【コッチンコッチンコ】

文字数 3,402文字

 緊張なんて大嫌いだ。

 まぁ、そもそも緊張が好きなんて人種は勝負強いヤツか、勝負のスリルを楽しめるヤツか、ただの異常者ぐらいしかいないだろう。

 だが、大抵の人間は緊張なんて大嫌いだと思うのだ。大体、緊張なんて自分の実力を出すのを阻む障害でしかないし、基本的に肉体的にも精神的にも、更には知能的にも硬直化させるのはいうまでもないだろう。

 そりゃ適度な緊張は高いパフォーマンスを生むとはいうが、これは本当なのかと正直疑わしい。確かに緊張を抱くことで注意力が磨かれ、感覚が研ぎ澄まされるというのはある。だが、その「適度な」緊張というヤツに直面することは殆どない。大抵の場合は「適度」を軽々と超えて来る。これが厄介なのだ。

 普通に考えて「適度」という度合いが曖昧だ。てか緊張に適度もクソもあるだろうか。少なくともおれが知っている限り適度な緊張などない。

 まぁ、やり慣れた業務をこなす時に感じるピンと糸が張った感覚を「適度な緊張」というのならそうなのかもしれない。

 だが、それは「やり慣れている」からこそ「適度」なのであって、やり慣れていないようなそれなりの舞台だったり、殆どはじめてのような瞬間に、そういった感覚になることはないと断言してもいいのではないかと思うのだ。

 早い話が、緊張にはプラスよりもマイナスの要因のほうが多いのではということだ。

 確かに緊張してゴチゴチになった果てに勝利の美酒を堪能できたならば、達成感もカタルシスもひと際だとは思うのだ。

 だが、勝利にもぎ取る者はひと握り。大抵の場合は緊張に押し潰されて、見るも無惨な敗北を喫することになる。問題はそこなのだ。

 かくいうおれはというと、過去の記事でも散々書いたように緊張が大嫌いだ。緊張なんか感じるくらいなら注意散漫、不注意大歓迎というくらいに緊張することが嫌いだ。

 可能ならもっと気楽にあらゆるモノに向き合いたいし、改めて思い返してみると、緊張しいな性質というのもパニックの要因のひとつになり得たのではないかと思うのだーーいや、絶対そうだろ。パニックが起きると何処でも緊張状態になるわけだし、関係ないとはいわせない。

 まぁ、とはいえバンドではヴォーカリストとして、舞台では役者として、学生時代は定期試験から入試までとあらゆるテストで、居合では昇段試験に大会と、ド畜生な緊張を受けながらもそれを乗り切った経験はあるワケだ。

 とはいえーーとはいえ、だ。

 成功した、しないに関わらず、緊張しなければ、もっと高いパフォーマンスを引き出せたのではと今でも思うことはある。昔ばなしのイフ話ほど不毛で痛い話題もないけど、今でもそんなことを考えてしまう。

 それほど緊張とはおれにとって忌むべき存在といって過言ではないのだ。

 さて、今日はそんな緊張によってもたらされた結果の話をしていこうと思う。あれは大学三年の五月頃のことだった。その日はちょうど大学の工学キャンパスの学祭だったのだ。

 補足しておくと、おれの通っていた大学は工学部が別のキャンパスで、それ以外は本キャンパスという構成になっていた。

 つまり工学部は殆ど島流し状態で共学の大学にも関わらず、ほぼ男子校状態だったということだーー高校に続いて男子校状態はキツい。

 とはいえ、完全な共学に行っていれば薔薇色の学生時代だったかといわれると、ノーだと思う。それは現状と小、中学時代という反証を考えればわかる。その場に女性がいようといまいと、おれの人生に女気などなかった。

 つまり、おれの人生に女気などはじめからなかったといえるワケだーークゥオッド・エラット・デモンストランダム。

 それはさておき、そんなほぼ男の花園である工学キャンパスの学祭が盛り上がるワケないと思われることだろう。

 現にサークルの工学キャンパスの学祭ライヴなんか葬式のようで盛り上がらないし、いたとしても本キャンパスから来たサークルの女子がそれなりに高額なバイト代に惹かれただけのやる気のないテレクラのサクラみたいな感じで突っ立っているくらいーー何か、テレクラのサクラって語呂いいな。

