【一年三組の皇帝~死拾伍~】
文字数 1,045文字
多分、身を投げるというのはこういうことなのだろう。
ある種のジェットコースターからの落下のようで、しかももっといえば、そのままビルの屋上からジャンプするような、そんな焦燥感のようなモノがあった。
口許は震えていた。だが、それをことばにしてしまえば、あとは早いモノだ。時間の流れがスローになるのも、ほんの一瞬の話。
「ステイだ」
ステイーー即ち、カードの変更はなし、ということだ。このネイティブというゲームでは、カードを変更せずに様子を見ること、勝負に出ることをステイという。ネイティブは一度もやったことはなかったが、流石に教室にいると、その喧騒でどういう用語があって、それがどういう意味を持つかもわかってしまうというモノだ。
「へぇ、すごいね」関口は本当にそうは思っていないな、というトーンでいった。「初めてなのにステイとかわかるんだ」
「ずっと端から聞いていれば、それくらい覚えるよ」
「そうなのかもしれないね。でもーー」関口は怪しげに笑った。「それって本当はこのゲームがやりたかったってことなんじゃない? そうでもないと、こっちの話してる内容に何か興味も持たないよね?」
「興味がなかったといえばウソになるよ」ぼくは反発することなくいった。「だって、キミがずっと誘ってくるんだから。気にならないワケがないよね。それとも、これもキミの計画のひとつとでもいうのかな?」
「よくわかったね。ぼくもどうにかキミと勝負してみたいと思っててね。でも、やっぱ計画通りだったよ」
何が計画通りだ。結局、ぼくは色んなところから板挟みになって、その果てにここまで来るしかなかったんだ。こんなの、所詮は簡単な足し算、引き算にすぎない。
「まぁ、いいや」関口はいった。「なら、ぼくもステイで行こうかな」
不敵な笑みが光ったようだった。来る。関口のカードは13。負ける可能性のほうが圧倒的に高い。勝つには残りの1か2、その7枚を引いていなければならない。
突然、視界が引き締まったような感覚に陥った。きっと、頭が勝負へのスリルでどうにかしてしまったのだろう。吐き気がした。来る。息苦しく、無駄にツバを飲み込んでしまう。カードを変えるなら今かもしれないという悪魔の囁きが聴こえた。
......ダメだ。絶対に変えない。こういう勝負ごとは迷った人間から先に落ちていく。同時に突っ張り過ぎた人間も。
押すか、引くかーーぼくは笑みを浮かべて首を縦に振って見せた。
勝負がコールされた。ぼくはカードを勢い良く机の上に置いた。
【続く】
ある種のジェットコースターからの落下のようで、しかももっといえば、そのままビルの屋上からジャンプするような、そんな焦燥感のようなモノがあった。
口許は震えていた。だが、それをことばにしてしまえば、あとは早いモノだ。時間の流れがスローになるのも、ほんの一瞬の話。
「ステイだ」
ステイーー即ち、カードの変更はなし、ということだ。このネイティブというゲームでは、カードを変更せずに様子を見ること、勝負に出ることをステイという。ネイティブは一度もやったことはなかったが、流石に教室にいると、その喧騒でどういう用語があって、それがどういう意味を持つかもわかってしまうというモノだ。
「へぇ、すごいね」関口は本当にそうは思っていないな、というトーンでいった。「初めてなのにステイとかわかるんだ」
「ずっと端から聞いていれば、それくらい覚えるよ」
「そうなのかもしれないね。でもーー」関口は怪しげに笑った。「それって本当はこのゲームがやりたかったってことなんじゃない? そうでもないと、こっちの話してる内容に何か興味も持たないよね?」
「興味がなかったといえばウソになるよ」ぼくは反発することなくいった。「だって、キミがずっと誘ってくるんだから。気にならないワケがないよね。それとも、これもキミの計画のひとつとでもいうのかな?」
「よくわかったね。ぼくもどうにかキミと勝負してみたいと思っててね。でも、やっぱ計画通りだったよ」
何が計画通りだ。結局、ぼくは色んなところから板挟みになって、その果てにここまで来るしかなかったんだ。こんなの、所詮は簡単な足し算、引き算にすぎない。
「まぁ、いいや」関口はいった。「なら、ぼくもステイで行こうかな」
不敵な笑みが光ったようだった。来る。関口のカードは13。負ける可能性のほうが圧倒的に高い。勝つには残りの1か2、その7枚を引いていなければならない。
突然、視界が引き締まったような感覚に陥った。きっと、頭が勝負へのスリルでどうにかしてしまったのだろう。吐き気がした。来る。息苦しく、無駄にツバを飲み込んでしまう。カードを変えるなら今かもしれないという悪魔の囁きが聴こえた。
......ダメだ。絶対に変えない。こういう勝負ごとは迷った人間から先に落ちていく。同時に突っ張り過ぎた人間も。
押すか、引くかーーぼくは笑みを浮かべて首を縦に振って見せた。
勝負がコールされた。ぼくはカードを勢い良く机の上に置いた。
【続く】