【ナナフシギ~捌拾弐~】

文字数 671文字

「いわなくてもわかっているでしょうけど、時間の勝負です」

 岩淵はそういった。祐太朗はそんなことはわかりきっているといわんばかりにイラ立った返事を返した。そもそも一日過ぎてしまった時点でもはやタイムリミットは過ぎているも同然だった。だからこそ、取り残された中でも微かに生き残った誰かがいるとするなら、スピード勝負で助け出すしかないということだ。もちろん、岩淵の想定では全員を救い出せることはないということだった。

「......行ってみなきゃ、わかんねえだろ」

 祐太朗は反発するようにいった。それは現実逃避といってしまえば現実逃避だったが、祐太朗は絶望的な状況でもほんのわずかに残っている微かな光のような可能性を信じているようでもあった。岩淵は笑った。

 それが車中で交わされた最後の会話だった。

 23時50分、ふたりは車を降りて裏口から校舎の表口のほうへと向かった。一見するとただの夜の学校ではあるのだが、禍々しい雰囲気は隠しきれず滲み出ているようだった。

 歩いている途中、祐太朗の視線はあっちこっちに飛んでいた。そこら中から霊の気配や霊障が感じられたに違いなかった。岩淵は相も変わらず余裕の表情だった。

「ひとついっておきますが」岩淵は祐太朗の前を行きながら、振り返らずにいった。「もし坊っちゃんに不具合がありそうな場合は、お友達の救出とかは関係なしに坊っちゃんを連れて帰ることにします。くれぐれもご自分の身にはお気をつけて」

 祐太朗は舌打ちした。

「わかってるよ、ハゲ」

 表口への道のりはまるで地獄の業火に包まれているように明るかった。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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