【冷たい墓石で鬼は泣く~漆拾玖~】
文字数 589文字
冷たい風にみすぼらしい姿は、その姿をよりみすぼらしく見せた。
わたしが投げた握り飯の欠片。オオカミの頭はそれのにおいを嗅いでいた。かと思えば、わたしのほうを真っ直ぐ見た。鋭い視線は刀の切先のようだった。わたしは刀を突き付けられた気分になりつつも、強張った頬を弛ませようとした。そうすると不自然な声が漏れ出して来た。それは笑い声のようでもありながら、ため息のようでもあった。
オオカミの頭はわたしのことをじっと見ていた。わたしはそれに不自然な笑みで返すことしか出来なかった。唸ってはいなかった。彼は唸ってはいなかった。わたしのことを威嚇はしていないーーそう信じたかった。だが、自分の信じたいことを信じては足を取られる。大切なのは今そこにある現実だ。
わたしは尚も彼のことを見続けた。
ふと彼はわたしから目を外した。そして、また握り飯に目をやっていた。今度は握り飯をじっと見ていた。モノ欲しそうだった。
風の音だけが静かに響いていた。
と、彼は握り飯の欠片にほんの少しだけパクついた。それから危なくないと思ったのか、うしろに向かって吠えた。するとうしろに控えていたオオカミたちがこちらに歩いて向かって来た。それを見た時、わたしは思わずビクッとしたが、襲うならもっと早いだろうと自分を安心させようとした。
仲間たちはわたしたちのもとへやって来るとシッポを振って佇んでいた。
【続く】
わたしが投げた握り飯の欠片。オオカミの頭はそれのにおいを嗅いでいた。かと思えば、わたしのほうを真っ直ぐ見た。鋭い視線は刀の切先のようだった。わたしは刀を突き付けられた気分になりつつも、強張った頬を弛ませようとした。そうすると不自然な声が漏れ出して来た。それは笑い声のようでもありながら、ため息のようでもあった。
オオカミの頭はわたしのことをじっと見ていた。わたしはそれに不自然な笑みで返すことしか出来なかった。唸ってはいなかった。彼は唸ってはいなかった。わたしのことを威嚇はしていないーーそう信じたかった。だが、自分の信じたいことを信じては足を取られる。大切なのは今そこにある現実だ。
わたしは尚も彼のことを見続けた。
ふと彼はわたしから目を外した。そして、また握り飯に目をやっていた。今度は握り飯をじっと見ていた。モノ欲しそうだった。
風の音だけが静かに響いていた。
と、彼は握り飯の欠片にほんの少しだけパクついた。それから危なくないと思ったのか、うしろに向かって吠えた。するとうしろに控えていたオオカミたちがこちらに歩いて向かって来た。それを見た時、わたしは思わずビクッとしたが、襲うならもっと早いだろうと自分を安心させようとした。
仲間たちはわたしたちのもとへやって来るとシッポを振って佇んでいた。
【続く】