【ぼくの年末日記~参~】
文字数 2,131文字
時間なんてモノは無情にも過ぎていく。
カレンダーのマス目には確実にバツがつけられて行き、気づいた頃には一枚は捲られるか、ゴミとして丸められてポイッだ。
12月30日ーー今年が終わるまであと二日を切っている。ぼくはひとり自分の部屋で落ち着きもなくベッドに腰掛けて貧乏ゆすりをしている。
結局、春奈とのやり取りの中で、12月31日の深夜に春奈の家で合流して、そのまま川澄神社へと向かうことに決まった。ちなみに川澄神社は春奈の家のすぐ近くだ。
ぼくの身体を蝕むソワソワと、緊張は少しずつボルテージを上げて行く。
楽しみじゃないなんてことはない。むしろ、楽しみで仕方がない。
だからこそ不安で仕方がないのだ。
ただ、初詣に行くだけ。別にカッコいいところを見せる必要なんかない。というか、そもそもふたりで会って何かする時にカッコいいところを見せる必要なんかあるのだろうか。ふたりで会うからといって、デート……
デート!?
女子とふたりで会う、だなんて、デート以外の何があるんだろう!
「あぁ、デートだね、それは」
いずみはそういった。それから、ぼくが懇意にして貰っている先輩にメッセージにて相談してみたところ、先輩がいうには、
「へぇ、デートか。いいじゃんか」
とこんな感じだった。
デート、デート……、デート!?
頭の中が茹で上がりそうだった。デートだなんて、そんなバカな。いや、バカなというのは、誘ってくれた春奈に失礼ーーいや、仮に春奈がデートだと思っていなかったとしたら?
頭の中がこんがらがる。もはや何を考えてもネガティブな方向へと向いてしまってキリがない。頭が可笑しくなりそうだ。
ちなみに、この先輩というのは、小学校のでも、中学の先輩でもない。とあることを切っ掛けに知り合い、人生の先輩として個人的に慕っている方だ。ちなみに年齢でいえば、ぼく何かよりヤエちゃんのほうがずっと近い。
ぼくはそんな先輩にも相談し、何かアドバイスを頂けたらと思ったのだがーー
『まぁ、おれからいえることは、楽しくやれればいいんじゃないかなってことだけだよ』
ということだった。先輩にしては随分とドライというか冷めたメッセージだった。違和感。いつもは何処までも親切で、非常に面倒見のいい方なのだけど、この時は違った。
……まぁ、先輩にも色々と事情があるのだろう。
いずれにせよ、先輩のいう通りかもしれない。何事も重く捉えすぎて楽しむ気持ちを忘れてしまっては本末転倒だ。やはり、考え過ぎなのかもしれない。そんな時であるーー
突然のメッセージ。
ぼくはいつもと違って傍らに置いてあったスマホを手に取ってメッセージアプリを開く。春奈からだろうかーーそう思うと不思議と身体が緊張に満ち、動きが硬くなる。ぼくはトーク一覧から新着メッセージを確認する。
田宮からだった。
何だろう、と思い田宮からのメッセージを開く。が、ぼくはギョッとしてしまった。
『初詣、どうするよ?』
血液が逆流するような感覚を知っているだろうか。何というか、焦ったり動揺した時に起こる、あの独特な目眩というか、立ちくらみがするような感じというか。足許が少しずつ崩れ落ちて行くような感じである。
完全に忘れていた。
そういえば、今年の頭に田宮と中学生になった記念に大晦日から元旦に掛けて遊びつつ、初詣に行こうと約束していたのだ。
不覚だった。春奈からのお誘いに浮かれポンチになっていたぼくは、田宮との約束を忘却の彼方へと捨てやってしまっていたのだ。
やってしまった……。
ぼくは田宮からのメッセージにどう返信しようか迷いに迷った。下手に行かないというのは、逆に怪しまれるだろう。
家の都合で、という名目でなら断れるだろうが、もし仮に、田宮との約束をブッチして春奈と会っていたとわかれば、色々とマズイことになるのはいうまでもない。
正直にいうべきだろうか。いや、そんなことになれば色々と面倒なことになりそうだ。とはいえ、このままメッセージを返さずにいるワケにもいかない。ぼくは電話を掛ける。
「何、どうしたの?」
電話に出たいずみは寝起きだったのかわからないが、くぐもった声で不機嫌そうに答える。
「やっちまった……」
「は? 何が?」
ぼくは田宮との約束のことを告げた。すると、いずみはーー
「……はぁ? バカなんじゃないの?」ごもっとも過ぎて何も言い返せない。「てか、そんなことして、春奈さんとの約束はどうすんの?」
それがわからないからこそ電話をしたワケだ。自分のこととはいえ情けない。
「いや、だから困ってんだよ」
「アンタ……、ほんとそういうところズボラだよね。どうして立てた予定をメモしておかないかねぇ……」
「完全にやってしまった……。てか、入学したばかりの辺りに約束して、そのまま何の音沙汰もなくって感じだったから」
「それ、あたしじゃなくて田宮にいえる?」
いえません。いえるワケがありません。いずみはまるでぼくに聴かせてやろうとでもするように大きくため息をつくーー
「……仕方ないね。わかったよ。あたしのほうで何とかできるか考えてみるから、シンゴのほうでもよく考えてね。イイ?」
ぼくは静かに相槌を打ったーー
【続く】
カレンダーのマス目には確実にバツがつけられて行き、気づいた頃には一枚は捲られるか、ゴミとして丸められてポイッだ。
12月30日ーー今年が終わるまであと二日を切っている。ぼくはひとり自分の部屋で落ち着きもなくベッドに腰掛けて貧乏ゆすりをしている。
結局、春奈とのやり取りの中で、12月31日の深夜に春奈の家で合流して、そのまま川澄神社へと向かうことに決まった。ちなみに川澄神社は春奈の家のすぐ近くだ。
ぼくの身体を蝕むソワソワと、緊張は少しずつボルテージを上げて行く。
楽しみじゃないなんてことはない。むしろ、楽しみで仕方がない。
だからこそ不安で仕方がないのだ。
ただ、初詣に行くだけ。別にカッコいいところを見せる必要なんかない。というか、そもそもふたりで会って何かする時にカッコいいところを見せる必要なんかあるのだろうか。ふたりで会うからといって、デート……
デート!?
