【一年三組の皇帝~拾捌~】

文字数 1,061文字

 いつだって緊張は長く、結果は一瞬だ。

 そして、その先に待っているのは一瞬の甘い蜜か果てしない苦渋のどちらかでしかない。とはいえ、この程度のゲームの結果などいつまでも作用するモノでもなく、敗北の果ての苦痛や苦渋は存在しないに等しい。

 ぼくは思わず口をあんぐりさせた。

 3。間違いなくそこにはスペードの3のカードが存在した。そして辻のカードは7。絵柄がどうとかは関係なく問答無用で敗北だ。

「マジかよ」ぼくは思わず呟いた。

「何だよ、まるで自分が勝ったとでも思ってたみたいな反応だな?」

 思っていたーーそれは紛れもなく思っていた。それは辻の反応を見れば一目瞭然だった。だが、辻がやっていたのはブラフでしかなかった。ぼくはハメられたのだ。

 ぼくはことばを失っていた。いくら賭けているモノもなければ、大した勝負でもないとはいえ、勝てなかったことには悔しさが沈殿するように残っていた。

「随分と悔しそうじゃん?」

 辻は不敵に笑っていった。その笑みは完全にぼくをバカにしていた。

「で、望みはなんだよ?」

 思わずことばに出ていた。だが、辻はぼくのその問いに対して不満そうな表情を浮かべた。

「望み? 何いってんだよ。おれはただゲームをしようっていっただけじゃねえか」

「本当にそれだけが目的でやったとは思えねえんだよ」

 実際、信用はまったくしていなかった。相手は弱い者イジメをする卑劣なヤンキーでしかなかった。だが、ぼくが負けたのはいうまでもない事実だった。

「それに、あのブラフ。まったく見破れなかった。正直、おれはキミに勝っていたと思ってた。でも実際はーー」

「それが勝負ってモンだろ」辻はさらっといってのけた。「1に1足したら2になったみたいな単純な話じゃねえんだよ。勝負ってのは。そこにあるのが1だと思ったら実際は7だった。そして、それに気づけるかどうかってのが勝負ってヤツだ。おめぇは今おれとの勝負で何のリスクも負わなくていいって聞いて、完全に気が緩んでた。違うか?」

 にやけた表情でそういっていたが、辻のいうことは的を射ていた。そうだ。ぼくは完全に気が緩んでいた。だからこそ、辻の反応を素直に受け入れて勝負に出てしまったーーいや、こんなのは勝負に出たとはいわない。ただ、崖の上から身を投げただけ。自殺したようなモノでしかなかった。

「......そうだな」

 認めるしかなかった。と、辻は唐突に笑い出してこういった。

「出て来ていいぜ」

 辻がそういうと、ぼくは辻の目線が向いている先へと目を走らせた。

 去ったはずの山路と海野がいた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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