【将来老害一直線】
文字数 2,924文字
人から何かを学ぶことは非常に大切だ。
特に年を取れば取るほど人から何かを教わるという機会が少なくなってくる。
人によっては、二〇代半ばには人から学ぶことを辞めてしまうーーいや、早ければ十代、下手したら一〇歳に到達する前に人から何かを教わることを拒否することもあるかもしれない。
ただ、人から学ぶ姿勢がなくなると、どうにも自我が肥大し、周りが見えなくなってしまう。これはどうにもよろしくない。将来老害一直線だ。将来老害一直線、語呂がいいな。タイトルに採用しよう。
かくいうおれは、最近になって沖縄空手を始めたモノで、人から学ぶことが多い。やはり、慣れないことをやるのは、頭も使うし、空手ともなると身体もしっかり動かすこととなる。
できないことは辛いけど、それを乗り越えた先にある景色を見たいこともあって、懲りずに鍛錬を続けてしまうーーそれがおれの悪いクセだった。いや、いいクセかな?
まぁ、かたや居合では、気づけばおれも道場で中堅の立ち位置にいるワケで。今では師匠に教わりつつも、年上、年下関係なく人に自分の居合を教えることが多くなっている。
人に教えることは難しい。ただ、人から何かを教わるのはもっと難しい。人から教わることを辞めてしまう人は、教わることの難しさにウンザリしてしまった人だとおれは思っている。
正直、おれも人からモノを教わるのが苦手だ。今でこそ教わるコツを掴み、それなりに要領よくやれてはいるけど、コツを掴むまではモノを教わることが億劫で仕方なかった。
さっきもいったけど、今でこそ人に居合を教えることもあるのだけど、そんなおれも始めたばかりの時は本当に酷かった。
そんなワケで、今日は居合を始めた頃の話をしようかなと思う。多分、数回に分けるんでよろしく。というか、今日は疲れてあまり長くは書けそうにないんで、適当な場所で切り上げるわ。というワケでやってくーー。
あれは四年前の話だ。その時はちょうどブラストの稽古をサボって外山と市民体育館で卓球をやっていたのだ。
稽古をサボって卓球とか、って思われるかもしれないけどさ。あの時のブラストはベテランメンバーが自分勝手なことばかりやってたせいでおれも精神的に疲弊してて、少し稽古を休むように演出のゆーきさんにいわれてたんよ。
学ぶ姿勢を持たなくなるとブラストの老害ベテランメンバーみたいになっちゃうぜ。
それはさておき、休憩中におれはメインホールにて、催しモノを宣伝する掲示板を眺めていたのだ。そんな中にーー
「『川澄居合会』メンバー募集!」
そんな掲示を見掛けたのだ。
居合ーーマンガや映画では何となく見たことはあるが、具体的にどんなものかは知らなかった。とはいえ、殺陣で侍の真似事はやっていたので、これにはかなり興味があった。
「何見てんの?」外山が訊ねる。
「いや、川澄に居合の道場があるんだなって思って」
「居合か。興味あんの?」
「まぁ、殺陣やってるしな」
まぁ、この時点じゃ、自分が所属していた殺陣サークルで教えていた内容がインチキばっかとは知らず、もしかしたら殺陣の技術で上手くできるんじゃねえかと思っていたのだ。
とはいえ、稽古の日程的に、芝居の本番を終えてからでないと恐らくキツイだろう。そう思い、結局そのポスターを写真に収めて、再び卓球場へと戻ったのだ。
それから二ヶ月後、芝居の本番は終わった。忖度なしにいえば、最低最悪、ゴミ以下の芝居だった。ベテランの老害たちはセリフを覚えていないし、中には舞台上でセリフを忘れたのを顔に出して慌てるベテラン様もいた。
まぁ、正直フォローしようと思えばできたんだけど、あんだけ調子に乗ってたんなら自分で何とかできるよねって感じでフォローしなかったんよ。結局、何も喋れず、泣きそうになってたんだけどさ。あの威勢はどうしたんだか。
さて、そんなことばかりだったんで、おれはもうブラストみたいな老害の巣窟から身を退くつもりでいた。まぁ、退かなかったけど。
