【消えたサトコを追え】
文字数 2,637文字
いやね、こんな妄想に二日も使うなんて恥ですよ、恥。
自分でいってるからって免罪符になると思うなよといいたいのだけど、正直、自分でも何でこんなバカみたいな話にこんな時間を使っているのだろうと呆れるばかりだ。
まぁ、いきなり何をいい出すんだこのガイキチは、と初めてこの駄文集を読んだ人は思うだろうから説明しなければならないなーーそんなヤツいない?確かにな。
取り敢えず二日前の話のおさらいとしては、
『大学一年の五条氏の元に三件の間違い電話が掛かってきた。一件目は「サトコ」という女性を訪ねて電話してきた男で、二、三件目は「ナオ」という女性の母親らしき女性からだった』
てな感じ。まぁ、昨日のヤツのコピペなんだけど。で、昨日の話のおさらいとしてはーー
『ガイキチな五条氏は考えた。これは複合性を持つひとつのインシデントなのではないか。そこで、考えたのが以下の通りだーー大学に通うため、東京にて独り暮らしを始めた大河原ナオは、金を稼ぐために「牝嫐扠」というキャバクラにて働き出したが、そこで出会った「近藤武蔵」の粘着によって、デタラメの電話番号を渡して仕事をバックレることにしたのだ』
こんな感じ。長いしバカだし、何なのこれ。というワケで今日も書いてくわ。じゃーー
翌日も、その翌日も武蔵は「牝嫐扠」に現れた。が、そこにナオの姿はなかった。
店長の村浜を呼び出し話を訊くが、
「どういうワケか、連絡がつかんのですよ」
とのことだった。着信はすべて無視で、コールが掛かったと思いきやすぐに切られ、次の電話では圏外通知に変わる。
二日目に電話を掛けてみると既に着信拒否がなされているのか、一向に掛かる気配はない。
「ムラヒャマ、サチョコシャンノリレキチョミセリョ!」
武蔵は焦っていた。どうして、どうして彼女は自分の前から消えてしまったのか。その思いが武蔵の滑舌の悪い喋りをより早口にし聞き取りづらくさせた。
村浜は一瞬ボケッとした表情を浮かべたが、武蔵が怒号をあげるとすぐさま店の奥へと走っていった。
普通の客なら、バックレたキャストの履歴書を拝見するなど、不可能だろう。しかし、武蔵にはそれができる。
何故なら、武蔵は「牝嫐扠」のバックについている暴力団「香田組」の二代目組長の息子だからだ。間違っても「倖田來未」ではない。
「パパにいいつけるぞ」
それが武蔵の口癖だった。滑舌的にいえば、こんな流暢には喋れないとはいえ、このことばが出ると収集がつかなくなる。
だからこそ、武蔵は学生時代も「避妊具みたいな名前」と弄られることなく、クラスを牛耳る立場に君臨し続けられたのだ。
村浜としても武蔵とのトラブルは避けたかったに違いない。店の奥から戻って来、
「ど、どうぞ……ッ!」
武蔵はそういって差し出された履歴書を引ったくると、代金も払わずに店を後にした。
店を後にすると、武蔵はすぐさまナオの家に向かった。車の後部座席からナオの部屋を見上げる。が、電気は点いていない。
時刻は夜の十一時、こんな遅くまで帰っていないのは、何故だろうか。聞くところによれば、ナオは大学生とのことだが、大学の講義はここまで遅くはならないし、彼女はサークルにも所属していない。
もしや、彼氏か……?
武蔵の視界が真っ赤に染まる。そんなことあるワケがない。あってはならない。
「もういい時間ですけど、どうしますか?」
運転手が訊ねる。武蔵は顔をプルプルさせ、
「マチュニキマッチェルダリョオ!」
運転手は一瞬首を傾げ掛けたが、すぐさま「承知致しました」といった。何を承知したのかはわからない。
それから時間は過ぎ、気づけば朝になっていた。運転手も緊張疲れからか居眠りをしてしまっていたが、武蔵は血走らせた目を見開いたまま、ナオの部屋を見上げ続けていた。
運転手が眠りから目覚めた時には朝の六時を回っていた。起きてすぐに自分の立場を思い出し、武蔵に謝った。が、武蔵は、「何がだ?」と部屋を見上げたままいった。
時間は無常にも過ぎていった。
陽も昇り、このまま部屋を監視し続けるのは危険だと判断した運転手は、声を震わせながら武蔵に引き上げたほうがいいといった。武蔵は渋々ながら、それに従った。
運転手は武蔵に聴かれないような小さなため息をついた。
武蔵は気が短いことで有名で、香田組組員や関係者、武蔵と関係のある人間からは陰で「極薄」と呼ばれていた。何故なら「極薄」はキレやすくイキやすいからだーー避妊具みたいな名前だけに。
それから武蔵は勤めを休み、家で寝ようとしていた。が、ナオのことを考えるととてもじゃないが、床になどつけない。
目が覚めている。頭が冴えている。苛立ちが止まらない。吐き気がする。
眠れぬまま薄暗い昼間を過ごし、気づけば夕方になっていた。肉体が眠ることを拒否している。それより、今日も……。
浮き足だっている。武蔵はスマホを手に取り、「牝嫐扠」の番号をタップした。
村浜は三コールほどで電話に出た。が、今の武蔵にとってはたった三コールすら長く感じ、電話が繋がりざま、
「オチョイッ!」
と怒鳴った。多分、村浜もワケがわからなかったことだろう。
武蔵はそれから村浜に、ナオが来たら電話するようにーー
電話?
