【ナナフシギ~伍拾参~】
文字数 1,104文字
夜の学校は静かだった。
それはいうまでもなく、夜の学校には生徒もおらず、いたとしても仕事で残っている教員ぐらいだが、今は深夜、流石にどの教員も仕事を切り上げて帰っている。
当然、普通の学校であるならば。
だが、今の小学校は霊道となっていてあの世とこの世が融合してしまった状態になっていた。そして、そこにいるのは紛れ込んでしまった生きた人間数人を除けば、あとは霊となって魂だけでしかない。
故に校舎はまるで廃墟と化したように不気味な表情を浮かべていた。死んだような雰囲気はまるでゾンビのようだった。もはやそこは子供のはしゃぐ声が聴こえて来る場所とはとても思えなかった。
だが、そんな屍と化したような学校の前で、キャッキャと喜ぶ声が聴こえた。
それは遊具のほうから聴こえていた。暗闇の中で根を張るジャングルジムはまるで巨大なクモの巣のようだった。そして、そんなクモの巣に引っ掛かる蝶が二羽ーーいや、それは蝶ではなく人間の子供だった。幽霊ではない。そこで遊んでいたのはーー
詩織と和雅だった。
といっても、声を上げているのは詩織ばかりで、和雅はジャングルジムの上に座ってボーッと校舎を眺めていた。
「どうしたの?」詩織はいった。「夜の学校って楽しいね。誰もいなくて遊具で遊び放題。遊ばなきゃもったいないよ?」
だが、和雅はただ何となく「うん」と頷くばかりだった。それはまるで、こころここにあらず、といった様子だった。詩織はいった。
「何見てるの?」
「学校」
素っ気ない和雅の回答に、詩織も不満げな口調でその回答をリピートした。そして、
「夏休みなんだからさ、もっと楽しもうよ! 学校なんて見てないでさ!」
詩織は和雅の着ているシャツを引っ張ったが、和雅は相変わらず、うんと頷きながらも学校のほうを眺めるばかりだった。
と、突然、和雅は学校から視線を外した。
和雅が見ているほうを詩織も目で追った。と、その先はブランコのほう。詩織は声を上げてブランコのほうを指差した。
ブランコに子供が座っていた。
遠目ではどんな姿かは詳しくはわからなかったが、その大きさからしてまず大人ではないだろう。そして服装も何となくではあるが、半袖のTシャツと短パン姿。もちろん、そういった姿をする大人もいるにはいるが、だとしても身体のサイズがブランコに対して小さいのがひと目見てわかる様子だった。
詩織は大きく手を振りながら「おーい!」とブランコに座る誰かに呼び掛けた。と、突然に和雅は目を大きく見開き、先ほどまでの落ち着いた様子とは対照的に、勢いよく詩織の服を掴んで引っ張った。
ブランコに座った誰かの顔がふたりのほうへと向いた。
【続く】
それはいうまでもなく、夜の学校には生徒もおらず、いたとしても仕事で残っている教員ぐらいだが、今は深夜、流石にどの教員も仕事を切り上げて帰っている。
当然、普通の学校であるならば。
だが、今の小学校は霊道となっていてあの世とこの世が融合してしまった状態になっていた。そして、そこにいるのは紛れ込んでしまった生きた人間数人を除けば、あとは霊となって魂だけでしかない。
故に校舎はまるで廃墟と化したように不気味な表情を浮かべていた。死んだような雰囲気はまるでゾンビのようだった。もはやそこは子供のはしゃぐ声が聴こえて来る場所とはとても思えなかった。
だが、そんな屍と化したような学校の前で、キャッキャと喜ぶ声が聴こえた。
それは遊具のほうから聴こえていた。暗闇の中で根を張るジャングルジムはまるで巨大なクモの巣のようだった。そして、そんなクモの巣に引っ掛かる蝶が二羽ーーいや、それは蝶ではなく人間の子供だった。幽霊ではない。そこで遊んでいたのはーー
詩織と和雅だった。
といっても、声を上げているのは詩織ばかりで、和雅はジャングルジムの上に座ってボーッと校舎を眺めていた。
「どうしたの?」詩織はいった。「夜の学校って楽しいね。誰もいなくて遊具で遊び放題。遊ばなきゃもったいないよ?」
だが、和雅はただ何となく「うん」と頷くばかりだった。それはまるで、こころここにあらず、といった様子だった。詩織はいった。
「何見てるの?」
「学校」
素っ気ない和雅の回答に、詩織も不満げな口調でその回答をリピートした。そして、
「夏休みなんだからさ、もっと楽しもうよ! 学校なんて見てないでさ!」
詩織は和雅の着ているシャツを引っ張ったが、和雅は相変わらず、うんと頷きながらも学校のほうを眺めるばかりだった。
と、突然、和雅は学校から視線を外した。
和雅が見ているほうを詩織も目で追った。と、その先はブランコのほう。詩織は声を上げてブランコのほうを指差した。
ブランコに子供が座っていた。
遠目ではどんな姿かは詳しくはわからなかったが、その大きさからしてまず大人ではないだろう。そして服装も何となくではあるが、半袖のTシャツと短パン姿。もちろん、そういった姿をする大人もいるにはいるが、だとしても身体のサイズがブランコに対して小さいのがひと目見てわかる様子だった。
詩織は大きく手を振りながら「おーい!」とブランコに座る誰かに呼び掛けた。と、突然に和雅は目を大きく見開き、先ほどまでの落ち着いた様子とは対照的に、勢いよく詩織の服を掴んで引っ張った。
ブランコに座った誰かの顔がふたりのほうへと向いた。
【続く】