そんな感じでフリーの時間が増えるし、何か新しいことを始めようと思ったその時、唐突にあのポスターの存在を思い出したのだ。
ただ、そのポスターには曖昧な点が多く、月謝や入会料等の情報がまったく載っていなかった。そこで、ポスターに載っていたURLから道場のホームページに飛び、詳しい情報を確かめることにした。
が、やはり料金のことは書いていなかった。
さて、不安になってきた。何かをやる上で料金のことが何も書いていないとなると、どうにも困ってしまう。
とはいえ、興味は燃え上がるばかり。
その時期は「場所が押さえられない」という理由でうちの殺陣サークルも半年以上稽古をしていないような体たらくだった。
その殺陣サークルはブラストの一部メンバーが兼任でやってて、場所を押さえてたのは老害メンバーのひとりだったんだけど、シンプルに怠惰なだけと思ってしまうよな。実際、本番直前にも関わらず、自分の出演シーンのページを読んだことがないとかいう体たらくだったしさ。それはさておきーー
殺陣の活動もない、ブラストには顔を出したくない。となると答えはひとつ。
おれは『川澄居合会』のメールフォームから、代表者にメールを送った。
メールの返信は比較的早かった。そして、直近ではウィークデーの祝日に稽古があるとのことだった。おれは早速、その祝日に体験稽古の申し込みをした。
そして、体験稽古当日。おれは隣街の川澄にある川澄武道館にいた。駐輪場にロードバイクを停めて武道館に入っていこうとすると、それらしき人とバッタリ会った。
「あの、こんにちは。もしかして居合の方ですか?」おれは訊ねた。
「えぇ。ですが、自分もこの前見学に来た身でして。まだ入会はしていないんですけど」
その方は比較的ガタイがよく、何か他の武道をやっているような雰囲気を醸し出していた。
「あぁ、そうなんですね。よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします。とりあえず、行きましょうか」
おれはその人に導かれて武道館の中へと入った。
歩きながら話を伺うと、その方は名前を『臼田』さんといった。
ちなみに現在、『川澄居合会』では道場の双璧と呼ばれているふたりがいるのだけど、そのひとりがこの臼田さんだ。ちなみにもうひとりはーーおれだったりする。すごいだろ?
臼田さんはおれよりひと周りほど年上で、しかも中学校の先輩だった。プラス、臼田さんは合気道四段で、何かを修めたことのないおれからしたら遥か遠い存在のように感じられた。
臼田さんとともに更衣室に入ると、既にそれらしき格好をした人が数人いた。
「あぁ、臼田くん。来てくれたんですね」一番手近にいた紳士的な容貌の男性がいった。
「あ、はい。で、こちらがーー」
臼田さんがおれのほうを指す。おれは、
「本日、体験でお世話になります、五条です。よろしくお願い致します」
おれがいうと、その紳士的な容貌の男性は、
「はじめまして。『川澄居合会』代表の『坂久保』です。本日はよろしくお願いします」
そう、この話していた男性が、代表の坂久保さんだったーー
今日はここで終わるわ。悪いね。
アスタラビスタ。
特に年を取れば取るほど人から何かを教わるという機会が少なくなってくる。
人によっては、二〇代半ばには人から学ぶことを辞めてしまうーーいや、早ければ十代、下手したら一〇歳に到達する前に人から何かを教わることを拒否することもあるかもしれない。
ただ、人から学ぶ姿勢がなくなると、どうにも自我が肥大し、周りが見えなくなってしまう。これはどうにもよろしくない。将来老害一直線だ。将来老害一直線、語呂がいいな。タイトルに採用しよう。
かくいうおれは、最近になって沖縄空手を始めたモノで、人から学ぶことが多い。やはり、慣れないことをやるのは、頭も使うし、空手ともなると身体もしっかり動かすこととなる。
できないことは辛いけど、それを乗り越えた先にある景色を見たいこともあって、懲りずに鍛錬を続けてしまうーーそれがおれの悪いクセだった。いや、いいクセかな?