……電話ッ!
そうだ。アフターのあった夜、武蔵はサトコから電話番号を聞き出しているではないか。
武蔵は電話を叩き切ると、すぐさまスマホケースのポケットを改めた。
あった。
甘い香りのする香水の掛かった「牝嫐扠」の名刺の裏に書かれたサトコの電話番号。
武蔵はすぐさま電話を掛けた。
こころが踊る。ドキドキする。漸くサトコと話せる。血液が沸騰する。コール音一つひとつがまるで自分の心音のよう。
ガチャーー繋がった。
「モシュモシュ、サチョコシャンデシュカ?」
武蔵はフライング気味に訊ねた。
「え?違うと思うんですが」
電話から流れたのは、低音の効いた声。間違いなく男のものだった。
騙された、と武蔵は確信した。
仮にこの電話の主が彼氏だとしたらーーいや、こんな地方の三流大学に通ってそうで、休日は新聞の勧誘員をあしらって楽しんでいそうな性格の悪いガイキチみたいな声の男がサトコの彼氏など有り得ない、と武蔵は思った。
武蔵は電話を切った。顔が震える。サトコの履歴書を片手に、武蔵はもう一本電話を掛け始めたーー
はい、終わり。次回は多分ナオの母親が出る。予想外に長くなりそうで、頭が痛いわ。
アスタラビスタ。
自分でいってるからって免罪符になると思うなよといいたいのだけど、正直、自分でも何でこんなバカみたいな話にこんな時間を使っているのだろうと呆れるばかりだ。
まぁ、いきなり何をいい出すんだこのガイキチは、と初めてこの駄文集を読んだ人は思うだろうから説明しなければならないなーーそんなヤツいない?確かにな。
取り敢えず二日前の話のおさらいとしては、
『大学一年の五条氏の元に三件の間違い電話が掛かってきた。一件目は「サトコ」という女性を訪ねて電話してきた男で、二、三件目は「ナオ」という女性の母親らしき女性からだった』
てな感じ。まぁ、昨日のヤツのコピペなんだけど。で、昨日の話のおさらいとしてはーー
『ガイキチな五条氏は考えた。これは複合性を持つひとつのインシデントなのではないか。そこで、考えたのが以下の通りだーー大学に通うため、東京にて独り暮らしを始めた大河原ナオは、金を稼ぐために「牝嫐扠」というキャバクラにて働き出したが、そこで出会った「近藤武蔵」の粘着によって、デタラメの電話番号を渡して仕事をバックレることにしたのだ』
こんな感じ。長いしバカだし、何なのこれ。というワケで今日も書いてくわ。じゃーー
翌日も、その翌日も武蔵は「牝嫐扠」に現れた。が、そこにナオの姿はなかった。
店長の村浜を呼び出し話を訊くが、
「どういうワケか、連絡がつかんのですよ」
とのことだった。着信はすべて無視で、コールが掛かったと思いきやすぐに切られ、次の電話では圏外通知に変わる。
二日目に電話を掛けてみると既に着信拒否がなされているのか、一向に掛かる気配はない。
「ムラヒャマ、サチョコシャンノリレキチョミセリョ!」
武蔵は焦っていた。どうして、どうして彼女は自分の前から消えてしまったのか。その思いが武蔵の滑舌の悪い喋りをより早口にし聞き取りづらくさせた。
村浜は一瞬ボケッとした表情を浮かべたが、武蔵が怒号をあげるとすぐさま店の奥へと走っていった。
普通の客なら、バックレたキャストの履歴書を拝見するなど、不可能だろう。しかし、武蔵にはそれができる。
何故なら、武蔵は「牝嫐扠」のバックについている暴力団「香田組」の二代目組長の息子だからだ。間違っても「倖田來未」ではない。
「パパにいいつけるぞ」
それが武蔵の口癖だった。滑舌的にいえば、こんな流暢には喋れないとはいえ、このことばが出ると収集がつかなくなる。
だからこそ、武蔵は学生時代も「避妊具みたいな名前」と弄られることなく、クラスを牛耳る立場に君臨し続けられたのだ。
村浜としても武蔵とのトラブルは避けたかったに違いない。店の奥から戻って来、
「ど、どうぞ……ッ!」
武蔵はそういって差し出された履歴書を引ったくると、代金も払わずに店を後にした。
店を後にすると、武蔵はすぐさまナオの家に向かった。車の後部座席からナオの部屋を見上げる。が、電気は点いていない。
時刻は夜の十一時、こんな遅くまで帰っていないのは、何故だろうか。聞くところによれば、ナオは大学生とのことだが、大学の講義はここまで遅くはならないし、彼女はサークルにも所属していない。
もしや、彼氏か……?
