【明日、白夜になる前に~弐拾伍~】

文字数 2,344文字

 振動するスマートフォンにぼくは戸惑う。

 座布団の上にスマホを置いて、その前のフローリングでぼくは正座しながら、まるで恐い先輩から説教を受けているような感じで萎縮しているーーなんて形容は正しくないのかもしれないけど、何となくそんな感じがする。

 こんな話をしたところで意味がわからないだろうから、ちょっと時間を戻して話をする必要があるだろう。あれは、数時間前のことーー

 ぼくは朝早くから起きて気晴らしに陽の光を頭で受けながら歩いていた。そんな中、小林さんからメッセージが来たワケだ。

「桃井さんと何かあったの?」

 本当に空気を読んでくれ、とぼくは新鮮で純度の高い清潔な空気を吸いながら思っていたワケだ。そこでぼくはイラ立ちつつもその場にあるベンチにドカンと腰掛けて、スマホの画面を割らんとする勢いで、メッセージを打ち付けた。

「何かあったって、何がです?」

 もはや字面からですらわかるほどのケンカ腰。ナチュラルに対応するのですらイラッとするに違いないのに、没感情的で無機質な電気信号の塊であるゴシック体でこんなことをいわれたのでは余計に腹が立つに違いないと感じた。

 だが、それくらいにぼくは耐え難い怒りをその時は感じていたワケだ。

 メッセージを送信後、ぼくは大きく息をつきながら立ち上がり、再びサブスクで音楽を聴きながらドスドスと歩いて自宅へ帰ったのだ。

 その間に小林さんからのメッセージはなかった。それが逆にぼくにはキツかった。

 罪悪感ーーいくらイラ立っていたとはいえ、いつもお世話になっているーー況してや、たまきに監禁されている間に仕事を「無断欠勤」していた際も上に口を利いてくれて、自分のクビを繋ぎ止めてくれていた人の胸元に刃を突き立てるようなことをいってしまって、非常に申し訳ないと気が気でなかった。

 そんなことを考えているのだから、音楽を聴きながら歩いていても、頭の中で気がかりなのは、尻ポケットのスマホが次いつ振動するかということだった。

 が、結局、家に着くまでの間に小林さんからのメッセージが届くことはなかった。

 道中、スマホが振動すると、すぐさまスマホを取り上げてメッセージを確認したが、届くメッセージといえば、ニュースかろくでもない宣伝系のメッセージばかりで心底ウンザリしてしまった。

 そんなこんなで、家に帰って昼過ぎからビールのロング缶を片手にコンビニでかったカップ焼きそばを食べていたところで突然スマホが振動すると、また関係のないメッセージだろと思う反面、もしかしたらという死刑囚が己が死刑執行を独房の中で宣言されるのではないかという恐怖にも似た心境でこころを震わせていた。

 ぼくは緊張を飲み込むようにビールをひと意気で飲み干し、勢い良く床に空になったビールの缶を置くと、振動した後、死んだように動かなくなったスマホを見つめたのだ。

 まさかーー当然、ぼくの頭の中ではそんな考えが浮かんでいた。出来ることなら、このままメッセージが来たという事実を抹消してしまいたいが、現代を生きている以上、スマホを一切触らずに生きるということはまず不可能だ。

 ゴクリとツバを飲み、そのままゆっくりと、かつ迅速にスマホに手を伸ばした。

 ロックを解除し、メッセージアプリを開く。と、そこにはーー

 小林さんからのメッセージがあった。

 来たーー脳がひと筋の汗を流した。

 ぼくは意識的に鼻で大きく息を吐いてから、小林さんからのメッセージを開いた。

 ぼくは自分の瞳孔が大きく開くのを無意識の内に感じた。そこに書いてあったのはーー

「桃井さんが斎藤くんに色々と喚き散らしてて、それからキミを連れて休憩室で色々話してたってことを聴いたからさ」

 ここまではまだ良かったのだーーここまでは。これぐらいだったら全然予想していた範疇の話だ。だが、問題はその次の文面だったーー

「まぁ、それはいいとして、桃井さんから仕事のことで訊きたいことがあるから斎藤くんの連絡先を教えて欲しいってメッセージが来てるんだけど、どうする? 大丈夫かな」

 ワケがわからなかった。大体、部所も違うし、これといった関わりもない桃井さんがぼくに何を訊こうというのだろうか。

 ぼくは、恐らくは小林さんも何となく桃井さんが何を思ってそう訊ねたのかわかっている上でメッセージを送信したのだと予感しつつも、こうメッセージを打ったーー

「ぼくと桃井さんの間に仕事の話は特にないと思いますけど、本人がそういってるんですか?」

 まぁ、本人がいってなかったら誰がいうんだって話だけど、ぼくはそんな愚問をいうくらいには頭の中でパンの角笛が鳴り響いていたというワケだ。

 小林さんからのメッセージはすぐに返って来た。ぼくはすぐさまスマホを手に取ってメッセージを確認した。

「もちろん本人がそういってるんだけど、ということは教えないほうがいいかな?」

 出来ることなら、というか無論教えて欲しくはない。ただ、ここで断るのは今後のぼくの会社生活にて自分の居場所を大きく狭める危険性もあるし、何よりもほんの僅かな可能性として本当に仕事のことで何か質問したいことがあるのでは、という万にひとつも有り得ないようなことを考慮して、ぼくはメッセージを打ったーー

「わかりました。教えて頂いて結構です」

 が、そうは伝えたものの、よくよく考えたら何故、桃井さんが小林さんの連絡先を知っているのだろうとか不思議な点は尽きなかった。

 その点を追及して訊ねてみようかとも思ったが、度重なる無礼にそうする気分も失せてしまい、結局ぼくはまるで己の死刑を待つ死刑囚のように身体をブルブルと震わすこととなってしまったのだ。

 そして、スマホは振動した。

 ぼくはゆっくりとスマホを手に取ったーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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