【ハゲはスリル、ショック、サスペンス】
文字数 3,025文字
男に髪の話をするモノではない。
これは冗談でも何でもなく、髪のことは男にとっては死活問題でしかないから話すべきではないということだ。しかも、早いヤツは十代の内からハゲ始め、二十代半ばにもなると、見た目でわかるレベルの薄毛になってしまうのだから、男の髪の毛事情は非常に由々しき問題だ。
では、かくいうおれはどうなのか。
これは本当に幸い、ハゲてはいない。見た感じもまだハゲには遠いらしい。
証拠というには弱いかもしれないが、美容室で髪を切る度に、美容師のお姉さんから、
「髪の毛サラサラなのに、量は多いし、すごく強いねぇ」
と呆れ半分にいわれる程だ。これなら取り敢えずは五年は心配なしに生活できるかとは思うのだけど、個人的に髪の毛がタフなのはいいとはいえ、ワックスをつけてもすぐに髪は垂れるし、ドライヤーでセットしても前髪がすぐに落ちて視界を邪魔するので、正直困っている。
ただ、そんなのは贅沢な悩みであって、むしろ髪が多いことには感謝しなければならない。
まぁ、こんな話をするのも、同級生がたちどころに自分の髪の毛事情を気にするようになったからだ。
昨年末の麻生と飲んだ話でも書いたが、麻生も自分の髪が薄くなったことを気にしているとのことだった。見た感じは昔と全然変わらない気はするのだけど、そういわれると、若干髪は薄くなったのかもしれない。
そんな話をすると、やはり自分も気になってしまうのが世の道理だ。おれもまだ大丈夫なんて楽天的なことはいっていられない。
しかし、残念なことにハゲは格好のネタにされがちだ。特に子供には。
そもそも「ハゲ」という語感が悪すぎる。どう聴いたってマヌケにしか聴こえないし、字体も笑いを誘っているようにしか見えない。
ま、かといって薄毛のことを「バリスティック」みたいなワードで呼ぶようになったからといって、今度はこの「バリスティック」ってワードがバカっぽく見えたり、聴こえたりするようになるんだろうけどな。
「お前の頭、バリスティックだな」
何か、そういわれてもピンとこないというか、むしろカッコよく聴こえるな。これからこの駄文集では「ハゲ」のことを「バリスティック」と呼ぶことにするんで、よろしく。
さて、それはさておき本題である。
我々は余りにもバリスティックのことをバカにしがちだ。特に子供なんて残酷なモノで、すぐにバリスティックのことをバカにする。
というワケで今回はそのことを反省する意味も兼ねて、バリスティックーーいちいち面倒だから、今回だけは「ハゲ」って呼称するわーーに関する話をしていこうと思う。
あれは中学三年のことだった。また中三の話かよって感じなんだけど、そこは許せ。
当時はちょうど小野寺先生の「平行四辺形事件」があった頃だった。「平行四辺形事件」については過去記事の『トライアングル・イリュージョニスト』を読んでくれな。
ちなみにその時期におれの隣に座っていたのは、おれのせいで何度も顔を真っ赤にして笑い◯にしそうになっていた山口さんという女子で、おれのふた席うしろにはキャナが座っていた。つまり、教室内の同じ班に山口さんとキャナがいたというワケだ。
教室内で席替えが行われると、まずは必ず班内で各種係の分担をすることになる。おれはーー何か仕事してたかな……まぁ、いいや。
同時に班が変わると、その班に誰がいるかということを明確にしなければならず、その為にも各班ごとに班ポスターを作って教室のうしろに貼っていたのだけど、その班ポスター作成はおれが担当することが多かった。
理由?ーー少しは絵が描ける人だったからだよ。それはさておきーー
とはいえ、毎回のように班ポスターを書いていると流石にマンネリ化してくる。そこでおれは思ったのだ。
もっとセンシティブなポスターにしたい、と。
そう考え、おれはポスターをデザインし、班員に、ポスターが書き上がったからブタさんに提出しといたよと伝えたのだった。当然、どんなポスターにしたのかと訊ねられはしたけれど、そこは見てのお楽しみと伝えて。
数日後、おれらの班の班ポスターが教室のうしろに貼り出された。が、それを見たキャナと山口さんは、
ふたりして噴き出してしまったのだ。
「何書いてんだよ」とキャナ。
「これはダメだよ、絶対怒られるよ」と笑いながらいう山口さんーーやっぱり窒息しそうになってた。
では、このふたりをここまで追い込んだポスターというのは何だったのか、それはーー
ハゲた教員の似顔絵がデカデカと描かれたポスターだった。
しかも、ブーメランパンツを履き、ミスターオリンピアに出たら優勝間違いなしのマッチョ姿で、だ。
このハゲた教員というのは、技術科担当の『松澤聖二』という先生で、詳しい話をすると書くネタが減るのでここでは控えるけど、彼を端的にいい表すと「歩くパワハラの温床」といった感じだった。
ちなみに、おれやキャナ、外山の間では、この歩くパワハラを裏で「聖二」と読んでネタにしていたのだけど、到頭、聖二をネタにしている事実がメジャーデビューしたワケだった。
しかも、ポスターに聖二を書くことの何がマズイかといえばーー
聖二は授業中にクラスの掲示物を観るのが好きなのだ。
となると、これはもうおれの描いたブーメランパンツを履いたマッチョな聖二が、本物の聖二の目に映ることとなるワケだ。
これには胸が熱くなった。
果たして聖二は、マッチョになった自分の絵を見て、どういう反応をするのか。
そんなことを思いつつ、おれは技術科の時間がやってくるのを待った、待ったーー待ち続けた。ワクワクが止まらなかった。
そして、技術科の授業の時間がやって来た。キャナは聖二が来た時点で笑ってたし、山口さんは相変わらず笑いを堪えて顔を真っ赤にしてた。
そんな感じで、授業が進み、到頭聖二が教室のうしろへいったのだ。
体内を駆け巡る全ホルモンが沸騰する勢いだった。来た。キャナは小声で爆笑し、山口さんは笑いを堪えながらおれの肩を殴った。
さぁ、聖二よ、お前の反応を見せてくれ!
