【帝王霊~死拾弐~】
文字数 1,221文字
ストリートの喧騒はもはやそこにはない。
あるのは無音のままシーンと響き渡る緊張感だけだった。いや、本来なら安堵が出来るような状況であったともいえる。だが、それも直前の出来事を考えると、そんな悠長な考え方もしてはいられないいだろう。
和雅は自室の出入口のドアに背を預けて立ち尽くしている。吐く息はとても荒い。結露したような汗の珠が身体中を伝っている。
「電気、つけたら?」チエがいう。
部屋は闇に包まれている。帰ってきてからというモノ、和雅はずっと玄関に立ち尽くすばかりだった。メグミを置いて逃げた。その事実が和雅のマインドを蝕んでいるのかもしれない。それを見透かしたようにチエは、
「メグミのことは仕方ないよ。アンタには助けられなかった」
チエのことばに、和雅はささやかな笑みを浮かべる。
「......どうしたの?」チエは不審がっていう。
「......まただよ」
「また、って......?」
「また救えなかった......」
和雅の声が震える。そのことばからは、強い後悔が窺えた。和雅はそのままドアに背を預けたまま地面にへたり込む。
「......どういうこと?」
和雅は答えない。ただ沈黙の中に身を埋めるばかり。
「ねぇ、何があったの。救えないってさ。そりゃ、確かにメグミのことはそうだよ。でも、相手が悪霊だってんなら、アンタにどうにか出来るモンでもないでしょ。わたしがどうこういえる立場でもないけどさ。今回のアンタに関しては仕方なかった。それより、逃がしてくれたメグミに感謝すること。違う?」
だが、和雅は依然として黙ったままだ。そんな和雅に愛想を尽かすようにチエは眉間にシワを寄せ、口を開こうとした。が、
「夏にさ、外夢祭ってあったの知ってるかい?」
突然の和雅の質問にチエは呆気に取られる。
「え......。いや、その時にはもう、わたしは死んでたから......」
「そうか......。悪いこと聞いちまったね」
「それは別にいいんだけど......、その祭りで何かあったの?」
「......おれが友人の足を引っ張って恥を掻かせちまったんよ」
和雅は話す。外夢祭にて友人の外山慎平に恥を掻かせてしまい、彼女と自分の前から姿を消すキッカケを作ってしまったことを。
「......そっか。でも、それってアンタがどうってことでもないじゃん。結局はその友達の......」チエは一瞬く口をつぐむ。「そうかも、でもさ......」
チエは座り込んだ和雅の前に屈み込んで和雅の顔を覗き込む。和雅の顔は涙でいっぱいになっている。余程悔しかったのか、その涙は止まらない。チエはゆっくりと和雅の身体に腕を回そうとするう。だが、和雅にはそれは見えない。チエが和雅の身体を包み込もうとーー
スマホが鳴る。
「電話、出なくていいの?」チエ。
和雅はゆっくりとスマホを取り出して通話ボタンをスライドさせる。
「......もしもし」
沈黙。そして、和雅の目は見開かれた。
【続く】
あるのは無音のままシーンと響き渡る緊張感だけだった。いや、本来なら安堵が出来るような状況であったともいえる。だが、それも直前の出来事を考えると、そんな悠長な考え方もしてはいられないいだろう。
和雅は自室の出入口のドアに背を預けて立ち尽くしている。吐く息はとても荒い。結露したような汗の珠が身体中を伝っている。
「電気、つけたら?」チエがいう。
部屋は闇に包まれている。帰ってきてからというモノ、和雅はずっと玄関に立ち尽くすばかりだった。メグミを置いて逃げた。その事実が和雅のマインドを蝕んでいるのかもしれない。それを見透かしたようにチエは、
「メグミのことは仕方ないよ。アンタには助けられなかった」
チエのことばに、和雅はささやかな笑みを浮かべる。
「......どうしたの?」チエは不審がっていう。
「......まただよ」
「また、って......?」
「また救えなかった......」
和雅の声が震える。そのことばからは、強い後悔が窺えた。和雅はそのままドアに背を預けたまま地面にへたり込む。
「......どういうこと?」
和雅は答えない。ただ沈黙の中に身を埋めるばかり。
「ねぇ、何があったの。救えないってさ。そりゃ、確かにメグミのことはそうだよ。でも、相手が悪霊だってんなら、アンタにどうにか出来るモンでもないでしょ。わたしがどうこういえる立場でもないけどさ。今回のアンタに関しては仕方なかった。それより、逃がしてくれたメグミに感謝すること。違う?」
だが、和雅は依然として黙ったままだ。そんな和雅に愛想を尽かすようにチエは眉間にシワを寄せ、口を開こうとした。が、
「夏にさ、外夢祭ってあったの知ってるかい?」
突然の和雅の質問にチエは呆気に取られる。
「え......。いや、その時にはもう、わたしは死んでたから......」
「そうか......。悪いこと聞いちまったね」
「それは別にいいんだけど......、その祭りで何かあったの?」
「......おれが友人の足を引っ張って恥を掻かせちまったんよ」
和雅は話す。外夢祭にて友人の外山慎平に恥を掻かせてしまい、彼女と自分の前から姿を消すキッカケを作ってしまったことを。
「......そっか。でも、それってアンタがどうってことでもないじゃん。結局はその友達の......」チエは一瞬く口をつぐむ。「そうかも、でもさ......」
チエは座り込んだ和雅の前に屈み込んで和雅の顔を覗き込む。和雅の顔は涙でいっぱいになっている。余程悔しかったのか、その涙は止まらない。チエはゆっくりと和雅の身体に腕を回そうとするう。だが、和雅にはそれは見えない。チエが和雅の身体を包み込もうとーー
スマホが鳴る。
「電話、出なくていいの?」チエ。
和雅はゆっくりとスマホを取り出して通話ボタンをスライドさせる。
「......もしもし」
沈黙。そして、和雅の目は見開かれた。
【続く】