【終局のリハーサル】
文字数 2,217文字
何事も練習は必要だ。
練習なくしてできることはそうそうない。とはいえ、過去の経験によってはアドヴァンテージになり得、始めた時からそれなりの腕前が保証されることもあるし、ちょっとしたシンプルなモノに関しては練習など必要ないだろう。
だが、物事はそういったシンプルなモノの集合体であって、すべてを経験していることはまずないはず。だからこそ練習が必要なのだ。
とまぁ、漸く『初舞台篇』もラストスパートですな。早ければ今回と次回で終わりにできるかな。てか、あと二回で終わらせる。多分。
前回のあらすじーー「本番が近づき、五条氏はセンチメンタルになるのだった」
ざっくりとした説明に画面の前で困惑する顔が見えてくるようなんだけど、まぁ、間違ってない。てか、このあらすじ必要なんかな。
いらねぇな。
次回でラストの予定だし、あと一回ほど付き合ってくれや。というわけで、やってくーー
十一月の初旬の本番前の金曜の昼、おれは五村市民会館にいた。
小屋入りの日。小屋入りとは、本番はもちろん、芝居をするための仕込み、準備をするために会場入りすることだ。
準備は前日の夜から始まり、小屋入りの日は朝から準備が始まっていたが、おれは昼間から会場入りした。
「会場に入ったら、その場の全員に聴こえるように大きな声で挨拶することな」
ショージさんにそういわれていたため、おれは会場入りすると大きな声で挨拶し、中に入った。
舞台はまだ完成とは程遠い状態だったが、これから自分が立つことになる舞台が少しずつできていく様には、非常にわくわくした。
ホールの中を見渡すと、普段の稽古とは違って見たことのない人がたくさんいた。誰が誰かわからないような状態だったがーー
「おう、何遊んでんだよ」
そういわれて振り返った。大海だった。
大海(おおみ)は、タカシさん率いる劇団『トーキング』所属の役者だった。年齢はおれのひとつ上で、Xに誘われて始めた殺陣の会にて顔を合わせていたこともあって、タカシさんたちを除いた外部の協力者の中で、殆ど唯一まともに話せる相手だった。
「遊んでねぇわ。今来たんだよ」おれはいう。
「何だよ、おれなんか朝からいたんだぜ」
「そうか、ありがとよ。ピンスポよろしくな」
「あぁ、お前こそ初舞台頑張れよ」
大海とそんな会話をして、おれはできることを探して仕事を始めたのだ。ちなみに、大海はあくまで仮名だけど、本名で探すと色んなドラマ等で名前が引っ掛かったりする。まぁ、本名はいわないけどな。
作業は進み、夕方六時くらいになると舞台は完成した。荘厳な景色だった。抽象化されてはいるが、工夫がなされた舞台に、おれは舌を巻いた。舞台を見た時、ここまで頑張ってきてよかったと思えた。
が、そう思うのはまだ早い。まだ本番がある。頑張ってきてよかったと思うのは、舞台を成功させてからだ。
舞台が完成すると、照明と音響の仕込みの時間となった。これに関しては、自分のような人間はやれることがなく、客席に座って仕込みを眺めていた。
赤、青、黄、緑、オレンジ、紫と数々の色の織り成すオーロラは舞台を美しく、艶やかに彩っていた。
初めての芝居、間違えずにできるだろうか。期待と不安が風船のように膨らんでいく。
「竜也くん」あおいがきた。「お弁当、控え室に用意してあるって」
腹は減ってなかった。好奇心と喜びで腹はいっぱいだった。とはいえ、翌日のこともあるし、ここは体力をつけておかなければならない。おれはあおいと控え室に向かった。
「緊張する?」白米を飲み込んで、あおいはいった。
「んー、何だろうな。何か変に落ち着いてる気がする」
実際そうだった。緊張なんかしていなかった。まるでマストを揺らす潮風のようだった。まぁ、そういう意味でいうと、いつ荒れるかわからないということだけど。
食事を終え、あおいを始め劇団員と談笑しているとスタッフのひとりが控え室に入ってきた。ヨシエさんから召集があったとのことだった。加えて、集合する時は衣装を着てくるようにといわれ、おれも他のメンツもみな、自分の役の衣装に着替え始めた。
着替えてホールにいくと、場当たり稽古が始まった。
場当たり稽古とは、芝居の稽古というよりは、実際に役者が舞台にたった状態で、照明と音響のチェックを行う稽古だ。あくまでメインは照明と音響のチェックなので、芝居もチャプターの頭からケツまで通さないことも多い。
おれは袖中で自分のベッドに腰掛けて出番を待った。おれはベッドに寝た状態で登場することもあって、ベッドに寝転がった状態のまま袖中のスタッフに運んでもらうことになっていた。
スタッフに運ぶタイミングやシチュエーションの説明をし、簡易的な打ち合わせをして場当たりに臨む。初めての場当たり、おれはーー
間に合わなかったんよな。
おれが遅刻したとかでなく、閉館時間になってしまったんよ。とりあえず、翌日の朝から、改めて場当たり稽古を始めるということになって、初めての小屋入りの日は終了したーー
と、今日はここまで。次回は本番。てか、今日合わせてあと二回で終わるっていったけど、本番一日目、二日目、その後と三回は続きそうだな。ま、いっか。