ーー無反応。
……おや?
可笑しいな……。確かに聖二はうしろの掲示物を観ている。おれの描いたポスターにはご丁寧に「聖二」と書いてある。わからないワケなどなかったーーわからないワケなど。
だが、聖二は無反応だった。
うんともすんともいわなかった。
それどころか、そのまま無難に授業を終えて教室を後にしてしまったのだ。
失望したーーこころの底から失望した。
何故聖二はマッチョになった自分の似顔絵に何のツッコミもいれなかったのか、皆目見当がつかなかった。
それからというモノ、技術科の授業が待ち遠しくなって仕方なかった。
授業で聖二が教室のうしろへいく度に、血流が逆流するような興奮を覚えた。だがーー
聖二は何の反応も示さなかった。
残念だよ、聖二。
結局、聖二はおれの描いたポスターには気付かずに、そのまま席替えとなってしまい、聖二がマッチョな自分と対面する機会は訪れず終いとなってしまったのだった。
これ以降も聖二のブーメランパンツ似顔絵を描きまくったにも関わらず、聖二は結局気付かなかったしな。
てか、ブタさんも聖二の絵が描かれてる時点でリテイクを命じろよーー
もしかして、おれの絵が下手過ぎてわからなかったのか?
それはそれでショックである。
ハゲを弄るのは止めよう。
アスタラビスタ。
これは冗談でも何でもなく、髪のことは男にとっては死活問題でしかないから話すべきではないということだ。しかも、早いヤツは十代の内からハゲ始め、二十代半ばにもなると、見た目でわかるレベルの薄毛になってしまうのだから、男の髪の毛事情は非常に由々しき問題だ。
では、かくいうおれはどうなのか。
これは本当に幸い、ハゲてはいない。見た感じもまだハゲには遠いらしい。
証拠というには弱いかもしれないが、美容室で髪を切る度に、美容師のお姉さんから、
「髪の毛サラサラなのに、量は多いし、すごく強いねぇ」
と呆れ半分にいわれる程だ。これなら取り敢えずは五年は心配なしに生活できるかとは思うのだけど、個人的に髪の毛がタフなのはいいとはいえ、ワックスをつけてもすぐに髪は垂れるし、ドライヤーでセットしても前髪がすぐに落ちて視界を邪魔するので、正直困っている。
ただ、そんなのは贅沢な悩みであって、むしろ髪が多いことには感謝しなければならない。
まぁ、こんな話をするのも、同級生がたちどころに自分の髪の毛事情を気にするようになったからだ。
昨年末の麻生と飲んだ話でも書いたが、麻生も自分の髪が薄くなったことを気にしているとのことだった。見た感じは昔と全然変わらない気はするのだけど、そういわれると、若干髪は薄くなったのかもしれない。
そんな話をすると、やはり自分も気になってしまうのが世の道理だ。おれもまだ大丈夫なんて楽天的なことはいっていられない。
しかし、残念なことにハゲは格好のネタにされがちだ。特に子供には。
そもそも「ハゲ」という語感が悪すぎる。どう聴いたってマヌケにしか聴こえないし、字体も笑いを誘っているようにしか見えない。
ま、かといって薄毛のことを「バリスティック」みたいなワードで呼ぶようになったからといって、今度はこの「バリスティック」ってワードがバカっぽく見えたり、聴こえたりするようになるんだろうけどな。
「お前の頭、バリスティックだな」
何か、そういわれてもピンとこないというか、むしろカッコよく聴こえるな。これからこの駄文集では「ハゲ」のことを「バリスティック」と呼ぶことにするんで、よろしく。
さて、それはさておき本題である。
我々は余りにもバリスティックのことをバカにしがちだ。特に子供なんて残酷なモノで、すぐにバリスティックのことをバカにする。
というワケで今回はそのことを反省する意味も兼ねて、バリスティックーーいちいち面倒だから、今回だけは「ハゲ」って呼称するわーーに関する話をしていこうと思う。
あれは中学三年のことだった。また中三の話かよって感じなんだけど、そこは許せ。
当時はちょうど小野寺先生の「平行四辺形事件」があった頃だった。「平行四辺形事件」については過去記事の『トライアングル・イリュージョニスト』を読んでくれな。
ちなみにその時期におれの隣に座っていたのは、おれのせいで何度も顔を真っ赤にして笑い◯にしそうになっていた山口さんという女子で、おれのふた席うしろにはキャナが座っていた。つまり、教室内の同じ班に山口さんとキャナがいたというワケだ。
