【ごむリン養成ギプス】
文字数 2,271文字
サイズの合わない服を着るとマヌケに見えてしまいがちだ。
確かにヒップホッパーがブカブカの服を着たり、マッチョがパツパツのシャツを着たりすることはあるけど、それはまた別の話になる。
前者はシンプルに文化的な基盤があり、それに乗っ取った上で、かつ本物がするからこそカッコよく決まる。後者はそれだけ筋肉があれば例えシャツがパツパツでも筋肉が強調されて逆にカッコよく見えるというワケだ。
確かに上のふたつのパターンも個人の価値観次第でダサくも見えることもあるだろうけど、基本的に上のふたつとただ単に服のサイズが合っていないのではまた意味が変わってくる。
かくいうおれは体重の増減が激しいこともあって、よく服のサイズが合わなくなる。
それは脂肪が増えることもあれば、筋肉が増えることもあって、服のサイズが合わなくなることが多いということだ。
まぁ、とはいえそれも筋肉でパツパツみたいな扱いになりがちなんでまだいいんだけど、本当に問題になるのは筋肉は関係なしにサイズが合わなくなることだ。
そもそもサイズが合っていなかったらキツキツ、或いはブカブカで動きづらいこともあるだろう。プラス機能面だけでなく、他者から見ても野暮ったく見えるし、良いことはない。
さて、『ごむリン篇』です。あらすじーー
『ごむリンの着ぐるみを着てみたはいいが、頭が重くてバランスを取るのが非常に難しいことに気づいてしまった五条氏。果たして、何とかなるのだろうか!?』
とこんな感じ。じゃ、やってくーー
「五村梅踊りなんだけど、一月の半ばと末に先生にお願いしてご指導頂けることになったから一緒に行ってみよう!」
テリーからそんなラインが入ったのは、初めてごむリンの中に入った翌日のことだった。
おれは何となく頭に残っている記憶を頼りに五村梅踊りをなぞってみた。踊れなくはない。が、問題は着ぐるみを着て踊れるかだ。
それは大きなごむリンの頭部を被っているか否かで話が全然変わってくるからだ。
一月の半ばのある日、踊りの先生の元で五村梅踊りを習いに行くために、おれはテリーの車に乗って五村東の公民館へと向かった。
公民館に着いてごむリンの着ぐるみを担ぎ、踊りを指導して頂く教室へと向かった。
教室内では踊り手の人たちが稽古をしていた。こういうとおれたちが遅刻したように思われるかもしれないけど、実際指定された時刻を守ってはいるので遅刻ではなかったりする。
挨拶をして部屋に入ると、ひとりの老年の女性がおれたちのほうへトコトコと歩いてきた。
「初めまして。五村民謡会代表の『藤崎』と申します」
おれとテリーは藤崎先生に挨拶と自己紹介を返し、早速踊りの稽古にーー移る前に着替えなければならなかったのだけど、おれがごむリンの胴体を着たのを見た藤崎先生はーー
「何だか、キツそうに見えますねぇ」
これは何となくおれも感じていたことで、サイズ合ってんのかって思っていたのだけど、如何せん頭部を被ると胴体部分がどうなっているかわからないし、他にサイズがあるかもわからないので何もいわずにいたのだ。
それにおれは、きっと頭を被れば見えなくなっていると思っていたのだ。そんなことを思いつつごむリンの頭部を被ったのだけどーー
「うぅん、やっぱり身体が出ちゃってるねぇ」
と藤崎先生はいうではないの。これには流石の五条氏もごむリンの内側で苦笑いしたとかしてないとか。それはさておきーー
「やっぱりそうかぁ……」テリーがそういった。「五条くん、動きづらかったりする?」
正直いうと動きづらかった。『巨人の星』で大リーグボール養成ギプスなるモノがあるけど、多分アレを着けているような感じな窮屈さだった。おれはそれをオブラートに包みつつ伝えた。するとテリーはーー
「やっぱりねぇ……」
これには何かあると思い、おれは更に話を訊いてみた。そしておれは、ある事実を聴くこととなったのだ。何とーー
今自分の着ている着ぐるみが女性用サイズだというのだ。
そりゃ窮屈に決まってる。
が、テリーがいうには何でも、大きいサイズは現在借りられていて、返ってくるのは本番二日前とかそんな感じなのだとか。
完全に詰んだ。
まるで手を震わす羽生名人が目に焼き付いたよう。ついでにおれの手も震えていたーー窮屈で動きづらかったからなんだけど。
「取り敢えず本番は大きいサイズでできるから、今はこの小さいサイズで我慢してね」
そういうテリーの申し出にノーというワケにもいかず、おれはごむリンの頭を被って藤崎先生に踊りの指導をして貰うことになったーー踊り手の女子たちの好奇の目を集めながら。普通に恥ずかしかったよね。
「あら、筋がいいじゃないですか」藤崎先生。
「一応、動画を観て予習してきたんで」とおれ。
「いいじゃないですか。じゃあ、もうちょっとやってみましょうか」
とキッツキツのごむリン養成ギプスを着けて、おれは五村梅踊りの稽古を続けた。
一時間後、稽古が終わると藤崎先生は、
「うん、いいじゃないですか。もう一度稽古の時間はあるけど、このまま本番やっても大丈夫なくらい。次回の稽古はなしにしますか?」
それは勘弁してくれ。
おれはもう一度お願いしますと懇願した。とはいえ藤崎先生は尚も、
「大丈夫だと思うけどねぇ」
といっていたけど。うん、全然大丈夫じゃないんだな。と、おれはごむリンのデカイ頭部をプルプル震える腕と背中で支えながら、ただただ苦笑いするのだったーー
