【残光~壱~】
文字数 650文字
そこに光は残されているだろうか。
絶望が霧のようになって、おれの周りを漂っていた。前なんか見えなかった。右も左も見えやしなかった。なのに、うしろはとても鮮明に見えた。鮮明に、鮮明に。そして、それは何とも羨ましい光景だった。
うしろへ戻りたかった。だが、戻れなかった。何故なら、そこにはもう道なんてモノはこれっぽっちも残っていなかったから。
おれが歩んで来た軌跡は、確かにおれが歩んで来たモノなのに、それはもはや過去という幻影と化しており、あったかどうかも定かではなくなっていた。
いや、それは確かにあった。だからこそ、おれは今ここにいる。
でも、ひとつ願いが叶うならば、あの時に戻りたかった。あの何事もなく生きることが出来たあの時に。何をするにも障壁がなく、自由に歩くことが出来たあの時に。
そう、おれは今、囚われている。
別に犯罪なんかやっていない。悪いヤツラに拐われたワケでもない。じゃあ、一体誰がおれを捕らえたのかーー
それは、おれ自身だった。
おれはおれ自身を暗く孤独な牢獄の中へと閉じ込めたのだ。理由はわからない。だが、ある日突然に、おれは暗闇の中にブチ込まれ、何をするにも不自由な身体になってしまった。正直、死んだほうがマシだった。でも、死ねなかった。おれには自殺する勇気などこれっぽっちもなかった。
まだ何かあるはずーーもしかしたら、潜在的な意識の中でそう思っていたのかもしれない。だが、同時におれにはもう何もないとも思っていたのは事実だった。
おれは、あの日、死んだのだ。
【続く】
絶望が霧のようになって、おれの周りを漂っていた。前なんか見えなかった。右も左も見えやしなかった。なのに、うしろはとても鮮明に見えた。鮮明に、鮮明に。そして、それは何とも羨ましい光景だった。
うしろへ戻りたかった。だが、戻れなかった。何故なら、そこにはもう道なんてモノはこれっぽっちも残っていなかったから。
おれが歩んで来た軌跡は、確かにおれが歩んで来たモノなのに、それはもはや過去という幻影と化しており、あったかどうかも定かではなくなっていた。
いや、それは確かにあった。だからこそ、おれは今ここにいる。
でも、ひとつ願いが叶うならば、あの時に戻りたかった。あの何事もなく生きることが出来たあの時に。何をするにも障壁がなく、自由に歩くことが出来たあの時に。
そう、おれは今、囚われている。
別に犯罪なんかやっていない。悪いヤツラに拐われたワケでもない。じゃあ、一体誰がおれを捕らえたのかーー
それは、おれ自身だった。
おれはおれ自身を暗く孤独な牢獄の中へと閉じ込めたのだ。理由はわからない。だが、ある日突然に、おれは暗闇の中にブチ込まれ、何をするにも不自由な身体になってしまった。正直、死んだほうがマシだった。でも、死ねなかった。おれには自殺する勇気などこれっぽっちもなかった。
まだ何かあるはずーーもしかしたら、潜在的な意識の中でそう思っていたのかもしれない。だが、同時におれにはもう何もないとも思っていたのは事実だった。
おれは、あの日、死んだのだ。
【続く】