【藪医者放浪記~弐拾睦~】

文字数 1,094文字

 九十九街道を走る三人の姿がある。

 ひとりは水戸武田家の長男である藤十郎、またひとりは藤十郎に仕える牛野寅三郎、そして最後のひとりがお雉である。

 走る三人の前に次々と着流しのガラの悪い男たちが刀を持って立ちはだかる。その数は十から二十ほど。男たちは銀次の一家の人間で、狙った獲物を逃がさないために銀次があらかじめ配置していた者たちだった。

 だが、その腕前は大したモノとはいえず、大振りで動き全体もモッサリしている。寅三郎は刀を抜き、即座に対応する。斬る、刺す、抉る。正面にうしろ、右に左。腕っぷしは大したことないが、速さに関しては圧倒的に寅三郎のほうが早かった。藤十郎は寅三郎のうしろでビクついている。

「何してんの!」お雉の怒声が藤十郎に飛ぶ。「死にたくなければ、アンタも何とかしたらどうなの!?」

 だが、そのことばで藤十郎が奮い立つことはない。寅三郎はヤクザの正面斬りを受け流し、ヤクザの背中を斜め掛けに斬り捨て、いう。

「わたしは可能な限り藤十郎様をお守りします! 藤十郎様は御自分の身をお守りすることに専念して下さい」

 だが、藤十郎が刀を抜くことはない。依然として震えるばかりで完全に戦意を喪失している。朽ち果てた屋敷の外壁に背を預け、背後を守り、ただただ右往左往するばかりである。

「ガキィ......ッ!」

 藤十郎に気を取られているスキに袈裟懸けに斬り込まれるお雉。何とか受けきり、押しきろうとする敵の圧力をするりとかわす。均衡を崩した敵の背中を斬り、そのまま背中を刺して敵を仕留める。

 敵の数はいっぺんに減っていった。気づけば敵も残りふたり。それも敵陣が完全に戦意を喪失しているところから見て、もはや勝負は決したも同然だった。敵ふたりはそのまま背を向けて逃げ出そうとする。

 が、ふたりの動きはすぐに止まる。

 ふたりの首もと、背中には手裏剣が刺さっており、そのまま前に倒れ込む。屍の山が築かれる。その中で佇むお雉と寅三郎、藤十郎。藤十郎は無傷、寅三郎とお雉は擦り傷を作り、荒い息を吐いている。

「お雉さん」寅三郎がいう。「大丈夫ですか?」

 お雉は微かに笑う。右肩を押さえて。その右肩からは血が滲んでいる。

「......傷が開いちゃった」

「見せてみなされ」お雉に近づく寅三郎ーーお雉のケガを見ていう。「何があってこんなキズをつけた?」

「そんなこと、アンタには関係ないそれより」お雉は藤十郎を見る。「アンタはあの坊っちゃんを松平邸まで連れてって」

「しかし......」

「早くッ!」

「とはいえ、お雉さんは......?」

「あたしは......、まだやることがあるから......」

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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