と今日はこんな感じで。次回は、どうなるかな。まぁ、適当にやってくわ。
アスタラビスタ。
確かにヒップホッパーがブカブカの服を着たり、マッチョがパツパツのシャツを着たりすることはあるけど、それはまた別の話になる。
前者はシンプルに文化的な基盤があり、それに乗っ取った上で、かつ本物がするからこそカッコよく決まる。後者はそれだけ筋肉があれば例えシャツがパツパツでも筋肉が強調されて逆にカッコよく見えるというワケだ。
確かに上のふたつのパターンも個人の価値観次第でダサくも見えることもあるだろうけど、基本的に上のふたつとただ単に服のサイズが合っていないのではまた意味が変わってくる。
かくいうおれは体重の増減が激しいこともあって、よく服のサイズが合わなくなる。
それは脂肪が増えることもあれば、筋肉が増えることもあって、服のサイズが合わなくなることが多いということだ。
まぁ、とはいえそれも筋肉でパツパツみたいな扱いになりがちなんでまだいいんだけど、本当に問題になるのは筋肉は関係なしにサイズが合わなくなることだ。
そもそもサイズが合っていなかったらキツキツ、或いはブカブカで動きづらいこともあるだろう。プラス機能面だけでなく、他者から見ても野暮ったく見えるし、良いことはない。
さて、『ごむリン篇』です。あらすじーー
『ごむリンの着ぐるみを着てみたはいいが、頭が重くてバランスを取るのが非常に難しいことに気づいてしまった五条氏。果たして、何とかなるのだろうか!?』
とこんな感じ。じゃ、やってくーー
「五村梅踊りなんだけど、一月の半ばと末に先生にお願いしてご指導頂けることになったから一緒に行ってみよう!」
テリーからそんなラインが入ったのは、初めてごむリンの中に入った翌日のことだった。
おれは何となく頭に残っている記憶を頼りに五村梅踊りをなぞってみた。踊れなくはない。が、問題は着ぐるみを着て踊れるかだ。
それは大きなごむリンの頭部を被っているか否かで話が全然変わってくるからだ。
一月の半ばのある日、踊りの先生の元で五村梅踊りを習いに行くために、おれはテリーの車に乗って五村東の公民館へと向かった。
公民館に着いてごむリンの着ぐるみを担ぎ、踊りを指導して頂く教室へと向かった。
教室内では踊り手の人たちが稽古をしていた。こういうとおれたちが遅刻したように思われるかもしれないけど、実際指定された時刻を守ってはいるので遅刻ではなかったりする。
挨拶をして部屋に入ると、ひとりの老年の女性がおれたちのほうへトコトコと歩いてきた。
「初めまして。五村民謡会代表の『藤崎』と申します」
おれとテリーは藤崎先生に挨拶と自己紹介を返し、早速踊りの稽古にーー移る前に着替えなければならなかったのだけど、おれがごむリンの胴体を着たのを見た藤崎先生はーー
「何だか、キツそうに見えますねぇ」
これは何となくおれも感じていたことで、サイズ合ってんのかって思っていたのだけど、如何せん頭部を被ると胴体部分がどうなっているかわからないし、他にサイズがあるかもわからないので何もいわずにいたのだ。
それにおれは、きっと頭を被れば見えなくなっていると思っていたのだ。そんなことを思いつつごむリンの頭部を被ったのだけどーー
「うぅん、やっぱり身体が出ちゃってるねぇ」
と藤崎先生はいうではないの。これには流石の五条氏もごむリンの内側で苦笑いしたとかしてないとか。それはさておきーー
「やっぱりそうかぁ……」テリーがそういった。「五条くん、動きづらかったりする?」
正直いうと動きづらかった。『巨人の星』で大リーグボール養成ギプスなるモノがあるけど、多分アレを着けているような感じな窮屈さだった。おれはそれをオブラートに包みつつ伝えた。するとテリーはーー
「やっぱりねぇ……」
これには何かあると思い、おれは更に話を訊いてみた。そしておれは、ある事実を聴くこととなったのだ。何とーー
今自分の着ている着ぐるみが女性用サイズだというのだ。
そりゃ窮屈に決まってる。
が、テリーがいうには何でも、大きいサイズは現在借りられていて、返ってくるのは本番二日前とかそんな感じなのだとか。
完全に詰んだ。
まるで手を震わす羽生名人が目に焼き付いたよう。ついでにおれの手も震えていたーー窮屈で動きづらかったからなんだけど。
「取り敢えず本番は大きいサイズでできるから、今はこの小さいサイズで我慢してね」
そういうテリーの申し出にノーというワケにもいかず、おれはごむリンの頭を被って藤崎先生に踊りの指導をして貰うことになったーー踊り手の女子たちの好奇の目を集めながら。普通に恥ずかしかったよね。
「あら、筋がいいじゃないですか」藤崎先生。
「一応、動画を観て予習してきたんで」とおれ。
「いいじゃないですか。じゃあ、もうちょっとやってみましょうか」
とキッツキツのごむリン養成ギプスを着けて、おれは五村梅踊りの稽古を続けた。
一時間後、稽古が終わると藤崎先生は、
「うん、いいじゃないですか。もう一度稽古の時間はあるけど、このまま本番やっても大丈夫なくらい。次回の稽古はなしにしますか?」
それは勘弁してくれ。
おれはもう一度お願いしますと懇願した。とはいえ藤崎先生は尚も、
「大丈夫だと思うけどねぇ」
といっていたけど。うん、全然大丈夫じゃないんだな。と、おれはごむリンのデカイ頭部をプルプル震える腕と背中で支えながら、ただただ苦笑いするのだったーー
と今日はこんな感じで。次回は、どうなるかな。まぁ、適当にやってくわ。
アスタラビスタ。