教室内で席替えが行われると、まずは必ず班内で各種係の分担をすることになる。おれはーー何か仕事してたかな……まぁ、いいや。
同時に班が変わると、その班に誰がいるかということを明確にしなければならず、その為にも各班ごとに班ポスターを作って教室のうしろに貼っていたのだけど、その班ポスター作成はおれが担当することが多かった。
理由?ーー少しは絵が描ける人だったからだよ。それはさておきーー
とはいえ、毎回のように班ポスターを書いていると流石にマンネリ化してくる。そこでおれは思ったのだ。
もっとセンシティブなポスターにしたい、と。
そう考え、おれはポスターをデザインし、班員に、ポスターが書き上がったからブタさんに提出しといたよと伝えたのだった。当然、どんなポスターにしたのかと訊ねられはしたけれど、そこは見てのお楽しみと伝えて。
数日後、おれらの班の班ポスターが教室のうしろに貼り出された。が、それを見たキャナと山口さんは、
ふたりして噴き出してしまったのだ。
「何書いてんだよ」とキャナ。
「これはダメだよ、絶対怒られるよ」と笑いながらいう山口さんーーやっぱり窒息しそうになってた。
では、このふたりをここまで追い込んだポスターというのは何だったのか、それはーー
ハゲた教員の似顔絵がデカデカと描かれたポスターだった。
しかも、ブーメランパンツを履き、ミスターオリンピアに出たら優勝間違いなしのマッチョ姿で、だ。
このハゲた教員というのは、技術科担当の『松澤聖二』という先生で、詳しい話をすると書くネタが減るのでここでは控えるけど、彼を端的にいい表すと「歩くパワハラの温床」といった感じだった。
ちなみに、おれやキャナ、外山の間では、この歩くパワハラを裏で「聖二」と読んでネタにしていたのだけど、到頭、聖二をネタにしている事実がメジャーデビューしたワケだった。
しかも、ポスターに聖二を書くことの何がマズイかといえばーー
聖二は授業中にクラスの掲示物を観るのが好きなのだ。
となると、これはもうおれの描いたブーメランパンツを履いたマッチョな聖二が、本物の聖二の目に映ることとなるワケだ。
これには胸が熱くなった。
果たして聖二は、マッチョになった自分の絵を見て、どういう反応をするのか。
そんなことを思いつつ、おれは技術科の時間がやってくるのを待った、待ったーー待ち続けた。ワクワクが止まらなかった。
そして、技術科の授業の時間がやって来た。キャナは聖二が来た時点で笑ってたし、山口さんは相変わらず笑いを堪えて顔を真っ赤にしてた。
そんな感じで、授業が進み、到頭聖二が教室のうしろへいったのだ。
体内を駆け巡る全ホルモンが沸騰する勢いだった。来た。キャナは小声で爆笑し、山口さんは笑いを堪えながらおれの肩を殴った。
さぁ、聖二よ、お前の反応を見せてくれ!
ーー無反応。
……おや?
可笑しいな……。確かに聖二はうしろの掲示物を観ている。おれの描いたポスターにはご丁寧に「聖二」と書いてある。わからないワケなどなかったーーわからないワケなど。
だが、聖二は無反応だった。
うんともすんともいわなかった。
それどころか、そのまま無難に授業を終えて教室を後にしてしまったのだ。
失望したーーこころの底から失望した。
何故聖二はマッチョになった自分の似顔絵に何のツッコミもいれなかったのか、皆目見当がつかなかった。
それからというモノ、技術科の授業が待ち遠しくなって仕方なかった。
授業で聖二が教室のうしろへいく度に、血流が逆流するような興奮を覚えた。だがーー
聖二は何の反応も示さなかった。
残念だよ、聖二。
結局、聖二はおれの描いたポスターには気付かずに、そのまま席替えとなってしまい、聖二がマッチョな自分と対面する機会は訪れず終いとなってしまったのだった。
これ以降も聖二のブーメランパンツ似顔絵を描きまくったにも関わらず、聖二は結局気付かなかったしな。
てか、ブタさんも聖二の絵が描かれてる時点でリテイクを命じろよーー
もしかして、おれの絵が下手過ぎてわからなかったのか?
それはそれでショックである。
ハゲを弄るのは止めよう。
アスタラビスタ。