まぁ、かたや居合では、気づけばおれも道場で中堅の立ち位置にいるワケで。今では師匠に教わりつつも、年上、年下関係なく人に自分の居合を教えることが多くなっている。
人に教えることは難しい。ただ、人から何かを教わるのはもっと難しい。人から教わることを辞めてしまう人は、教わることの難しさにウンザリしてしまった人だとおれは思っている。
正直、おれも人からモノを教わるのが苦手だ。今でこそ教わるコツを掴み、それなりに要領よくやれてはいるけど、コツを掴むまではモノを教わることが億劫で仕方なかった。
さっきもいったけど、今でこそ人に居合を教えることもあるのだけど、そんなおれも始めたばかりの時は本当に酷かった。
そんなワケで、今日は居合を始めた頃の話をしようかなと思う。多分、数回に分けるんでよろしく。というか、今日は疲れてあまり長くは書けそうにないんで、適当な場所で切り上げるわ。というワケでやってくーー。
あれは四年前の話だ。その時はちょうどブラストの稽古をサボって外山と市民体育館で卓球をやっていたのだ。
稽古をサボって卓球とか、って思われるかもしれないけどさ。あの時のブラストはベテランメンバーが自分勝手なことばかりやってたせいでおれも精神的に疲弊してて、少し稽古を休むように演出のゆーきさんにいわれてたんよ。
学ぶ姿勢を持たなくなるとブラストの老害ベテランメンバーみたいになっちゃうぜ。
それはさておき、休憩中におれはメインホールにて、催しモノを宣伝する掲示板を眺めていたのだ。そんな中にーー
「『川澄居合会』メンバー募集!」
そんな掲示を見掛けたのだ。
居合ーーマンガや映画では何となく見たことはあるが、具体的にどんなものかは知らなかった。とはいえ、殺陣で侍の真似事はやっていたので、これにはかなり興味があった。
「何見てんの?」外山が訊ねる。
「いや、川澄に居合の道場があるんだなって思って」
「居合か。興味あんの?」
「まぁ、殺陣やってるしな」
まぁ、この時点じゃ、自分が所属していた殺陣サークルで教えていた内容がインチキばっかとは知らず、もしかしたら殺陣の技術で上手くできるんじゃねえかと思っていたのだ。
とはいえ、稽古の日程的に、芝居の本番を終えてからでないと恐らくキツイだろう。そう思い、結局そのポスターを写真に収めて、再び卓球場へと戻ったのだ。
それから二ヶ月後、芝居の本番は終わった。忖度なしにいえば、最低最悪、ゴミ以下の芝居だった。ベテランの老害たちはセリフを覚えていないし、中には舞台上でセリフを忘れたのを顔に出して慌てるベテラン様もいた。
まぁ、正直フォローしようと思えばできたんだけど、あんだけ調子に乗ってたんなら自分で何とかできるよねって感じでフォローしなかったんよ。結局、何も喋れず、泣きそうになってたんだけどさ。あの威勢はどうしたんだか。
さて、そんなことばかりだったんで、おれはもうブラストみたいな老害の巣窟から身を退くつもりでいた。まぁ、退かなかったけど。
そんな感じでフリーの時間が増えるし、何か新しいことを始めようと思ったその時、唐突にあのポスターの存在を思い出したのだ。
ただ、そのポスターには曖昧な点が多く、月謝や入会料等の情報がまったく載っていなかった。そこで、ポスターに載っていたURLから道場のホームページに飛び、詳しい情報を確かめることにした。
が、やはり料金のことは書いていなかった。
さて、不安になってきた。何かをやる上で料金のことが何も書いていないとなると、どうにも困ってしまう。
とはいえ、興味は燃え上がるばかり。
その時期は「場所が押さえられない」という理由でうちの殺陣サークルも半年以上稽古をしていないような体たらくだった。
その殺陣サークルはブラストの一部メンバーが兼任でやってて、場所を押さえてたのは老害メンバーのひとりだったんだけど、シンプルに怠惰なだけと思ってしまうよな。実際、本番直前にも関わらず、自分の出演シーンのページを読んだことがないとかいう体たらくだったしさ。それはさておきーー
殺陣の活動もない、ブラストには顔を出したくない。となると答えはひとつ。
おれは『川澄居合会』のメールフォームから、代表者にメールを送った。
メールの返信は比較的早かった。そして、直近ではウィークデーの祝日に稽古があるとのことだった。おれは早速、その祝日に体験稽古の申し込みをした。
そして、体験稽古当日。おれは隣街の川澄にある川澄武道館にいた。駐輪場にロードバイクを停めて武道館に入っていこうとすると、それらしき人とバッタリ会った。
「あの、こんにちは。もしかして居合の方ですか?」おれは訊ねた。
「えぇ。ですが、自分もこの前見学に来た身でして。まだ入会はしていないんですけど」
その方は比較的ガタイがよく、何か他の武道をやっているような雰囲気を醸し出していた。
「あぁ、そうなんですね。よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします。とりあえず、行きましょうか」
おれはその人に導かれて武道館の中へと入った。
歩きながら話を伺うと、その方は名前を『臼田』さんといった。
ちなみに現在、『川澄居合会』では道場の双璧と呼ばれているふたりがいるのだけど、そのひとりがこの臼田さんだ。ちなみにもうひとりはーーおれだったりする。すごいだろ?
臼田さんはおれよりひと周りほど年上で、しかも中学校の先輩だった。プラス、臼田さんは合気道四段で、何かを修めたことのないおれからしたら遥か遠い存在のように感じられた。
臼田さんとともに更衣室に入ると、既にそれらしき格好をした人が数人いた。
「あぁ、臼田くん。来てくれたんですね」一番手近にいた紳士的な容貌の男性がいった。
「あ、はい。で、こちらがーー」
臼田さんがおれのほうを指す。おれは、
「本日、体験でお世話になります、五条です。よろしくお願い致します」
おれがいうと、その紳士的な容貌の男性は、
「はじめまして。『川澄居合会』代表の『坂久保』です。本日はよろしくお願いします」
そう、この話していた男性が、代表の坂久保さんだったーー
今日はここで終わるわ。悪いね。
アスタラビスタ。