【一年三組の皇帝~伍拾睦~】
文字数 625文字
何とも薄暗く寒々しい感じだった。
ドア一枚挟んだ先はーーまぁ、今日は雨だからそんなことはないけれど、いつもなら明るい日差しがあるというのに、ここは暗かった。恐らく今日はいつも以上に暗いだろう。
屋上前の踊り場に着くと、辻は大きく息をついてドアとは反対にある手すりの壁に寄り掛かって座り込んだ。
「何だよ?」
ぼくが訊ねても辻はぼくを一瞥したかと思えば、そのまま天井を見上げて黙り込んでしまった。何とも無防備な姿だった。逃げようと思えば簡単に逃げられるだろうし、不意打ちを加えれば簡単に倒せてしまうだろう。
でも、そんな姿をぼくに晒して何だというのだろう。そんなに余裕があるということなのか。殴り合いならまず負けないという自信ーーまぁ、昔空手をやっていたらしいし、それは間違いなくあるだろうけどーーか、自分が動かなくてもどうにでもなるという思いがあるのだろうか。例えば、階段下で誰かが見張っているだとかーー
「誰もいねえよ」
ぼくが階段のほうを振り返ると辻はいった。たったこれだけの動きでぼくが何を考えているかを呼んだのは見事だった。
「よくわかったな」ぼくは特に気持ちを込めずにいった。「で、何の用なんだよ。長谷川先生のことを持ち出しておれを誘き寄せて、何かおれに用があんだろ?」
その深意は何となくはわかっていた。だが、それを汲み取ってやるほどの情はなかった。辻はゆっくりとぼくを見た。何とも弱々しい表情だった。
次の瞬間、ぼくはハッとした。
【続く】
ドア一枚挟んだ先はーーまぁ、今日は雨だからそんなことはないけれど、いつもなら明るい日差しがあるというのに、ここは暗かった。恐らく今日はいつも以上に暗いだろう。
屋上前の踊り場に着くと、辻は大きく息をついてドアとは反対にある手すりの壁に寄り掛かって座り込んだ。
「何だよ?」
ぼくが訊ねても辻はぼくを一瞥したかと思えば、そのまま天井を見上げて黙り込んでしまった。何とも無防備な姿だった。逃げようと思えば簡単に逃げられるだろうし、不意打ちを加えれば簡単に倒せてしまうだろう。
でも、そんな姿をぼくに晒して何だというのだろう。そんなに余裕があるということなのか。殴り合いならまず負けないという自信ーーまぁ、昔空手をやっていたらしいし、それは間違いなくあるだろうけどーーか、自分が動かなくてもどうにでもなるという思いがあるのだろうか。例えば、階段下で誰かが見張っているだとかーー
「誰もいねえよ」
ぼくが階段のほうを振り返ると辻はいった。たったこれだけの動きでぼくが何を考えているかを呼んだのは見事だった。
「よくわかったな」ぼくは特に気持ちを込めずにいった。「で、何の用なんだよ。長谷川先生のことを持ち出しておれを誘き寄せて、何かおれに用があんだろ?」
その深意は何となくはわかっていた。だが、それを汲み取ってやるほどの情はなかった。辻はゆっくりとぼくを見た。何とも弱々しい表情だった。
次の瞬間、ぼくはハッとした。
【続く】