【ナナフシギ~伍拾捌~】

文字数 1,119文字

 思いも掛けず聴く声というのは、それだけで信じることを困難にする。

 何故こんなところにーーその思いが抜け切らず、その人物が今そこにいるという現実をウソだと信じ込もうとさせる。

 また或いは、そこにいるというどころか、何処にいたって会いたくない人物の声が聴こえでもすれば、それだけでもその現実をウソと思い込みたくもなる。そもそも会いたくもない人間など、その人の世界ではいないも同然な存在でありながら、同時に憎むべき仮想敵でもあるのだから。

 祐太朗は眉間にシワを大きく寄せて声のしたほうを見た。と、そこには紛れもない岩淵の姿があった。祐太朗は舌打ちし、目をひんむいて岩淵を睨みつけた。

「何でテメェがここにいるんだよ」

 祐太朗のいう通りだった。本来ならば岩淵は今頃祐太朗たちの両親と同席し、食事でも共にしている時間だろう。だが、そんな岩淵の姿はここにある。ということはーー

「テメェ、詩織と和雅をどうして連れて来た?」

 音楽室のテレビに映った詩織と和雅。ふたりは紛れもなくこの学校の校庭にいた。確かに、いくら夜だからといっても、いつも通っている学校ならば歩いてはこれるが、一番の問題は、明らかにその場所にそぐわない人物ーー岩淵の姿があることだ。本来ならば、外出していた和雅と詩織をしっかりと送り迎えし、両親不在時の子供の面倒をしっかりと見ておくべきであるはず。

 つまり、岩淵は完全な職務の怠慢をやらかしているということになる。いや、そもそも職務の怠慢で済めばいいが、相手は小学生の少年少女。そんなふたりの面倒をしっかりと見ていないという時点で、職務がどうとかいう以前に人間として問題があるといわれても過言ではないのかもしれない。

「どこって、坊っちゃんとお嬢さんは家で寝ていますが」岩淵は平然といった。

「ウソいうんじゃねぇ」祐太朗はピシャリと否定した。「この学校まで連れて来やがっただろ」

 岩淵は少し黙り、まるで答えに窮しているような様子を見せたが、まるで開き直ったかのように途端に笑い出した。暗い校舎の廊下に岩淵の笑い声がこだました。エミリも祐太朗もそんな岩淵を見詰めたまま何もいわなかった。いや、いわなかったのではなく、いえなかったのかもしれなかった。

「どうしてそういい切れるんです?」

 まるで挑発するかのように岩淵はいった。だが、祐太朗はそんな挑発を無視するかのように冷ややかにいった。

「学校のテレビに霊障が起きて、校庭で遊んでるふたりが映し出された。あとはいいたいことはわかるよな?」

「わかりませんねぇ」岩淵はいった。「で、そもそもその映像が今現在本当に起きていることだと確証はあるのですか?」

 岩淵は尚も挑発するようにいっていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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