【残光~弐~】
文字数 1,149文字
山田和雅ーー自分の名前が入った卒業証書をおれは破り捨てた。
何重にも破り破って、自治体から近づくなといわれた海の潮風に乗せて捨ててしまった。
大学など、おれにとってはいい記憶はこれっぽっちもなかった。友人なんて、いたようでいなかったようなモノだった。とはいえ、おれを助けてくれた人はちゃんといた。
この時のおれはまだ芝居なんてしたことはなく、代わりにバンドでボーカリストをやっていたが、それも大学三年の時に一時期辞めていた。理由は人間関係の不和。やる気があるんだかないのだかわからないバンドのメンバーにはウンザリだった。
ヘラへラした笑み。おれはヤツラに絶縁状を叩きつけてバンドを解散させてやった。もうヤツラとも、バンドの関係者とも関わらなくて済むと考えると解放感に満ちていた。おれはもう人前に立つことも、それで評価され嘲笑されることも、面倒な人間関係もすべて無縁なのだ。あばよ、ゴミどもーーそういってヤツラ全員を嘲笑してやりたかった。
だが、それはおれの孤独の始まりに過ぎなかった。翌日からというモノ、おれは大学で殆どひとりになった。
バンド関係者も多く通っていた大学にて、おれの交遊関係は学科で仲のいいヤツふたりと実験やなんかで交流のある知り合い数人だけとなってしまった。
彼らとの仲は良好といえば良好だが、そこまで深入りするような仲でもなかった。つまり、授業が終わればその場でバイバイ。飲み歩くこともなくなったし、とても経済的な生活をしていたといって良かった。
だが、同時におれは自室という監獄の中に囚われた囚人とも化した。
監獄とはいえ別に出て来れないワケではなかった。室内ではネットも繋げるしテレビも映画も観れるし、音楽だって自由に聴ける。だが、おれの精神は孤独という深海の中へと沈んで行く一方だったーー
ふたりいた学科の友人のひとりはバンド時代の友人でもあった。バンドの時の人間関係は完全には絶たず、ソイツーーシンジとだけは交流を持ち続けた。バンド関係者のことは基本的にキライになっていたが、シンジだけは唯一キライではなかった。
シンジは一見するとあまりバンドをやっているようには見えないタイプだった。自己主張もせず、かなり控え目で初対面の人と会話するのも困難な感じなほどだった。仲が良くなればそれなりには話せるのだが、入り口がまず開いていない、とそんな感じだった。
だが、おれは同じ学科ということもあって、シンジとはよく話す間柄になっていた。そして、シンジはそのネガティブな姿勢とは裏腹にとんでもないベースの腕を持っていることもわかった。
そんなシンジがいたこともあって、おれは決してひとりではなかった。
だが、おれはより深入り孤独の闇へと足を踏み入れることとなったのだ。
【続く】
何重にも破り破って、自治体から近づくなといわれた海の潮風に乗せて捨ててしまった。
大学など、おれにとってはいい記憶はこれっぽっちもなかった。友人なんて、いたようでいなかったようなモノだった。とはいえ、おれを助けてくれた人はちゃんといた。
この時のおれはまだ芝居なんてしたことはなく、代わりにバンドでボーカリストをやっていたが、それも大学三年の時に一時期辞めていた。理由は人間関係の不和。やる気があるんだかないのだかわからないバンドのメンバーにはウンザリだった。
ヘラへラした笑み。おれはヤツラに絶縁状を叩きつけてバンドを解散させてやった。もうヤツラとも、バンドの関係者とも関わらなくて済むと考えると解放感に満ちていた。おれはもう人前に立つことも、それで評価され嘲笑されることも、面倒な人間関係もすべて無縁なのだ。あばよ、ゴミどもーーそういってヤツラ全員を嘲笑してやりたかった。
だが、それはおれの孤独の始まりに過ぎなかった。翌日からというモノ、おれは大学で殆どひとりになった。
バンド関係者も多く通っていた大学にて、おれの交遊関係は学科で仲のいいヤツふたりと実験やなんかで交流のある知り合い数人だけとなってしまった。
彼らとの仲は良好といえば良好だが、そこまで深入りするような仲でもなかった。つまり、授業が終わればその場でバイバイ。飲み歩くこともなくなったし、とても経済的な生活をしていたといって良かった。
だが、同時におれは自室という監獄の中に囚われた囚人とも化した。
監獄とはいえ別に出て来れないワケではなかった。室内ではネットも繋げるしテレビも映画も観れるし、音楽だって自由に聴ける。だが、おれの精神は孤独という深海の中へと沈んで行く一方だったーー
ふたりいた学科の友人のひとりはバンド時代の友人でもあった。バンドの時の人間関係は完全には絶たず、ソイツーーシンジとだけは交流を持ち続けた。バンド関係者のことは基本的にキライになっていたが、シンジだけは唯一キライではなかった。
シンジは一見するとあまりバンドをやっているようには見えないタイプだった。自己主張もせず、かなり控え目で初対面の人と会話するのも困難な感じなほどだった。仲が良くなればそれなりには話せるのだが、入り口がまず開いていない、とそんな感じだった。
だが、おれは同じ学科ということもあって、シンジとはよく話す間柄になっていた。そして、シンジはそのネガティブな姿勢とは裏腹にとんでもないベースの腕を持っていることもわかった。
そんなシンジがいたこともあって、おれは決してひとりではなかった。
だが、おれはより深入り孤独の闇へと足を踏み入れることとなったのだ。
【続く】