【ナナフシギ~伍拾弐~】
文字数 1,055文字
徒労に終わることほど虚しいモノはない。
頑張って何かをやっても、それがまるで泡のように弾けて虚しく消えてしまえば、すべてが無駄だったと思えてしまうだろう。
弓永の表情はまるで目の前で泡が弾けたかのようになっていた。ここまで石川先生を探して歩き回り、時に苦境に立たされたというのに、それまでの出来事がすべて水の泡になるのかといわんばかりだった。
静寂がこだました。
「......さすが、よくわかったねぇ」石川先生は突然笑い出した。「どうしてわたしが石川じゃないってわかった?」
そのひとことで森永はハッとした。が、弓永は自分の勘が当たったと思ったか真剣な表情を崩すことなく真っ直ぐに石川先生の姿をしたそれに向き合っていた。
「え......!?」森永が口を開いた。「ウソだよな、先生ぇ!」
「ウソ?」石川先生の姿をしたそれはいった。「その子のいう通りだよ。わたしは石川何かじゃない。わたしは人魚だよ」
「やっぱりな」弓永はため息混じりにいった。「さっさと姿を見せろ」
緊張がピンと糸を張ったように空気を引き締めた。人魚と名乗った石川先生はニヤリとしたまま弓永と森永のことを見詰めていた。
と、突然、石川先生は笑いだした。
その笑い方に不敵さは一切なく、むしろ面白くて仕方がないとでもいわんばかりだった。人間味のあるその笑い方に森永と弓永は呆気に取られた。弓永は声を荒げた。
「何が可笑しいんだ!」
が、石川先生は笑うのをやめない。漸く余裕が出来たか、石川先生はゆったりとことばを紡ぎ始めた。
「いやぁ、ごめんゴメン。あんまり真剣にそんなこといわれたモンだからちょっとからかいたくなっちゃって。アナタたちのことを忘れるワケがないでしょ? 出席番号35番の弓永くんに32番の森永くん」
「え、じゃあ......」森永は完全に困惑しきっていた。「先生は本物......?」
「そうだよ。でも、ここまでにあったことを覚えてないのはほんとだけどね。うん、職員室で仕事してたことは覚えてるんだけど」
「......何だよ驚かせんなよ。ほら、弓永、考え過ぎだったんだよ」
だが、弓永は何もいわない。ただ、不満とショックが入り交じったような複雑な表情をしながら、じっと立ち竦むばかりだった。
「ウソついてゴメンね。でもーー」
「わかったよ」弓永はいった。「そんなことはいいから、さっさとここを出よう。時間、ないんだしさ」
弓永はそのままプールを後にしようとした。森永が弓永に呼び掛けるが、弓永は止まろうとしなかった。
夜はまだ深かった。
【続く】
頑張って何かをやっても、それがまるで泡のように弾けて虚しく消えてしまえば、すべてが無駄だったと思えてしまうだろう。
弓永の表情はまるで目の前で泡が弾けたかのようになっていた。ここまで石川先生を探して歩き回り、時に苦境に立たされたというのに、それまでの出来事がすべて水の泡になるのかといわんばかりだった。
静寂がこだました。
「......さすが、よくわかったねぇ」石川先生は突然笑い出した。「どうしてわたしが石川じゃないってわかった?」
そのひとことで森永はハッとした。が、弓永は自分の勘が当たったと思ったか真剣な表情を崩すことなく真っ直ぐに石川先生の姿をしたそれに向き合っていた。
「え......!?」森永が口を開いた。「ウソだよな、先生ぇ!」
「ウソ?」石川先生の姿をしたそれはいった。「その子のいう通りだよ。わたしは石川何かじゃない。わたしは人魚だよ」
「やっぱりな」弓永はため息混じりにいった。「さっさと姿を見せろ」
緊張がピンと糸を張ったように空気を引き締めた。人魚と名乗った石川先生はニヤリとしたまま弓永と森永のことを見詰めていた。
と、突然、石川先生は笑いだした。
その笑い方に不敵さは一切なく、むしろ面白くて仕方がないとでもいわんばかりだった。人間味のあるその笑い方に森永と弓永は呆気に取られた。弓永は声を荒げた。
「何が可笑しいんだ!」
が、石川先生は笑うのをやめない。漸く余裕が出来たか、石川先生はゆったりとことばを紡ぎ始めた。
「いやぁ、ごめんゴメン。あんまり真剣にそんなこといわれたモンだからちょっとからかいたくなっちゃって。アナタたちのことを忘れるワケがないでしょ? 出席番号35番の弓永くんに32番の森永くん」
「え、じゃあ......」森永は完全に困惑しきっていた。「先生は本物......?」
「そうだよ。でも、ここまでにあったことを覚えてないのはほんとだけどね。うん、職員室で仕事してたことは覚えてるんだけど」
「......何だよ驚かせんなよ。ほら、弓永、考え過ぎだったんだよ」
だが、弓永は何もいわない。ただ、不満とショックが入り交じったような複雑な表情をしながら、じっと立ち竦むばかりだった。
「ウソついてゴメンね。でもーー」
「わかったよ」弓永はいった。「そんなことはいいから、さっさとここを出よう。時間、ないんだしさ」
弓永はそのままプールを後にしようとした。森永が弓永に呼び掛けるが、弓永は止まろうとしなかった。
夜はまだ深かった。
【続く】