【冷たい墓石で鬼は泣く~百壱~】
文字数 653文字
冷たかった。
顔にひんやりとした何かが大量に掛かった。わたしは意識を取り戻した。どうやら眠っていたらしい。やはり眠りが足らなかったのかもしれない。記憶にあるのは、あの村の姿をした元盗賊の集落にてオオカミたちに囲まれて脚に顔を擦り付けられ、随分と懐かれてしまったらしい、ということだった。
それから、わたしは血生臭い村を後にして街道を歩いていたのだ。とはいえ、冬の夜ともなると身体が冷えてただ歩くのもしんどかった。脚はそれまで歩いた分だけ疲れ、戦った分だけ骨が軋んでいた。肉も強張り、もはや歩くのもままならなかった。休めば良かったのかも知れなかったが、流石に人が大量に血を流して倒れている集落では床につけないし、死人の蓄えていたメシを貪るというのも何だか気が進まなかった。
だからこそ、わたしはオオカミたちと別れ、集落を出た。オオカミたちはわたしについて来ようとしたが、流石に何処までもついて来るのはよろしくない。人によってはわたしがオオカミに狙われているとも思いかねないし、何より、彼らは彼らの世界で生きるべきだった。だからこそ、わたしは彼らに伝わるかわからないことばを掛けて、その場を後にした。彼らはみな、シッポを振りながらわたしを一直線に見詰めていた。かわいいオオカミたちとの別れは辛かったが、それも仕方のないことだった。
それからーー多分、何処かで意識を失い倒れたのだろう。しかし、漸くわたしは意識を取り戻した。わたしはゆっくりと目を開けた。
武田藤十郎ーー坊っちゃんの顔がそこにあった。
【続く】
顔にひんやりとした何かが大量に掛かった。わたしは意識を取り戻した。どうやら眠っていたらしい。やはり眠りが足らなかったのかもしれない。記憶にあるのは、あの村の姿をした元盗賊の集落にてオオカミたちに囲まれて脚に顔を擦り付けられ、随分と懐かれてしまったらしい、ということだった。
それから、わたしは血生臭い村を後にして街道を歩いていたのだ。とはいえ、冬の夜ともなると身体が冷えてただ歩くのもしんどかった。脚はそれまで歩いた分だけ疲れ、戦った分だけ骨が軋んでいた。肉も強張り、もはや歩くのもままならなかった。休めば良かったのかも知れなかったが、流石に人が大量に血を流して倒れている集落では床につけないし、死人の蓄えていたメシを貪るというのも何だか気が進まなかった。
だからこそ、わたしはオオカミたちと別れ、集落を出た。オオカミたちはわたしについて来ようとしたが、流石に何処までもついて来るのはよろしくない。人によってはわたしがオオカミに狙われているとも思いかねないし、何より、彼らは彼らの世界で生きるべきだった。だからこそ、わたしは彼らに伝わるかわからないことばを掛けて、その場を後にした。彼らはみな、シッポを振りながらわたしを一直線に見詰めていた。かわいいオオカミたちとの別れは辛かったが、それも仕方のないことだった。
それからーー多分、何処かで意識を失い倒れたのだろう。しかし、漸くわたしは意識を取り戻した。わたしはゆっくりと目を開けた。
武田藤十郎ーー坊っちゃんの顔がそこにあった。
【続く】