元で修行すれば、アナタもわたしのように人のことを見抜く力を持てるようになるワケです。おわかり頂けましたか?
......さて、いかがいたしましょう。入信する決心はつきましたか?ーーそうですか! これでアナタも救われますよ!......じゃあ」
男、立ち上がって手袋をし、徐にナイフで相手を殺す。
「......何がアナタのことを言い当てる、だ。いいね欲しさにSNSでプライバシーを切り売りしてりゃ、お前がいつ何処で何してるかなんて丸わかりだったよ。じゃ、始めるか」
タンス(横のカーテン)の中を探索する。金目のモノが出てくる。
「まったく、バカはすぐに神の足許にすがりたがる。本当に頼れるのは自分だけだというのに。にしても......神はこころの中にいる、か。この世界に神がいるとしたらーー」
男、一枚の一万円札を取り出す。
「これだ」
パトランプの音。(SE:パトカー)男は鼻で笑いながら、ナイフをジップロックへ。
「うるせぇな。テメェら来るのが遅すぎる。ーーおれか?」
男、警察手帳を取り出し、見せる。
「同業者だ。連絡が入ってたまたま近くにいたから来たらこのザマだ。凶器はこっちで保存した。おれはコイツを署に持ってく。後は頼んだぜ」
照明が薄暗くなっていく。突然、前照明が明るくなる。男、客席に向かい話出す。
「......ざまあみろ、とでも思いましたか? 残念ながら、この世はそう上手くいかないのです。罵りたければ、罵ってどうぞ。ただ、ここには境界線があります。まるでスマホの画面のような境界線が。所詮アンタらは画面の前という世界一安全な特等席で残酷なショーを他人事として楽しむ視聴者でしかない。孤独のパズルを埋めるためレンズを開いては人の不幸を貪り、善と悪を割り算し、セックスとバイオレンスを掛け算する。そして今日もスマホという神にひれ伏すんだ。わかりますか?」
男、スマホを掲げる。
「さぁ、お前らの神を崇めろーー」
暗転(SE:携帯電話のバイブレーション1)
【終幕】
明転すると男、椅子に座り、テーブルの向こう側の相手に話し掛けている。
「神はテレビの中にいる。あるロックスターはそう歌いました。
これは文明が発達した結果、神の存在が軽んじられ、そのネームバリューが大安売りになってしまったことを皮肉ったモノです。
まぁ、わざわざお部屋に上げて頂いて、これからわたしの信仰する宗教のことをお話しようとしているのに、これでは本末転倒も良いところですが、少しだけお付き合い頂けないでしょうか。......ありがとうございます。
ーーさて、話を戻しますが、先程のロックスターのフレーズも今風にいえば『神はスマホの中にいる』でしょうか。
今の時代、スマホがあれば出来ないことはありません。動画を撮ることも、観ることも、文章を書くことも、音楽を聴くことも、受信も発信もできる。自分で配信することも出来る。
動画サイトやSNS、匿名掲示板を見てみて下さい。どこもかしこも『神』というフレーズで溢れ返っている。例えば音楽やゲーム、スポーツのプレイヤー、かわいいアイドル、果てはケチな幸運にまで『神』と言う。
......まったく下らない。
科学や文明の発達によって、『神は死んだ』とほざいた哲学者がいましたが、まったくバカ馬鹿しい話です。
神はいます。我々のこころの中に。神はいつだって我々をこころの中から見守って下さっているのです。
......そんな胡散臭いモノを見るような目で見ないで下さいよ。わたしはいつだって大真面目です。その証拠に、今からアナタのことをひとつ一つ言い当てて見せますね。
......疑ってるんですか? それでこそ、やりがいがあるというモノです。ではーー」
男、目を瞑り電波を受信するように唸る。
「......あぁ、なるほど。アナタ、この前、四年付き合った恋人と別れましたね。原因は結婚への意識のズレ、ですか。......何でわかるのか、ですか? 見えるからです。お父様は早くに亡くされてますね。......あなたが中学生の時にガンで、ですか。お母様は田舎のほうでアナタの弟さんとペットの犬と同居してらっしゃって今も元気にスーパーでパートの仕事をしていらっしゃる。それと......、この前、健康診断で肝臓とコレステロールで引っ掛かっていますね。......いかがですか?
どうしてわかるのか、って? これも修行したからこそ出来ることでしてーーん、アナタも、ですか? もちろん出来ますよ。ただ、我々と修行をすればの話ですが。
まぁ、わたしからいえるのは、アナタは今、邪気をまとっている。今のアナタが不幸なのも、そのせいです。もし、アナタがそれを取り除きたいというならば、今すぐ入信して共に教主様と修行することです。
......教主様ですか? あの御方は現人神様、いわば神の化身でございます。人のこころの中にある神が具現化した存在ですから、当然、人間の考えることなどお見通し。だからこそ、教主様の元で修行すれば、アナタもわたしのように人のことを見抜く力を持てるようになるワケです。おわかり頂けましたか?
......さて、いかがいたしましょう。入信する決心はつきましたか?ーーそうですか! これでアナタも救われますよ!......じゃあ」
男、立ち上がって手袋をし、徐にナイフで相手を殺す。
「......何がアナタのことを言い当てる、だ。いいね欲しさにSNSでプライバシーを切り売りしてりゃ、お前がいつ何処で何してるかなんて丸わかりだったよ。じゃ、始めるか」
タンス(横のカーテン)の中を探索する。金目のモノが出てくる。
「まったく、バカはすぐに神の足許にすがりたがる。本当に頼れるのは自分だけだというのに。にしても......神はこころの中にいる、か。この世界に神がいるとしたらーー」
男、一枚の一万円札を取り出す。
「これだ」
パトランプの音。(SE:パトカー)男は鼻で笑いながら、ナイフをジップロックへ。
「うるせぇな。テメェら来るのが遅すぎる。ーーおれか?」
男、警察手帳を取り出し、見せる。
「同業者だ。連絡が入ってたまたま近くにいたから来たらこのザマだ。凶器はこっちで保存した。おれはコイツを署に持ってく。後は頼んだぜ」
照明が薄暗くなっていく。突然、前照明が明るくなる。男、客席に向かい話出す。
「......ざまあみろ、とでも思いましたか? 残念ながら、この世はそう上手くいかないのです。罵りたければ、罵ってどうぞ。ただ、ここには境界線があります。まるでスマホの画面のような境界線が。所詮アンタらは画面の前という世界一安全な特等席で残酷なショーを他人事として楽しむ視聴者でしかない。孤独のパズルを埋めるためレンズを開いては人の不幸を貪り、善と悪を割り算し、セックスとバイオレンスを掛け算する。そして今日もスマホという神にひれ伏すんだ。わかりますか?」
男、スマホを掲げる。
「さぁ、お前らの神を崇めろーー」
暗転(SE:携帯電話のバイブレーション1)
【終幕】