武蔵の視界が真っ赤に染まる。そんなことあるワケがない。あってはならない。
「もういい時間ですけど、どうしますか?」
運転手が訊ねる。武蔵は顔をプルプルさせ、
「マチュニキマッチェルダリョオ!」
運転手は一瞬首を傾げ掛けたが、すぐさま「承知致しました」といった。何を承知したのかはわからない。
それから時間は過ぎ、気づけば朝になっていた。運転手も緊張疲れからか居眠りをしてしまっていたが、武蔵は血走らせた目を見開いたまま、ナオの部屋を見上げ続けていた。
運転手が眠りから目覚めた時には朝の六時を回っていた。起きてすぐに自分の立場を思い出し、武蔵に謝った。が、武蔵は、「何がだ?」と部屋を見上げたままいった。
時間は無常にも過ぎていった。
陽も昇り、このまま部屋を監視し続けるのは危険だと判断した運転手は、声を震わせながら武蔵に引き上げたほうがいいといった。武蔵は渋々ながら、それに従った。
運転手は武蔵に聴かれないような小さなため息をついた。
武蔵は気が短いことで有名で、香田組組員や関係者、武蔵と関係のある人間からは陰で「極薄」と呼ばれていた。何故なら「極薄」はキレやすくイキやすいからだーー避妊具みたいな名前だけに。
それから武蔵は勤めを休み、家で寝ようとしていた。が、ナオのことを考えるととてもじゃないが、床になどつけない。
目が覚めている。頭が冴えている。苛立ちが止まらない。吐き気がする。
眠れぬまま薄暗い昼間を過ごし、気づけば夕方になっていた。肉体が眠ることを拒否している。それより、今日も……。
浮き足だっている。武蔵はスマホを手に取り、「牝嫐扠」の番号をタップした。
村浜は三コールほどで電話に出た。が、今の武蔵にとってはたった三コールすら長く感じ、電話が繋がりざま、
「オチョイッ!」
と怒鳴った。多分、村浜もワケがわからなかったことだろう。
武蔵はそれから村浜に、ナオが来たら電話するようにーー
電話?
……電話ッ!
そうだ。アフターのあった夜、武蔵はサトコから電話番号を聞き出しているではないか。
武蔵は電話を叩き切ると、すぐさまスマホケースのポケットを改めた。
あった。
甘い香りのする香水の掛かった「牝嫐扠」の名刺の裏に書かれたサトコの電話番号。
武蔵はすぐさま電話を掛けた。
こころが踊る。ドキドキする。漸くサトコと話せる。血液が沸騰する。コール音一つひとつがまるで自分の心音のよう。
ガチャーー繋がった。
「モシュモシュ、サチョコシャンデシュカ?」
武蔵はフライング気味に訊ねた。
「え?違うと思うんですが」
電話から流れたのは、低音の効いた声。間違いなく男のものだった。
騙された、と武蔵は確信した。
仮にこの電話の主が彼氏だとしたらーーいや、こんな地方の三流大学に通ってそうで、休日は新聞の勧誘員をあしらって楽しんでいそうな性格の悪いガイキチみたいな声の男がサトコの彼氏など有り得ない、と武蔵は思った。
武蔵は電話を切った。顔が震える。サトコの履歴書を片手に、武蔵はもう一本電話を掛け始めたーー
はい、終わり。次回は多分ナオの母親が出る。予想外に長くなりそうで、頭が痛いわ。
アスタラビスタ。