【帝王霊~拾死~】
文字数 2,191文字
どうにも気分が優れない。
ぼくはうつむき加減になって自分の席に座って目の前にある顔を見ている。
そんなぼくの顔を覗き込むのは、いかつい顔をしたヤンキーが三人。辻、海野、山路のヤンキー三人組。三人ともぼくの机に乗り掛かりつつ、眉間にシワを寄せて、ガンを飛ばすようにぼくを見ている。
海野は黒髪で短髪、細身の長身で細い長い目に薄い唇をしている。山路はごま塩頭のチビデブで、タラコほどの厚い唇にゲジゲジ眉毛、海野ほどではないが細い目をしている。
辻ヒビキは中背で引き締まった身体に、茶色の長髪。唇は薄く、目は大きめだがひと重という、派手な女子からモテそうな感じ。
三人ともいうまでもなく服装はダラしない。シャツはズボンから出ているし、ワイシャツのボタンも第一だけでなく、第二まで開いている。これこそほんとの開襟シャツだ。
「何?」ぼくは訊ねる。
「何、じゃねぇよ……」
辻はいう。その声には静かに恫喝するような低さがある。山路と海野もぼくを威圧するようにぼくを見ている。本当に暑苦しい顔だらけ。
辻がぼくの胸ぐらを掴んだ。
「シンちゃんよぉ……、本当は何かあったんだろ!? なぁ、いってくれよ! もしかして、誰かに絡まれて困ってるのか? なら、おれたちがソイツらボコしてやるからよ、相談してくれよ。友達だろぉ?」
辻のことばにイヤミな感じはない。むしろ本気でぼくのことを心配している、といった感じだ。山路と海野も同じ。心配そうな顔で、ぼくの顔を穴が開くほど覗き込んでいる。
「……いや、別に何でもないんだよ」
「ウソつくなよ!」
ぼくの弁解も虚しく、辻はそれをピシャリと否定する。まったく、三人とも最初は性質の悪いヤンキーでしかなかったのに、和田のことが解決した後は、ちょっとした一件がキッカケで煩わしいほどにいいヤツになってしまった。お陰で今では三人ともいい友人だ。
しかし、こうも問い詰められると苦しい。流石にケンカ慣れしたヤンキー。こうやって詰め寄られると迫力がすごい。辻は続ける。
「だって、最近のシンちゃん、全然元気ねーじゃん。困ったことがあれば何でもいえよ!」
本当にありがたい。だけど、相談するのが難しい話だってある。今、ぼくが抱えていることは、とてもじゃないけど辻たちの手で何とかなることじゃない。
「ありがとう。いや、別にさ、事件のことは全然大丈夫なんだよ。でも、ちょっと知り合いに不幸があってさ、ちょっとどうにかするとかって話でもないんだよな」
ぼくは困惑気味に答える。知り合いに不幸。これはウソだ。だが、知り合いに何かあったのは事実だった。しかし、こんなことを話せるのはヤエちゃんぐらいだろう。
だけど、それが本当かどうかは確証がない。だから、ヤエちゃんには話はしたけど、具体的な解決法はまったく見えていない。
「そのことに関してはわたしが調べてみるよ。学校の外のことでシンちゃんに負担を掛けるワケにはいかないからさ。だからシンちゃんはクラスのことをお願い」
ヤエちゃんはそういったけど、本当に大丈夫だろうか。変なトラブルに巻き込まれるとは思っていないけど、でも何かイヤな予感がする。
「なぁにぃ? 辻ぃ。シンちゃんをイジメるの止めてよぉ!」
突然聴こえて来る気だるい口ぶりに、ぼくとヤンキー三人組は一斉にそちらを向く。
野崎とその取り巻きだった。野崎はぼくと同じ出席番号の女子で、やたらとヒエラルキーにこだわるギャルだ。一応、女子の学級委員なのだけど、地位に拘っての立候補だったこともあって、ろくに仕事はしないため、みんなから冷ややかな目で見られている。
「シンちゃんは和田みたいな陰キャとは違うんだからぁ!」
イラッと来た。それじゃまるで和田ならイジメていいみたいじゃないか。
和田というのは、入学当初、辻たちヤンキー三人組にイジメられていた男子生徒だ。身長は男子としては低く、150センチ代前半くらい。ふけの溜まった襟もとと脂っぽい髪質ということもあって、女子からはあまり良く思われてはいない。運動も勉強も苦手で一見すると良いところがないようにも思えてしまうかもしれないけど、ゲームとパソコンに関しては誰にも負けない技術と知識を持っている。
和田がいなかったら、ぼくはあのイジメを食い止めることが出来なかった。……いや、あのイジメを食い止めたのは和田自身だ。
そんな和田も今ではヤンキー三人組とはそれなりに仲良くやっている。特に海野とはゲーム仲間として良くやっているし、山路からはアダルト動画に関する情報の共有や何かでいい関係を築いているようだ。
「あ? うぜえんだよ、バカ女。ブランドもん感覚でしか人と仲良く出来ないクソが偉そうにすんなよ。それとさぁ、和田みたいな陰キャってのも止めてくんねぇ? 確かにアイツは陰キャだけどさ、ゲームとパソコンに詳しいアイツと見た目だけで中身のねぇお前じゃ比べモンになんねぇんだよ」
中々にキツいことをいうモンだ。ぼくは思わず辻を宥めようとする。と、野崎は、
「はぁ!? マジムカツクッ! あたしをあんなキモイやつと一緒にすんなよ!」
その時、何かがキレた。ぼくは勢い良く立ち上がり、右腕を掲げようとする。
突然、誰かがぼくの右腕を掴む。
「林崎くん、ちょっといい?」
