【新天地、天地無用で空が落ち】

文字数 2,819文字

 引っ越しというのはドキドキわくわくだ。

 いい年こいて何いってるんだって話になりそうだけど、やはり引っ越しがちょっとしたイベントごとであるのはいうまでもない。

 いや、ちょっとしたどころの話ではないな。むしろ、新しい土地へ赴くというのは大変なことで、ちょっとやそっとの問題ではない。

 かくいうおれも過去何度か引っ越しをしているのだけど、やはり新しい土地へ行くと楽しいこともあれば、大変なこともある。

 特にそれが、まだ右も左もわからないようなガキの時は困ることが多くなりがちだ。

 まぁ、人間、そういう経験から色んなことを学んでいくと考えれば、それはそれでいいのだけど、もし、そんな中で大きなトラブルに遭遇してしまったら、果たしてどうする?

 というワケで今日はそんな引っ越しに纏わる話をしていこうかと思うーー

 あれは大学入学前のことだった。その頃は高校も卒業し、大学の関係で新天地へと引っ越しすることとなっていたのだ。

 とはいえ、引っ越しというのもこの時点では殆ど初めての経験だった。

 まぁ、小学生の時にもちょこっと引っ越ししたことがあるのだけど、それも家を建て替えるってんで、近所のアパートにちょっと引っ越しただけで、それだと引っ越したというにはちょっと弱いんよね。それはさておきーー

 引っ越しの日時は大学入学の二日前だった。おれは持ち物を送るために引っ越し業者を頼もうかとも思ったのだけど、そういったら父に、

「引っ越しで金掛ける必要なんかない。そこまでたくさんのモノを持っていくワケじゃないんだから、おれの車で運べばいい」

 といわれ、おれもそれに甘えることにしたのだ。まぁ、父にはそれも含め色々と世話になりっぱなしで、そこら辺の話もまた後々出てくるかもしれないけど、それは追々ーー

 実家にて荷物をまとめて車に詰め込む。家具とかはどうしたのか、ということに関しては後で詳しく話すけど、それ以外でいえば大学生のひとり暮らし用の荷物なんてたかが知れた程度で、私物から生活用品まですべて積み込んでもまだスペースに余裕があるくらいだった。

 最後、住み慣れた自室と家に別れを告げ、おれは父の車に乗り込んだ。

 車内では特にこれといった会話はない。別に今生の別れというワケでもないし、必要に迫られて話すこともなかった。

 数時間して新居のある某県の県庁所在地まで着いた。そのまま管理会社へ行き新居の鍵を受け取り、新居へと向かった。

 新居は清潔感のあるアパートで、おれの部屋は二階の角部屋という最高の位置だった。

 室内はひとつの大きなダンボール以外はまっさらで何もなかった。部屋の隅に不自然に置かれていたダンボールではあったが、特に不思議には思わなかった。

 というのも、大学近辺で学生がたくさん住むことを想定してか、アパートの管理会社が学生応援キャンペーンのような企画を行っており、入居の契約をした時点でひとり暮らし用の生活用品を会社のほうからプレゼントしてくれると聴いていたからだ。

 中身は後で確認するとして、取り敢えずは自分の荷物を部屋に運び込まなくてはならない。

 おれは車と部屋を何往復もして自分の荷物を運び込み、すべての荷物を運び終えると一緒について来ていた両親も帰り、とうとうおれのひとり暮らしが幕を開けたワケだ。

 といっても、おれが始めにやるべきことは、運び込んだ荷物を整理整頓することだった。

 取り敢えず、まずはコンポをセットし、音楽を掛けて気分を盛り立てつつ作業することに。

 やはり好きな音楽を聴きながらだと作業も捗った。調理器具から食器等の飲食道具、掃除用具、自分の趣味のアイテムを持ち込んだダンボールから取り出して室内に配置していく。

 作業がすべて済んだのは、作業開始から二時間ほどしてからだった。やっと終わった。ホッとひと息ついて部屋に備え付けられたテーブルに着いた。ちなみに荷物が少なかったのは、一部の家具が備え付けだったお陰だったりする。

 テーブルに着いてリラックスしていると、ふと部屋の端に置いてあったダンボールに目が留まった。そう、

 管理会社から贈られた生活用品だ。

 取り敢えず中身を確かめるか。そう思い、おれはカッターでダンボールの封を切った。

 中にはちょっとした鍋から洗濯用具まで、ひとり暮らしを始めるには心強いグッズがたくさん入っていた。

 いやぁ、ありがたい。そんな風に思いつつ、一度ダンボールを閉じたのだが、そこでおれはあることに気づいてしまった。というのもーー

 宛名がおれの名前ではなかったのだ。

 どういうこと?

 おれは足りない頭で考えた。確かにおれの本名はシンプルなクセに漢字の読みがトリッキーでよく間違われるのだけど、にしても可笑しい。何故かといえば、

 苗字すら合っていなかったからだ。

 もっというと、宛名の名前は女性のモノだったのだ。

 そこでおれはわかってしまった。そう、これはシンプルに管理会社側のミスだ。恐らくこの宛名の女性に送るはずだった荷物をおれの部屋に間違って送ってしまったのだろう。

 しかし、困ったのは荷物を開封してしまったことだ。いくら自分の部屋にあったとはいえ、人の荷物だ。勝手に中身を改めるというのは何かと問題がある。正直、ちょっと焦ったよな。

 ただ、このまま黙っていたら逆にマズイだろう。おれは新居に入って二時間程度にも関わらず、管理会社に電話することとなった。

 電話のコール音が十三階段を一段ずつ昇っていく音のように思えた。電話が繋がった。おれはしどろもどろになりつつも事情を説明した。

「あの、今日◯◯の××室に入居した五条という者ですが、室内に置いてあった学生応援キャンペーンの荷物のことなんですが」

「え?」電話の向こうの女性職員がいった。「それなら、まだ発送してませんよ?」

 どういうことだってばよ……。

 もはやワケがわからず、どうしようもなかったのだけど、おれは今自分が陥っている状況を説明した。

「ーーこんな感じなんですけど、この別の人宛の荷物はどうすればいいでしょうか?」

「なるほど……。少々お待ち下さい」キーボードを叩く音。「ーーどうやら、五条様が入居される前にひとり入居予定だった方がいまして、その方が宛名にある名前の方なのですが、入居前にキャンセルになられたようで……」

 そんなことあるのか、とおれは驚いた。

「そうでしたか……。で、この荷物はどうすればいいでしょうか?」

 おれは訊ねた。が、女性職員からの返答は、

「そのまま使っちゃって下さい」

 随分と軽いな。

 が、女性職員がいうには、これから送り返すのも手間だし、会社側のミスだからそのまま使って欲しいとのことだった。

 そんなこともあるんだな。こうしておれは初めてのひとり暮らしの洗礼を受けたのだった。結局、貰った荷物は四年間ありがたく使わせて貰いました。本当に助かったわ。

 引っ越しにトラブルはつきもんよね。

 アスタラビスタ。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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