【一年三組の皇帝~参拾漆~】
文字数 1,290文字
ベッドの上はまるで牢獄のようだった。
別に格子があるワケでもなければ、特別監禁されているワケでもないのに、一度寝転がると不思議と動く気力を奪われたまま何も出来なくなってしまう。
そんな時にハルナからの電話は掛かって来た。何だろうと思わざるを得なかった。ぼくは少し首を傾げつつ、通話ボタンをスライドさせて電話に出た。
「もしもし、シンちゃん?」ハルナの声は何処か寂しげだった。「今、時間ある?」
ないワケがなかった。ただ寝転がっているだけだし。ただちょっとダルくて動きたくないし、人と会話もしたくないもいうのが本音ではあったけれど。でも、そんなことは全部飲み込んでぼくは話を促した。
「良かった。......元気?」
随分と他人行儀な質問だなと思った。そもそも平日は学校で毎日会っているし、元気かどうか何て見ればわかるだろうに。だが、ぼくはそれに対して丁寧に対応した。
「うん、元気だけど。ハルナは?」
「わたしは元気だよ。でも、シンちゃん、最近何ていうか、元気ないように見えるからさ......」
元気がないように見える。そんなことはないと思った。確かに抱えているモノはあるにはあるけれど、可能な限りそれを表に出さないようにしてきた。それに、ハルナとはここ最近そこまで会話したワケでもなければ、しっかりと顔を合わせたワケでもない。つまり、彼女にそんな自分を見られているはずがないと思っていた。
「元気ないって、そんなことないよ」
「ううん」ハルナは即座に否定してきた。「確かにそういう風に振る舞っているのはわかってる。だって、シンちゃんってほんと人に気を遣う人だから。でも、今のシンちゃんには笑顔に疲れが見えるからさ」
笑顔に疲れが見えるーーいつの間にか、そんな風に見えていたのか。ぼくは尚もそんなことないのではというニュアンスで彼女のことばをやんわりと否定した。だが、
「ううん。シンちゃんが今苦しんでるのはわかるよ。あの『ネイティブ』ってゲームのことでしょ? この前は関口くんに色々と声を掛けられていたし、そこにどういうワケかケンカしたはずの辻くんたちまで来た。今、シンちゃんは自分がどうすればいいのかわからなくなってるんでしょ? だって、シンちゃんは、何かがあるとひとりで抱え込むタイプなんだからさ」
まるですべてを見透かされているようだった。いつの間に、こんなにもハルナから見られていたなんて、何だか恥ずかしくなってしまった。ぼくは観念した。
「......うん。あのゲームのことで関口のほうにつくか、辻のほうに着くかで迫られてる。おれは別にどっちに着くつもりもないんだけど、でも、何とかしないと、田宮があのまんま関口のパシリにされっぱなしだから」
「......やっぱり」ちょっと厳しい声色でハルナはいった。「確かにどっちに着くかって訊かれたら困っちゃうよね。シンちゃんはそういうの好きじゃないし。でもさ、選べるグループはそればかりじゃない。わたしだっている。だから、辛かったらわたしを頼ってよ。わたしも、生活安全委員なんだしさ」
ぼくの中で何かが融けていくような感じがした。
【続く】
別に格子があるワケでもなければ、特別監禁されているワケでもないのに、一度寝転がると不思議と動く気力を奪われたまま何も出来なくなってしまう。
そんな時にハルナからの電話は掛かって来た。何だろうと思わざるを得なかった。ぼくは少し首を傾げつつ、通話ボタンをスライドさせて電話に出た。
「もしもし、シンちゃん?」ハルナの声は何処か寂しげだった。「今、時間ある?」
ないワケがなかった。ただ寝転がっているだけだし。ただちょっとダルくて動きたくないし、人と会話もしたくないもいうのが本音ではあったけれど。でも、そんなことは全部飲み込んでぼくは話を促した。
「良かった。......元気?」
随分と他人行儀な質問だなと思った。そもそも平日は学校で毎日会っているし、元気かどうか何て見ればわかるだろうに。だが、ぼくはそれに対して丁寧に対応した。
「うん、元気だけど。ハルナは?」
「わたしは元気だよ。でも、シンちゃん、最近何ていうか、元気ないように見えるからさ......」
元気がないように見える。そんなことはないと思った。確かに抱えているモノはあるにはあるけれど、可能な限りそれを表に出さないようにしてきた。それに、ハルナとはここ最近そこまで会話したワケでもなければ、しっかりと顔を合わせたワケでもない。つまり、彼女にそんな自分を見られているはずがないと思っていた。
「元気ないって、そんなことないよ」
「ううん」ハルナは即座に否定してきた。「確かにそういう風に振る舞っているのはわかってる。だって、シンちゃんってほんと人に気を遣う人だから。でも、今のシンちゃんには笑顔に疲れが見えるからさ」
笑顔に疲れが見えるーーいつの間にか、そんな風に見えていたのか。ぼくは尚もそんなことないのではというニュアンスで彼女のことばをやんわりと否定した。だが、
「ううん。シンちゃんが今苦しんでるのはわかるよ。あの『ネイティブ』ってゲームのことでしょ? この前は関口くんに色々と声を掛けられていたし、そこにどういうワケかケンカしたはずの辻くんたちまで来た。今、シンちゃんは自分がどうすればいいのかわからなくなってるんでしょ? だって、シンちゃんは、何かがあるとひとりで抱え込むタイプなんだからさ」
まるですべてを見透かされているようだった。いつの間に、こんなにもハルナから見られていたなんて、何だか恥ずかしくなってしまった。ぼくは観念した。
「......うん。あのゲームのことで関口のほうにつくか、辻のほうに着くかで迫られてる。おれは別にどっちに着くつもりもないんだけど、でも、何とかしないと、田宮があのまんま関口のパシリにされっぱなしだから」
「......やっぱり」ちょっと厳しい声色でハルナはいった。「確かにどっちに着くかって訊かれたら困っちゃうよね。シンちゃんはそういうの好きじゃないし。でもさ、選べるグループはそればかりじゃない。わたしだっている。だから、辛かったらわたしを頼ってよ。わたしも、生活安全委員なんだしさ」
ぼくの中で何かが融けていくような感じがした。
【続く】