【冷たい墓石で鬼は泣く~玖拾参~】

文字数 556文字

 鉄と鉄を擦り合わせたような悲鳴だった。

 又蔵はしきりに声を上げ叫んでいた。もはや彼の中にある「普通」が壊れ、崩れてしまっていた。わたしは思わず又蔵から手を離しそうになった。それくらいに又蔵の声の圧はすごかった。そして、それはわたしだけでなく敵たちも同様だった。仲間が突然に狂ったように叫びだして、みなもまともな判断力を失ったようで、仲間内で何があったのかを問うように目線を交差させ合っていた。だが、それでわかれば苦労はしないだろう。

「静まれ! 又蔵!」

 親玉らしき男がいった。大きな声。気弱な民ならそれで充分に黙らせることが出来ただろうが、気がどうかしてしまった者に対してはむしろ更なる刺激を与えるだけだった。

「うるせぇ! うるせぇ、うるせぇ......」又蔵の視線はあちこちへと飛んでいるようだった。「テメェら、おれを、おれを殺すつもりなんだろ。仲間とかいって、コイツを殺すためにおれを殺すつもりなんだろ!」

 又蔵は完全に錯乱していた。その暴れ方はもはや、まともからもっとも遠くにあった。わたしの腕が振りほどかれるのも時間の問題だった。だが、相手も困り果てているようだった。又蔵が何をいっているのか、まったくわかっていないのが見えた。

「テメェらなんか! テメェらなんかーー」

 又蔵の動きが止まった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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