【一年三組の皇帝~弐拾弐~】
文字数 1,129文字
答えなど決まっているだろう。
そんなことを突然いわれたところで即答なんか出来るはずがなかった。何故なら相手は辻だったから。確かにアイツは度胸もあるし、勝負をするとなった時の冴え渡る頭の良さも魅力的で素晴らしいと思う。
だけど、問題はアイツが何を考えているかわからないことだ。
辻はどうしてそんなに関口を倒さなければならないと思っているのか。ぼくに対して感情に訴え掛けるようなことをいってはいたが、実際は自分がクラスの中心にいないことが我慢ならず、どうしても関口を今の地位から引き摺り下ろしたいだけなのではないか。
山路と海野ーーあのふたりの反応にウソはなかった。間違いなく、辻はあのふたりに「復讐する」とは伝えてはいたが、その相手が関口で、ぼくと協力してというのは初耳、意外過ぎて呆然としてしまったという感じだった。
敵を欺くにはまずは味方からともいう。アレだけ頭の回る男だ。それだけのことは考えるだろう。だが、それを含めてもぼくを自分側に引き入れるメリットは何だ。まさか、ここで共闘すれば、関口を引き摺り下ろした後は問答無用でぼくが辻に肩入れしてあらゆる悪さに目を瞑るとでも思っているのだろうか。仮に山路と海野ならそう思うかもしれない。だが、辻はそんなことは思わないはず。
ぼくは、どうすればーー
「林崎くん!」
名前を呼ばれてハッとし、声のしたほうへと振り向いた。そこには私服姿の片山さんがいた。片山巴さんは小学校時代からの同級生だ。身長は小さめ、メガネを掛け、長々と下ろした黒い髪が特徴的な女子だった。成績は小学校の時から優秀で、現在はクラスの図書委員をやっている。図書委員というだけあって、読書が大好きだ。
ーー辻のことに気を取られてばかりだったが、今のぼくは川澄通り商店街の中にある行きつけの本屋にいた。何かあると本屋に出向いてしまうのは、ぼくの悪いクセ。
いや、それはどうでもいいとして。ぼくは咄嗟に笑顔を作って片山さんに接した。
「あぁ、来てたんだ」
「うん。でも、どうしたの......? 何かものすごく思い詰めてるみたいだったから......」
やはりそんな風に映っていたのか。確かに自分が本屋にいることも忘れるほどの考えごとをするなんて普通じゃない。
「うん、ちょっとね」
ちょっとどころではない。かなり困った話だ。辻を信じていいモノか、果たしてーー
「そう、ならいいけど......」
沈黙がぼくと彼女の間に膜を張る。気まずい。いつもならこんなことはないはずなのに、こういう時は自分が抱えているモノがあってそれを察することをされないようにか、極端に口数が少なくなる。ぼくはーー
「ねぇ」片山さんが口を開いた。「何かオススメの本教えてよ」
【続く】
そんなことを突然いわれたところで即答なんか出来るはずがなかった。何故なら相手は辻だったから。確かにアイツは度胸もあるし、勝負をするとなった時の冴え渡る頭の良さも魅力的で素晴らしいと思う。
だけど、問題はアイツが何を考えているかわからないことだ。
辻はどうしてそんなに関口を倒さなければならないと思っているのか。ぼくに対して感情に訴え掛けるようなことをいってはいたが、実際は自分がクラスの中心にいないことが我慢ならず、どうしても関口を今の地位から引き摺り下ろしたいだけなのではないか。
山路と海野ーーあのふたりの反応にウソはなかった。間違いなく、辻はあのふたりに「復讐する」とは伝えてはいたが、その相手が関口で、ぼくと協力してというのは初耳、意外過ぎて呆然としてしまったという感じだった。
敵を欺くにはまずは味方からともいう。アレだけ頭の回る男だ。それだけのことは考えるだろう。だが、それを含めてもぼくを自分側に引き入れるメリットは何だ。まさか、ここで共闘すれば、関口を引き摺り下ろした後は問答無用でぼくが辻に肩入れしてあらゆる悪さに目を瞑るとでも思っているのだろうか。仮に山路と海野ならそう思うかもしれない。だが、辻はそんなことは思わないはず。
ぼくは、どうすればーー
「林崎くん!」
名前を呼ばれてハッとし、声のしたほうへと振り向いた。そこには私服姿の片山さんがいた。片山巴さんは小学校時代からの同級生だ。身長は小さめ、メガネを掛け、長々と下ろした黒い髪が特徴的な女子だった。成績は小学校の時から優秀で、現在はクラスの図書委員をやっている。図書委員というだけあって、読書が大好きだ。
ーー辻のことに気を取られてばかりだったが、今のぼくは川澄通り商店街の中にある行きつけの本屋にいた。何かあると本屋に出向いてしまうのは、ぼくの悪いクセ。
いや、それはどうでもいいとして。ぼくは咄嗟に笑顔を作って片山さんに接した。
「あぁ、来てたんだ」
「うん。でも、どうしたの......? 何かものすごく思い詰めてるみたいだったから......」
やはりそんな風に映っていたのか。確かに自分が本屋にいることも忘れるほどの考えごとをするなんて普通じゃない。
「うん、ちょっとね」
ちょっとどころではない。かなり困った話だ。辻を信じていいモノか、果たしてーー
「そう、ならいいけど......」
沈黙がぼくと彼女の間に膜を張る。気まずい。いつもならこんなことはないはずなのに、こういう時は自分が抱えているモノがあってそれを察することをされないようにか、極端に口数が少なくなる。ぼくはーー
「ねぇ」片山さんが口を開いた。「何かオススメの本教えてよ」
【続く】