女子とふたりで会う、だなんて、デート以外の何があるんだろう!
「あぁ、デートだね、それは」
いずみはそういった。それから、ぼくが懇意にして貰っている先輩にメッセージにて相談してみたところ、先輩がいうには、
「へぇ、デートか。いいじゃんか」
とこんな感じだった。
デート、デート……、デート!?
頭の中が茹で上がりそうだった。デートだなんて、そんなバカな。いや、バカなというのは、誘ってくれた春奈に失礼ーーいや、仮に春奈がデートだと思っていなかったとしたら?
頭の中がこんがらがる。もはや何を考えてもネガティブな方向へと向いてしまってキリがない。頭が可笑しくなりそうだ。
ちなみに、この先輩というのは、小学校のでも、中学の先輩でもない。とあることを切っ掛けに知り合い、人生の先輩として個人的に慕っている方だ。ちなみに年齢でいえば、ぼく何かよりヤエちゃんのほうがずっと近い。
ぼくはそんな先輩にも相談し、何かアドバイスを頂けたらと思ったのだがーー
『まぁ、おれからいえることは、楽しくやれればいいんじゃないかなってことだけだよ』
ということだった。先輩にしては随分とドライというか冷めたメッセージだった。違和感。いつもは何処までも親切で、非常に面倒見のいい方なのだけど、この時は違った。
……まぁ、先輩にも色々と事情があるのだろう。
いずれにせよ、先輩のいう通りかもしれない。何事も重く捉えすぎて楽しむ気持ちを忘れてしまっては本末転倒だ。やはり、考え過ぎなのかもしれない。そんな時であるーー
突然のメッセージ。
ぼくはいつもと違って傍らに置いてあったスマホを手に取ってメッセージアプリを開く。春奈からだろうかーーそう思うと不思議と身体が緊張に満ち、動きが硬くなる。ぼくはトーク一覧から新着メッセージを確認する。
田宮からだった。
何だろう、と思い田宮からのメッセージを開く。が、ぼくはギョッとしてしまった。
『初詣、どうするよ?』
血液が逆流するような感覚を知っているだろうか。何というか、焦ったり動揺した時に起こる、あの独特な目眩というか、立ちくらみがするような感じというか。足許が少しずつ崩れ落ちて行くような感じである。
完全に忘れていた。
そういえば、今年の頭に田宮と中学生になった記念に大晦日から元旦に掛けて遊びつつ、初詣に行こうと約束していたのだ。
不覚だった。春奈からのお誘いに浮かれポンチになっていたぼくは、田宮との約束を忘却の彼方へと捨てやってしまっていたのだ。
やってしまった……。
ぼくは田宮からのメッセージにどう返信しようか迷いに迷った。下手に行かないというのは、逆に怪しまれるだろう。
家の都合で、という名目でなら断れるだろうが、もし仮に、田宮との約束をブッチして春奈と会っていたとわかれば、色々とマズイことになるのはいうまでもない。
正直にいうべきだろうか。いや、そんなことになれば色々と面倒なことになりそうだ。とはいえ、このままメッセージを返さずにいるワケにもいかない。ぼくは電話を掛ける。
「何、どうしたの?」
電話に出たいずみは寝起きだったのかわからないが、くぐもった声で不機嫌そうに答える。
「やっちまった……」
「は? 何が?」
ぼくは田宮との約束のことを告げた。すると、いずみはーー
「……はぁ? バカなんじゃないの?」ごもっとも過ぎて何も言い返せない。「てか、そんなことして、春奈さんとの約束はどうすんの?」
それがわからないからこそ電話をしたワケだ。自分のこととはいえ情けない。
「いや、だから困ってんだよ」
「アンタ……、ほんとそういうところズボラだよね。どうして立てた予定をメモしておかないかねぇ……」
「完全にやってしまった……。てか、入学したばかりの辺りに約束して、そのまま何の音沙汰もなくって感じだったから」
「それ、あたしじゃなくて田宮にいえる?」
いえません。いえるワケがありません。いずみはまるでぼくに聴かせてやろうとでもするように大きくため息をつくーー
「……仕方ないね。わかったよ。あたしのほうで何とかできるか考えてみるから、シンゴのほうでもよく考えてね。イイ?」
ぼくは静かに相槌を打ったーー
【続く】