【明日、白夜になる前に~漆拾睦~】

文字数 1,056文字

 真っ白な蛍光灯が冷たく光る。

 たまきとの再会の時が思い起こされる。だが、あの時とはまた状況が違う。ただ、この何かが沸き立つような気持ちの悪い緊張感は変わらない。

 ぼくは今、何の憎しみも抱いていない。たまきの時はさすがにその因果というか、因縁めいたモノがあったこともあって怒りと憎しみは少なからず存在したが、今から会おうとしている相手にはそんな感情はない。

 ぼくは今、雪のように白いイスに座っている。不思議とその表面も冷たく感じられるのは、この空気感のせいだろうか。

 ぼくは寒さを堪え忍ぶように肩をすぼめて待っていた。身体が震えるようなこの感覚は寒さに依るものではない。不安、緊張。ぼくはその時を待つ。

 奥のドアが開く。と、アクリルの壁を挟んだその向こうにいるのは、

 カスミーーいや、里村鈴美だった。

 彼女は随分とやつれた印象だった。それもそうだろう。監禁や暴行といった事件の犯人でありながら、カスミというもうひとつの人格によって支配されていたことを考えてみれば、それが如何に精神の負担になるかはわかるだろう。

 里村さんーーいや、今はカスミだろうか。彼女はぼくの目の前に座る。ぼくのほうを見ようともせずに。ただ、その目の色を見れば、それが誰だかは一目瞭然だった。ぼくは彼女に微笑み掛ける。

「里村さん、だね」

 ぼくのことばに里村さんは何の反応も見せない。だが、その悲しげで寂しげな表情が、彼女が彼女であると告げているようだった。

「元気かな?」

 ぼくの質問に対して彼女は軽く、うんと答えた。それから、

「ごめんね......」と彼女は力なく答える。

「全然。それより、最近はカスミさんのほうは出てくるの?」

 彼女はぼくのいっている意味がよくわかっていない様子だった。ぼくも一瞬彼女が何を考えているのかわからなかったが、その意味にすぐに気づいた。ぼくは思わず笑い、彼女に説明した。

「......あぁ、アナタの中にいるもうひとりの人格だよ」

「......そうなんだ。名前、本人から訊いたの?」

「いや、名前がないと不便だから、ぼくがつけた」

 そのあまりにもマヌケな発言が彼女のこころを震わせたのか、里村さんはフフッと笑って見せた。

「何それ」

「だって、いちいち『キミ』だとか『アナタ』とかっていうのも変だろ?」

「あんま初対面の人とかの名前って呼ばなくない?」

「まぁ、そうかもしれないけど、でも見た目はどう見たって里村さんなんだから、ぼくだって混乱するじゃん」

「ふふ、それもそうだね」

 白い光に幾ばくかの暖かみが差した。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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