 そう、男の花園、工学キャンパスの学祭など灰色で盛り上がりに掛けるのは口に出さずともわかりきったことなのだ。

 たった一ヶ所を除けば。

 その一ヶ所に、おれはサークルの連中にいわれるがままに連れて行かれることとなったのだ。そこはーー

 ニンテンドー64版スマッシュブラザーズの大会会場だった。

 そう、うちの工学キャンパスは何故か64のスマッシュブラザーズが盛んだったのだ。それも局地的ではなく、全学科、全学年、全サークルといった具合に。その理由はわからない。

 当時は二作目のDXはもちろん、三作目のXも発売していた。にもかかわらず、何故か依然として白熱していたのは一作目の64版だった。

 おれも小学生の頃は64版スマブラに遊び狂ったほどだったが、大学に入ってサークルに入ると サークル室にニンテンドー64が置いてあり、スマブラも漏れなく置いてあったワケだ。そこでおれは「工学キャンパスサークル室の64の主」といわれるほどスマブラに狂っていた。

 三対一などお手のもの。ひとりでサークルの人間三人をお手玉をするようにもてあそび、撃破するなどいつものことで、気づけば「息を吐くように人を殺す男」とかいう不名誉なふたつ名を付けられるほどだった。

 それほどに、おれはサークルの工学キャンパス支部において64スマブラにて無双しまくっていたワケだ。そんな自分が負けるワケないだろう。おれは張り切っていた。

 受付にて使用キャラを記入し手続きを済ませると、すぐに一回戦。一回戦は四人対戦。ゲーム画面は会場前方にある巨大なヴィジョンに映し出されている。ゲーム開始。結果はーー

 二位に15点差をつけておれが一位だった。

 大勝である。二位に15点差ということでわかりづらいと思うけど、スコアでプラスを記録しているのはおれひとりで、あとの三人はマイナスだった。つまりーー

 完全勝利だったワケだ。

 会場のオーディエンスは熱狂し、対戦相手はドン引きしてた。まぁ、ここまで大差だと「強い! スゴイ!」とかじゃなくて、「何コイツ……、キモッ……」って感じだったと思う。だけどオーディエンスは興奮していたからそれはそれでよし。

 一回戦が余裕過ぎたもんで、二回戦も余裕かなと思ったのはいうまでもなかった。で、二回戦ーーおれの番が来たワケだ。

 おれは相手に合わせてキャラクターをオーダーしてやろうと内心でほくそ笑んでいた。相手のオーダーに合わせてキャラクターを変えるくらいには、おれは全キャラを使いこなせる腕は当時あったのだーー多分な。

 だが、その企みは脆くも崩れた。というのも、司会がこんなことをいったのだーー

「最初に選んだキャラクターからの変更はしないで下さい」

 ……は?

 いやいや、そんなバカな。

 いや、そんなバカなことがあったのだ。ひとり、ひとキャラクターのみ。確かに受付で使用キャラクターを書きはしたけど、まさかそこで足を掬われるとは……。

 会場のオーディエンスは試合前から白熱していた。当たり前だ。一回戦で二位に15点差をつけて勝利した狂人の再登場ともなれば、白熱しないワケがない。もうね、どこぞのアイドルグループのヲタみたいに、

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 とか叫んでんの。おれの背後は歓声のデッドヒート。でも肝心のおれはというとーー

 大会の規定を聴いた直後から緊張で完全硬直だったからな。

 もうね、完全なデッドエンド。笑えなかったよな。笑顔もギコチナクなってたと思う。

 でも、そんなことはいっていられない。ここ一番、ここ一番を勝利すればいいのだ。おれを誰だと思っている。サークルの工学キャンパス支部の64の主だぞ。息を吐くように人を殺す男だぞーーその呼び名は不名誉だけど。そんなおれが負けるワケがーー

 余裕で負けました。

 もう緊張でガチガチだった。動きもギコチナいし、操作ミスのオンパレードだったし、もはやケアレスミスのリオデジャネイロって感じだったーー意味わからんけど。

 結局、二回戦敗北でおれを連れて来たサークルのメンバーは日頃おれにスマブラでボコボコにされている恨みを晴らすかのようにケタケタと笑っていました。64の主が聴いて呆れるぜ。

 やっぱ緊張なんかいらねぇわ。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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