【そして青年はコヨーテとなる】

文字数 1,944文字

 さぁ、ラストだ。

 あらすじはいいよな。要約すれば二日間の舞台は成功に終わった、ってそんな感じだから。

 今日は、その後の話をする。まぁ、その後といっても打ち上げプラスアルファ程度なんだけど。じゃ、書いてくーー

 まるで夢のような時間だった。夢が終わっても熱は引くことなく、どこか夢見心地だった。

 が、現実は途端にやってくる。

 客出しを終え、ホールに戻ると、舞台装置の解体が始まっていた。

 終わったーーすべて終わったのだ。

 高揚感に入り交じった寂寥感。今、自分はここにいる。なのに、目の前の景色がとてつもなく遠く感じる。

 おれはもう、和雅を演じることはないのだ。

 ここまで一緒にすごしてきた「友人」がいなくなってしまったような喪失感。寂しくて仕方なかった。が、そんなことをいっている暇はない。片付けをしなければならない。

 片付けが終わったのは六時半くらいだった。おれは劇団員とともに五村市駅方面へと向かった。打ち上げ会場に行くためだ。

 打ち上げ会場である居酒屋に入ると、適当に座った。それからまもなくして打ち上げ幹事のショージさんが音頭を取って、乾杯となった。

 舞台後の酒は格別に美味かった。勝利の美酒、というのとはまた違うだろうが、何かを成し遂げた後の酩酊感も相まって、アルコールはおれをいい気分にさせたがーー

 心の底ではとてつもない喪失感が沈殿していた。

 楽しい気分なのはいうまでもなかった。だが、何かが醒めていた。目標をなくし、数ヶ月間をともにすごした友人をなくし、おれには何が残ったのだろうか。

 そう考えたら、急に虚しさが込み上げてきた。芝居をやり慣れてくるとその虚しさも感じなくなるのだが、初めての舞台で初めての当て役ともなると、思い入れはひとしおだった。

 酒を飲み参加者と談笑するが、こころの底では悲しみが広がっていた。

 打ち上げが終わり、二次会の誘いがあった。あおいに、行く?と訊ねられたが、おれはそれを断った。ひとりになりたかった。あおいに、二次会に行ってきなといい、おれは駅から遠ざかろうとした。

 歩いて五村のストリートを西に下っていく。市民会館前。会館はもう真っ暗だった。数時間前までは芝居の熱気があった市民会館も、今では泥の眠りを貪っていた。

 駐車場で何かが動いた。

 一瞬、何かと思ったが、闇に慣れたおれの目は、その存在の姿をしっかりと捉えていた。

 会館の駐車場に入っていった。そしてーー

「お疲れ様です」おれはいった。

「おぉ、打ち上げは? 終わったの?」ヒロキさんはいった。

 ヒロキさんは、舞台の後片付けもあって打ち上げには参加していなかった。おれは終わって、二次会に参加せずに帰って来たといった。

「何だ、二次会、行けばよかったのに」

 おれは曖昧に返事をはぐらかした。が、自分の中の感情が溢れ出す。おれはいった。

「ここまで本当にありがとうございました。今日まで頑張ってこれたのも、ヒロキさんのおかげだと思っています。本当に……」

 おれはことばを飲み込んだ。飲み込まざるをえなかった。目から涙が零れ、嗚咽が止まらなくなった。

「本当に、ありがとうございました……!」

 感情が崩壊した。おれは場所も憚らずに涙を流した。ヒロキさんは笑いながら、

「どうしたんだよ急に。泣くな、泣くな。でも、本当によく頑張ったな」

 おれは頷くことしかできなかった。

「まぁ、でもよかったよ」ヒロキさんは一瞬の間を置いてことばを紡ぐ。「今回、おれが持ってきた台本が候補になって、おれが演出やるっていっただろ? あれ、お前の芝居を見て本気でこの舞台を作ってみたいと思ったんだよ。でも、ヨシエの本でいい感じに芝居ができて本当によかったよ。こちらこそ、ありがとな」

 最高の褒めことばだった。初めて会ったときに見たおれの芝居に触発されて、演出をやる気になったなど、この上ない誉れだった。

 この数ヶ月間、楽しいこともあれば大変なこともあった。いや、総体的にいえば、後者のほうが比率的には上だろう。だが、ヒロキさんのひとことですべてが報われた気がした。本当に、やっててよかった。

「ほら、迎えが来てるぞ。さっさと帰りな」

 迎えといわれうしろを振り向くと、そこにはあおいがいた。あおいはーー

「やっぱ、二次会にいくの止めた。一緒に帰ろ」

 夜、暗闇に溶けた感情が火花のように弾けたーー

 はい、これにて『初舞台篇』終わりです。長かったな。まぁ、この話に関連したできごともあるっちゃあるんで、それは通常のエッセイとして投稿していくわ。

 とりあえず、最初から読んだ奇特なアナタ、本当に感謝するわ。ありがとうござんす。

 そしてまた、気兼ねなく芝居が楽しめる日々が戻ってくることを祈って、今日はーー

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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