【藪医者放浪記~捌拾弐~】

文字数 1,110文字

 さて、これで問題は解決ーーということにはまったくならなかった。

 それどころか、松平邸内は大変なことになっていた。亭主の松平天馬は客人を向かえるのにどうすればいいか困惑するばかりだし、武田藤十郎は先程から牛野寅三郎がいないと騒ぎ立てている。リューという清から来た男は何だかダルそうに慌てふためく回りの様子をアクビをしながら眺めていた。

 と、そこに茂作が帰って来た。

「先生! 何してらっしゃるんですか!」天馬は非難するようにいった。「こんな時にこんなことをしていてはーー」

「何でそんなに慌ててんだ?」

 茂作は平然といい放った。そのことばに天馬は一瞬呆気に取られたが、すぐにこれまでの慌ただしさを取り戻して、

「それはそうだろう。相手は何者かわからないだけでなく、同心が一緒なのだぞ」

「同心が一緒だと何がマズイんだ?」

 天馬はことばにつまった。それもそうだろう。そもそも茂作は天誅屋のことは知らない。そして、それが悪党を殺して銭を得る闇の稼業であることなど知るよしもなかった。もちろん、そんなことが茂作にバレれば茂作のことも殺さねばならなくなる。それは出来ることなら避けたかったのはいうまでもないだろう。

「......それもそうだな。だが、しかし、使いの者が何か悪いことに巻き込まれていたとしたら」

「悪いことって何だい?」

 それに関しても天馬は黙らざるを得なかった。そんな面倒ごとに手下が毎回のように首を突っ込んでいるなんていえるはずがない。

「......そんなことより、源之助は何処に行ったかご存知ないか?」

「源之助って、あの変な髪留めで髪をうしろに撫でつけた変なヤツか? あの男ならあちらさんのおサムライさんとどっか行っちまったよ」

 茂作のことばに天馬は驚きを隠せなかった。こんな時に何をやっているのか、そう非難してやりたいという気持ちが表情に表れていた。

「あのふたりは何の用があるといってた?」

「さぁ。取り敢えず、外にいる同心に用があるとか何とか」

 ふたりがいなくなってそこそこ時間が経っていた。そして茂作が表に帰って来たのも考えると、仮にあのふたりが同心の斎藤に会いに行ったのだとしたら、もう用事は済んでいることだろう。もし、仮に、源之助が捕らえられていなければ、だが。しかし、猿田源之助が天誅屋という裏の稼業に手を染めて悪党を殺していることは斎藤も知っている。だとしたら、上手いこと話を取り繕っているはず。となると、やはり問題はーー

「これ」天馬は女給に声を掛けた。「客人の様子を見てきてはくれぬか?」

「え?」女給は女給に変装したお雉だった。「......まぁ、いいですけど」

 そういってお雉は去っていった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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