学級委員の関口だった。
【続く】
ぼくはうつむき加減になって自分の席に座って目の前にある顔を見ている。
そんなぼくの顔を覗き込むのは、いかつい顔をしたヤンキーが三人。辻、海野、山路のヤンキー三人組。三人ともぼくの机に乗り掛かりつつ、眉間にシワを寄せて、ガンを飛ばすようにぼくを見ている。
海野は黒髪で短髪、細身の長身で細い長い目に薄い唇をしている。山路はごま塩頭のチビデブで、タラコほどの厚い唇にゲジゲジ眉毛、海野ほどではないが細い目をしている。
辻ヒビキは中背で引き締まった身体に、茶色の長髪。唇は薄く、目は大きめだがひと重という、派手な女子からモテそうな感じ。
三人ともいうまでもなく服装はダラしない。シャツはズボンから出ているし、ワイシャツのボタンも第一だけでなく、第二まで開いている。これこそほんとの開襟シャツだ。
「何?」ぼくは訊ねる。
「何、じゃねぇよ……」
辻はいう。その声には静かに恫喝するような低さがある。山路と海野もぼくを威圧するようにぼくを見ている。本当に暑苦しい顔だらけ。
辻がぼくの胸ぐらを掴んだ。
「シンちゃんよぉ……、本当は何かあったんだろ!? なぁ、いってくれよ! もしかして、誰かに絡まれて困ってるのか? なら、おれたちがソイツらボコしてやるからよ、相談してくれよ。友達だろぉ?」
辻のことばにイヤミな感じはない。むしろ本気でぼくのことを心配している、といった感じだ。山路と海野も同じ。心配そうな顔で、ぼくの顔を穴が開くほど覗き込んでいる。
「……いや、別に何でもないんだよ」
「ウソつくなよ!」
ぼくの弁解も虚しく、辻はそれをピシャリと否定する。まったく、三人とも最初は性質の悪いヤンキーでしかなかったのに、和田のことが解決した後は、ちょっとした一件がキッカケで煩わしいほどにいいヤツになってしまった。お陰で今では三人ともいい友人だ。
しかし、こうも問い詰められると苦しい。流石にケンカ慣れしたヤンキー。こうやって詰め寄られると迫力がすごい。辻は続ける。
「だって、最近のシンちゃん、全然元気ねーじゃん。困ったことがあれば何でもいえよ!」
本当にありがたい。だけど、相談するのが難しい話だってある。今、ぼくが抱えていることは、とてもじゃないけど辻たちの手で何とかなることじゃない。
「ありがとう。いや、別にさ、事件のことは全然大丈夫なんだよ。でも、ちょっと知り合いに不幸があってさ、ちょっとどうにかするとかって話でもないんだよな」
ぼくは困惑気味に答える。知り合いに不幸。これはウソだ。だが、知り合いに何かあったのは事実だった。しかし、こんなことを話せるのはヤエちゃんぐらいだろう。
だけど、それが本当かどうかは確証がない。だから、ヤエちゃんには話はしたけど、具体的な解決法はまったく見えていない。
「そのことに関してはわたしが調べてみるよ。学校の外のことでシンちゃんに負担を掛けるワケにはいかないからさ。だからシンちゃんはクラスのことをお願い」
ヤエちゃんはそういったけど、本当に大丈夫だろうか。変なトラブルに巻き込まれるとは思っていないけど、でも何かイヤな予感がする。
「なぁにぃ? 辻ぃ。シンちゃんをイジメるの止めてよぉ!」
突然聴こえて来る気だるい口ぶりに、ぼくとヤンキー三人組は一斉にそちらを向く。
野崎とその取り巻きだった。野崎はぼくと同じ出席番号の女子で、やたらとヒエラルキーにこだわるギャルだ。一応、女子の学級委員なのだけど、地位に拘っての立候補だったこともあって、ろくに仕事はしないため、みんなから冷ややかな目で見られている。
「シンちゃんは和田みたいな陰キャとは違うんだからぁ!」
イラッと来た。それじゃまるで和田ならイジメていいみたいじゃないか。
和田というのは、入学当初、辻たちヤンキー三人組にイジメられていた男子生徒だ。身長は男子としては低く、150センチ代前半くらい。ふけの溜まった襟もとと脂っぽい髪質ということもあって、女子からはあまり良く思われてはいない。運動も勉強も苦手で一見すると良いところがないようにも思えてしまうかもしれないけど、ゲームとパソコンに関しては誰にも負けない技術と知識を持っている。
和田がいなかったら、ぼくはあのイジメを食い止めることが出来なかった。……いや、あのイジメを食い止めたのは和田自身だ。
そんな和田も今ではヤンキー三人組とはそれなりに仲良くやっている。特に海野とはゲーム仲間として良くやっているし、山路からはアダルト動画に関する情報の共有や何かでいい関係を築いているようだ。
「あ? うぜえんだよ、バカ女。ブランドもん感覚でしか人と仲良く出来ないクソが偉そうにすんなよ。それとさぁ、和田みたいな陰キャってのも止めてくんねぇ? 確かにアイツは陰キャだけどさ、ゲームとパソコンに詳しいアイツと見た目だけで中身のねぇお前じゃ比べモンになんねぇんだよ」
中々にキツいことをいうモンだ。ぼくは思わず辻を宥めようとする。と、野崎は、
「はぁ!? マジムカツクッ! あたしをあんなキモイやつと一緒にすんなよ!」
その時、何かがキレた。ぼくは勢い良く立ち上がり、右腕を掲げようとする。
突然、誰かがぼくの右腕を掴む。
「林崎くん、ちょっといい?」
学級委員の関口だった。
【続く】