【藪医者放浪記~漆拾睦~】

文字数 1,113文字

 表のほうが騒がしくなってきた。

 それとは対象的に猿田源之助は静かに何かを考えているようだった。

「なぁ、どうしたんだよ!?」

 茂吉は慌てふためいていた。だが、猿田は軽く茂吉を一瞥したのみで、再びモノ思いに耽った。牛野寅三郎は状況が見えず、どうすればいいかわからない様子だった。

「源之助殿、先程、来客は我々とお医者様のみといっておられましたな」寅三郎はいった。「だとしたら、もうひとりの来客というのは、火急の用事あっての来訪ということは考えられませんか?」

 猿田は唸った。仮に九十九街道のことで何かあったのだとしたらもっと騒ぎになっているはず。例えば、ヤクザとの立ち回り、アレが誰かに見られていて、その中のひとりに猿田がいると目撃されていたとしたら、ふたりなどという少人数、それも旗本の屋敷への訪問となれば、もう少し体裁を整えるはずだ。

 にも関わらず、外にいるのは同心の斎藤と年老いた老人という。斎藤は猿田が天誅屋のひとりであり、やっていることを知ってはいるが、彼を捕らえようとはせず、むしろ理解している。つまり、よほどのことがない限りは斎藤が猿田を捕物することはない。

 そして、ここで問題となるのが、もうひとりの老人である。もし、これが同心なのであれば、「年老いた同心」というだろう。まぁ、斎藤も年老いてはいるが、だとしてもこの者は、ごく普通の庶民であり、同心ではないーーそう考えても可笑しくはないだろう。

「......マズイですねぇ」

 猿田はぼやいた。それから茂吉のほうを見た。何か声を掛けようとしている様子だったが、すぐに表のほうへと目をやると、ダメかと呟いた。茂吉はハッとした。

「源之助殿、どうされたのです」寅三郎がいった。「確かに火急の用事ではあるようですが、今のアナタを見ていると、動乱でないことは明らか。そもそもそのように考えて漸く思いつくことといえば、もっと深刻といえば深刻。それも火急ではありながら自分の身体を使うモノではなく、もっと別。よろしければ、それが何なのか、教えて頂けないでしょうか?」

 寅三郎の申し出を聞いて、茂吉はギョッとした。そんなこと、屋敷の問題なのだから、例え身分が上の人間相手でもいえるワケがないだろうーー茂吉は寅三郎にいった。寅三郎もそれを聞いて納得したようだった。が、猿田はそのことばを聞いて寅三郎を見、それから真っ直ぐに茂吉のことを見た。

「......何だよ」茂吉はいった。「アンタ、本当はもう気づいてるんだろ?」

 猿田は何も答えなかった。ただ、静かに目線を外した。茂吉は大きくため息をついた。

「わかったよ......。おれもわかってたけど、その客人、医者だってんだろ?」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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