アスタラビスタ。
練習なくしてできることはそうそうない。とはいえ、過去の経験によってはアドヴァンテージになり得、始めた時からそれなりの腕前が保証されることもあるし、ちょっとしたシンプルなモノに関しては練習など必要ないだろう。
だが、物事はそういったシンプルなモノの集合体であって、すべてを経験していることはまずないはず。だからこそ練習が必要なのだ。
とまぁ、漸く『初舞台篇』もラストスパートですな。早ければ今回と次回で終わりにできるかな。てか、あと二回で終わらせる。多分。
前回のあらすじーー「本番が近づき、五条氏はセンチメンタルになるのだった」
ざっくりとした説明に画面の前で困惑する顔が見えてくるようなんだけど、まぁ、間違ってない。てか、このあらすじ必要なんかな。
いらねぇな。
次回でラストの予定だし、あと一回ほど付き合ってくれや。というわけで、やってくーー
十一月の初旬の本番前の金曜の昼、おれは五村市民会館にいた。
小屋入りの日。小屋入りとは、本番はもちろん、芝居をするための仕込み、準備をするために会場入りすることだ。
準備は前日の夜から始まり、小屋入りの日は朝から準備が始まっていたが、おれは昼間から会場入りした。
「会場に入ったら、その場の全員に聴こえるように大きな声で挨拶することな」
ショージさんにそういわれていたため、おれは会場入りすると大きな声で挨拶し、中に入った。
舞台はまだ完成とは程遠い状態だったが、これから自分が立つことになる舞台が少しずつできていく様には、非常にわくわくした。
ホールの中を見渡すと、普段の稽古とは違って見たことのない人がたくさんいた。誰が誰かわからないような状態だったがーー
「おう、何遊んでんだよ」
そういわれて振り返った。大海だった。
大海(おおみ)は、タカシさん率いる劇団『トーキング』所属の役者だった。年齢はおれのひとつ上で、Xに誘われて始めた殺陣の会にて顔を合わせていたこともあって、タカシさんたちを除いた外部の協力者の中で、殆ど唯一まともに話せる相手だった。
「遊んでねぇわ。今来たんだよ」おれはいう。
「何だよ、おれなんか朝からいたんだぜ」
「そうか、ありがとよ。ピンスポよろしくな」
「あぁ、お前こそ初舞台頑張れよ」
大海とそんな会話をして、おれはできることを探して仕事を始めたのだ。ちなみに、大海はあくまで仮名だけど、本名で探すと色んなドラマ等で名前が引っ掛かったりする。まぁ、本名はいわないけどな。
作業は進み、夕方六時くらいになると舞台は完成した。荘厳な景色だった。抽象化されてはいるが、工夫がなされた舞台に、おれは舌を巻いた。舞台を見た時、ここまで頑張ってきてよかったと思えた。
が、そう思うのはまだ早い。まだ本番がある。頑張ってきてよかったと思うのは、舞台を成功させてからだ。
舞台が完成すると、照明と音響の仕込みの時間となった。これに関しては、自分のような人間はやれることがなく、客席に座って仕込みを眺めていた。
赤、青、黄、緑、オレンジ、紫と数々の色の織り成すオーロラは舞台を美しく、艶やかに彩っていた。
初めての芝居、間違えずにできるだろうか。期待と不安が風船のように膨らんでいく。
「竜也くん」あおいがきた。「お弁当、控え室に用意してあるって」
腹は減ってなかった。好奇心と喜びで腹はいっぱいだった。とはいえ、翌日のこともあるし、ここは体力をつけておかなければならない。おれはあおいと控え室に向かった。
「緊張する?」白米を飲み込んで、あおいはいった。
「んー、何だろうな。何か変に落ち着いてる気がする」
実際そうだった。緊張なんかしていなかった。まるでマストを揺らす潮風のようだった。まぁ、そういう意味でいうと、いつ荒れるかわからないということだけど。
食事を終え、あおいを始め劇団員と談笑しているとスタッフのひとりが控え室に入ってきた。ヨシエさんから召集があったとのことだった。加えて、集合する時は衣装を着てくるようにといわれ、おれも他のメンツもみな、自分の役の衣装に着替え始めた。
着替えてホールにいくと、場当たり稽古が始まった。
場当たり稽古とは、芝居の稽古というよりは、実際に役者が舞台にたった状態で、照明と音響のチェックを行う稽古だ。あくまでメインは照明と音響のチェックなので、芝居もチャプターの頭からケツまで通さないことも多い。
おれは袖中で自分のベッドに腰掛けて出番を待った。おれはベッドに寝た状態で登場することもあって、ベッドに寝転がった状態のまま袖中のスタッフに運んでもらうことになっていた。
スタッフに運ぶタイミングやシチュエーションの説明をし、簡易的な打ち合わせをして場当たりに臨む。初めての場当たり、おれはーー
間に合わなかったんよな。
おれが遅刻したとかでなく、閉館時間になってしまったんよ。とりあえず、翌日の朝から、改めて場当たり稽古を始めるということになって、初めての小屋入りの日は終了したーー
と、今日はここまで。次回は本番。てか、今日合わせてあと二回で終わるっていったけど、本番一日目、二日目、その後と三回は続きそうだな。ま、いっか。
アスタラビスタ。