【冷たい墓石で鬼は泣く~睦拾捌~】

文字数 1,091文字

 冷たい風が吹いていた。

 気づけばまた、冬になっていた。枯れ果てた木はまるでわたしそのモノだった。すべてを失ったように禿げた姿。そう、今のわたしには何もないーー何も残っていない。

 わたしは何も持たない身軽な姿に逆戻りしていた。だが、そのほうが気楽ではあった。わたしにはやはり二本差しは似合わない。わたしの腰には刀一本あればいい。

 荒れ果てた街道に吹く木枯らしに乗って、わたしは歩いていた。わたしは北に向かっていた。水戸から更に北、常陸のほうへ。そこを越えて更に北まで行こうかまでは考えていなかった。とにかく今は気が済むまで歩きたい気分だった。仮に銭が失くなったとしても、また何処かの街で剣術をやりながらやり過ごせればいいかぐらいにしか考えていなかった。まったく、行き当たりばったりなのは昔から変わっていないらしい。

 と、突然に何か嫌な感じがした。唐突に空気の音が途絶えるような不快な感じ。

 何かがいる。

 辺りを見渡した。身を隠すようなモノはこれといってなかった。気のせいだろうか。しかし、何か不快な感じがしたのだ。何か鳥肌が立つような不快感。

 荒野、とはいえない。わたしの通っている道を除けば草が無作法に伸びきっている。この違和感、まず間違いはないだろう。わたしは何かを見たのだ。それが何かは判別出来なかった。出来なかったが、イヤな感じがした。

 わたしは立ち止まることなく歩き続けたーー神経だけを研ぎ澄まして。

 一歩、二歩、三歩......、可能な限り違和感のないように歩く。ちょっとした動きが相手に悟られることがある。まぁ、そこに「誰か」がいればの話だが。

 歩幅も速さも変化はないはずだ。ただ、前にもうしろにも意識を張るのみ。

 何かキーンと音が聴こえるようだった。わたしの頭が作り出す錯覚だろうか。まるで意識が軋むような音だった。

 自分の足音が聴こえた。土を蹴り上げるガサツな音。それ以外は何もーー

 ガサッという音が聞こえた。

 わたしはうしろを振り返りながら刀を抜きつけ袈裟懸けに切りつけようとした。

 刀を止めた。

 そこにいたのは小さな少年だった。幽霊でも見たかのように表情を強張らせて立ちすくんでいた。わたしは少年から刀を外し納刀すると、少年の肩を持った。

「どうしたんだ?」

 わたしがそう訊ねると、少年は首を横に振った。恐らく恐怖で何もいえないのだろう。わたしがやったとはいえ、ちょっとばかりかわいそうに思えた。

「あまり人にイタズラするモンじゃない。いいかい?」

 そう訊ねると少年は首を縦にブンブン振ってわたしの行こうとしていた北のほうへと走って行った。

 ハッとした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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