【帝王霊~百参~】
文字数 548文字
視界がブレた。
暗闇の中では動くモノの姿がとてもよくブレる。これだけでも充分に距離感は可笑しくなる。
敷地の外から差し込む僅かな光が男の姿を捉えた瞬間、ぼくは男の右側に入り身した。自然と身体が動いた。そして、男の背中を思い切り押してやった。
男はバランスを崩して勢いよく転んだ。手、身体、そして顔を強く打ったようだった。危なかった。一撃で仕留める自信がないなら、相手の力を利用すればいいーー山田さんから教えて貰ったことがここに来て自然と、しかも自分の感覚で動くことが出来た。
向かって来るなら向かいたい方向に押してやればいい。それだけでも相手を崩すことは簡単だ。しかも視線が下がっているから重心が上がって下半身に力が入りにくくなっているのもぼくにとっては好都合だった。
男は突然あたふたし出した。よく見ると右手の妖しい光がなくなっている。
ナイフを落としたのだ。
男はその場に四つん這いになってナイフを探した。チャンスだった。走った。男が振り向いた。足を出した。出した足が男の顔面を捉えた。たまたまだった。擦り傷に足が入ったのだろう、男は声を上げた。
ぼくは気を緩めなかった。蹴った。蹴った。蹴り続けた。何度も。何度も。そしてーー
「やめな」
ぼくの肩を誰かが引いた。
山田さんだった。
【続く】
暗闇の中では動くモノの姿がとてもよくブレる。これだけでも充分に距離感は可笑しくなる。
敷地の外から差し込む僅かな光が男の姿を捉えた瞬間、ぼくは男の右側に入り身した。自然と身体が動いた。そして、男の背中を思い切り押してやった。
男はバランスを崩して勢いよく転んだ。手、身体、そして顔を強く打ったようだった。危なかった。一撃で仕留める自信がないなら、相手の力を利用すればいいーー山田さんから教えて貰ったことがここに来て自然と、しかも自分の感覚で動くことが出来た。
向かって来るなら向かいたい方向に押してやればいい。それだけでも相手を崩すことは簡単だ。しかも視線が下がっているから重心が上がって下半身に力が入りにくくなっているのもぼくにとっては好都合だった。
男は突然あたふたし出した。よく見ると右手の妖しい光がなくなっている。
ナイフを落としたのだ。
男はその場に四つん這いになってナイフを探した。チャンスだった。走った。男が振り向いた。足を出した。出した足が男の顔面を捉えた。たまたまだった。擦り傷に足が入ったのだろう、男は声を上げた。
ぼくは気を緩めなかった。蹴った。蹴った。蹴り続けた。何度も。何度も。そしてーー
「やめな」
ぼくの肩を誰かが引いた。
山田さんだった。
【続く】