【一年三組の皇帝~死拾玖~】
文字数 1,167文字
煮え切らないーー何かが引っ掛かる。
ぼくはボーッと暗闇の中を彷徨っているようだった。ぼくには何も見えていない。視界がパッと明るくなるような答えが欲しい。頭の中を覆う霧のような漠然とした気分を全部拭き取って欲しかった。
しかし、そこにあるのは迷宮だった。
ドアが三つある。この時、ひとつのドアを選んで、また別のドアを選び直す。そのほうが正しいドアを開ける確率が増えると聞いたことある。
それもそうだろう。
最初に選んだドアが正解でない限り、選び直せば当たりを引く確率は50パーセント。選び直さなければ33パーセント。もちろん、最初に当たりを選べば外れる確率は100パーセント。ただ、その当たりを引く可能性は33パーセントで、外れを引く可能性は66パーセントなのだから、逆にいえば100パーセント外れる可能性も33パーセントということになる。
だけど、あの『ネイティブ』というゲームはそれをはるかに超えたところの確率で勝負しなければならない。かざしたカードに、目の前にある五枚のカード。それらすべてにかつ方法というのはもはや殆ど運任せになるーーイカサマをしていない限りは。
じゃあ、仮に勝つ確率を上げるためにカードを選び直すかといえば、それは必ずしもそうだとはいい切れない。というのは、シンプルにカードの種類が多すぎるのだ。絵柄を区別しないでいえば、数字は13、ジョーカーを入れれば14のカードがそこにある。目の前の五人はこの内、満遍ない数字を帯のように引いてくると考えていい。そうすると、ある特定の誰かに勝つことは簡単だとしても、全員に勝つのは簡単ではないことがわかる。
ただ、逆なら簡単だ。つまりは五人でひとりに勝つこと。それはアクビが出るほどに単純な計算となる。四人が負けてもひとりが相手に勝てばいいのだから。
しかし、そうなるとーー
「林崎」
突然名前を呼ばれてハッとした。辺りを見回すとたくさんの冷ややかな視線がぼくに突き刺さっているのがわかった。
演劇部のメンバーだ。その中にはもちろん岩浪先輩もいずみの姿もあった。そして、他の部員も一年生から三年生まで。
「ボーッとするな」
岩浪先輩にいわれ、ぼくはすみませんと頭を下げた。岩浪先輩は大きくため息をついた。
「お前、今日は帰っていい」
そういわれてぼくは食い下がった。だが、岩浪先輩は、集中しないなら帰れといい、少し頭を冷ましてからまた来るようにといった。その通りだった。少し頭を冷やさなければならない。ぼくは、失礼しますといい、稽古場を後にした。
気になることが多すぎた。完全に演劇どころではなくなっていた。ぼくは学校を後にし、何も考えずに歩いた、歩いたーー歩いた。
「おい」
またもや声を掛けられた。今度はすぐに反応した。パッと振り返った。
辻たち三人の姿があった。
【続く】
ぼくはボーッと暗闇の中を彷徨っているようだった。ぼくには何も見えていない。視界がパッと明るくなるような答えが欲しい。頭の中を覆う霧のような漠然とした気分を全部拭き取って欲しかった。
しかし、そこにあるのは迷宮だった。
ドアが三つある。この時、ひとつのドアを選んで、また別のドアを選び直す。そのほうが正しいドアを開ける確率が増えると聞いたことある。
それもそうだろう。
最初に選んだドアが正解でない限り、選び直せば当たりを引く確率は50パーセント。選び直さなければ33パーセント。もちろん、最初に当たりを選べば外れる確率は100パーセント。ただ、その当たりを引く可能性は33パーセントで、外れを引く可能性は66パーセントなのだから、逆にいえば100パーセント外れる可能性も33パーセントということになる。
だけど、あの『ネイティブ』というゲームはそれをはるかに超えたところの確率で勝負しなければならない。かざしたカードに、目の前にある五枚のカード。それらすべてにかつ方法というのはもはや殆ど運任せになるーーイカサマをしていない限りは。
じゃあ、仮に勝つ確率を上げるためにカードを選び直すかといえば、それは必ずしもそうだとはいい切れない。というのは、シンプルにカードの種類が多すぎるのだ。絵柄を区別しないでいえば、数字は13、ジョーカーを入れれば14のカードがそこにある。目の前の五人はこの内、満遍ない数字を帯のように引いてくると考えていい。そうすると、ある特定の誰かに勝つことは簡単だとしても、全員に勝つのは簡単ではないことがわかる。
ただ、逆なら簡単だ。つまりは五人でひとりに勝つこと。それはアクビが出るほどに単純な計算となる。四人が負けてもひとりが相手に勝てばいいのだから。
しかし、そうなるとーー
「林崎」
突然名前を呼ばれてハッとした。辺りを見回すとたくさんの冷ややかな視線がぼくに突き刺さっているのがわかった。
演劇部のメンバーだ。その中にはもちろん岩浪先輩もいずみの姿もあった。そして、他の部員も一年生から三年生まで。
「ボーッとするな」
岩浪先輩にいわれ、ぼくはすみませんと頭を下げた。岩浪先輩は大きくため息をついた。
「お前、今日は帰っていい」
そういわれてぼくは食い下がった。だが、岩浪先輩は、集中しないなら帰れといい、少し頭を冷ましてからまた来るようにといった。その通りだった。少し頭を冷やさなければならない。ぼくは、失礼しますといい、稽古場を後にした。
気になることが多すぎた。完全に演劇どころではなくなっていた。ぼくは学校を後にし、何も考えずに歩いた、歩いたーー歩いた。
「おい」
またもや声を掛けられた。今度はすぐに反応した。パッと振り返った。
辻たち三人の姿があった。
【続く】