【一年三組の帝王~伍~】
文字数 1,314文字
監禁の次は拉致、そう聴くと深刻な犯罪のにおいがする。
ここ数回、ぼくはよくわからない運命に振り回され続けているのだけど、今日もそんな話ーーと、こんな風に誰かに説明というか、今の自分の状況を実況するように立ち回らないとやっていられないというのが本音だった。
さて、ぼくが今いるのは教室から出てすぐそこにある階段、そのそばにあるちょっとしたスペースだった。逃げ切れたワケでは断じてない。というのも、ぼくの目の前には岩浪先輩というメガネを掛けた地味系女子がいる。どういうワケか岩浪先輩は、ぼくを教室から連れ出してここまで誘導してきた。その理由はさっぱりわからなかった。彼女の目は何を考えているかわからないほどに細く何処か無機質に見えた。先に話を切り出したのは岩浪先輩だった。
「あそこで何をしてた?」
岩浪先輩のことばは冷えきっていた。だが、その割にはぼくを逃げられる場所まで誘導するとは。もはや何もかもがわからなかった。
「何をというか......」
ことばに詰まった。だが、岩浪先輩の目はまるでぼくを問い詰めるようにスキがなかった。にしても、先輩はどこでぼくのことをお知ったのだろう。それに冷たい態度とはいえ、その中で微かながらぼくをお庇おうとしているようにも思えた。ぼくの都合のいい思い込みだろうか。ぼくはその可能性に賭けてみることにし、ひと息ついてから再び口を開いた。
「教室の中でひとりが数人に問い詰められているところを見てしまって。そこを長野さんの見られた、そんな感じです」
「なるほど、な......」岩浪先輩は一瞬うつむいたかと思うと、今度はナイフの切っ先のように鋭い視線でぼくを見ていった。「下手なことは喋ってないだろうな?」
ぼくは呆然とした。そして、訊ね返した。
「下手なことって何ですか......?」
「生安の活動のことだ」
生安の活動について?ーーそんなこというはずがない。だが、しかしそんなことを訊ねるということは、もしかして......。
「もちろん喋ってないですけど、先輩もしかして......」
「もしかしてわたしのこと、覚えてないのか?」
ぼくは恥ずかしくも首を縦に振った。岩浪先輩はため息をつき、声をいっそう潜めていった。
「わたしが生活安全委員の副委員長だ」
やはりと思いつつもドキッとした。まさかこんなところで副委員の先輩と出会うなんて。そういえば、初回の集まりは緊張で人の顔と名前を確かめる余裕もなく、二回目は辻たちにボコボコにされたケガでヤエちゃんから出席を免除されたのだった。そりゃ覚えてなくて当然だろう。
しかし、ここで問題がひとつ。だとしたら、先輩はあのワケのわからない集まりと何の関係があるのだろうか。まさか、学校の治安を守るための委員の副委員がイジメに荷担している、そういうことか? ぼくは恐る恐る訊ねた。
「で、あの......、あの教室の女子たちは?」
「先輩、大丈夫ですか?」いずみが教室から顔を出して訊ねてきた。
「あぁ、大丈夫だ。それより、新入部員が入ったぞ」
いずみは唖然とした表情。ぼくは驚きで顔が引きつっていた。新入部員、一体何の。ぼくはまたもや運命に翻弄されるのだった。
【続く】
ここ数回、ぼくはよくわからない運命に振り回され続けているのだけど、今日もそんな話ーーと、こんな風に誰かに説明というか、今の自分の状況を実況するように立ち回らないとやっていられないというのが本音だった。
さて、ぼくが今いるのは教室から出てすぐそこにある階段、そのそばにあるちょっとしたスペースだった。逃げ切れたワケでは断じてない。というのも、ぼくの目の前には岩浪先輩というメガネを掛けた地味系女子がいる。どういうワケか岩浪先輩は、ぼくを教室から連れ出してここまで誘導してきた。その理由はさっぱりわからなかった。彼女の目は何を考えているかわからないほどに細く何処か無機質に見えた。先に話を切り出したのは岩浪先輩だった。
「あそこで何をしてた?」
岩浪先輩のことばは冷えきっていた。だが、その割にはぼくを逃げられる場所まで誘導するとは。もはや何もかもがわからなかった。
「何をというか......」
ことばに詰まった。だが、岩浪先輩の目はまるでぼくを問い詰めるようにスキがなかった。にしても、先輩はどこでぼくのことをお知ったのだろう。それに冷たい態度とはいえ、その中で微かながらぼくをお庇おうとしているようにも思えた。ぼくの都合のいい思い込みだろうか。ぼくはその可能性に賭けてみることにし、ひと息ついてから再び口を開いた。
「教室の中でひとりが数人に問い詰められているところを見てしまって。そこを長野さんの見られた、そんな感じです」
「なるほど、な......」岩浪先輩は一瞬うつむいたかと思うと、今度はナイフの切っ先のように鋭い視線でぼくを見ていった。「下手なことは喋ってないだろうな?」
ぼくは呆然とした。そして、訊ね返した。
「下手なことって何ですか......?」
「生安の活動のことだ」
生安の活動について?ーーそんなこというはずがない。だが、しかしそんなことを訊ねるということは、もしかして......。
「もちろん喋ってないですけど、先輩もしかして......」
「もしかしてわたしのこと、覚えてないのか?」
ぼくは恥ずかしくも首を縦に振った。岩浪先輩はため息をつき、声をいっそう潜めていった。
「わたしが生活安全委員の副委員長だ」
やはりと思いつつもドキッとした。まさかこんなところで副委員の先輩と出会うなんて。そういえば、初回の集まりは緊張で人の顔と名前を確かめる余裕もなく、二回目は辻たちにボコボコにされたケガでヤエちゃんから出席を免除されたのだった。そりゃ覚えてなくて当然だろう。
しかし、ここで問題がひとつ。だとしたら、先輩はあのワケのわからない集まりと何の関係があるのだろうか。まさか、学校の治安を守るための委員の副委員がイジメに荷担している、そういうことか? ぼくは恐る恐る訊ねた。
「で、あの......、あの教室の女子たちは?」
「先輩、大丈夫ですか?」いずみが教室から顔を出して訊ねてきた。
「あぁ、大丈夫だ。それより、新入部員が入ったぞ」
いずみは唖然とした表情。ぼくは驚きで顔が引きつっていた。新入部員、一体何の。ぼくはまたもや運命に翻弄されるのだった。
【続く】