【藪医者放浪記~捌拾参~】
文字数 586文字
何をやっているかわからないけどよくいる人ーーそれが松平邸でのお雉の評価だった。
女給たちから見て、お雉はたまに女給の真似事をするかと思えば、堂々と松平天馬と真正面から話をし、殆ど居候でありながら下手な従者よりも高い信頼を得ている猿田源之助とも仲がいいようで、その存在はかなり謎とされていたのはいうまでもなかった。
かといって、守山勘十郎のようなお堅い人たちからは酷く煙たがられていて、男女問わず彼女に強く当たる人も少なくはなかった。そもそもその正体もよくわかっていないのだから、怪しまれていても仕方がないのだが、その実、正体は松平天馬率いる『天誅屋』のひとりなのだから、怪しいどころではない。
屋敷内にふたり、人殺しが紛れ込んでいる。これだけ考えるとかなりマズイのだが、松平天馬自身がその元締めなのだから、恐れることはないのかもしれない。
ただ、お雉という女は基本はいつも新河岸川の傍で夜鷹をやって銭を稼いでいる。川沿いの夜鷹ともなれば奉行所のご厄介になる危険も十二分にあるのだが、大体お雉が捕まる時は、相手が斎藤と時だけで、それ以外はちゃんと逃げ延びてしまうのがいつものことだったりする。いずれにせよ、お雉の存在は屋敷内では異物そのものだった。
「あぁ、何処に行ってたんだよ」
縁側を早足でかけていると、お雉は猿田と牛野寅三郎に会った。何故か着物が乱れていた。
【続く】
女給たちから見て、お雉はたまに女給の真似事をするかと思えば、堂々と松平天馬と真正面から話をし、殆ど居候でありながら下手な従者よりも高い信頼を得ている猿田源之助とも仲がいいようで、その存在はかなり謎とされていたのはいうまでもなかった。
かといって、守山勘十郎のようなお堅い人たちからは酷く煙たがられていて、男女問わず彼女に強く当たる人も少なくはなかった。そもそもその正体もよくわかっていないのだから、怪しまれていても仕方がないのだが、その実、正体は松平天馬率いる『天誅屋』のひとりなのだから、怪しいどころではない。
屋敷内にふたり、人殺しが紛れ込んでいる。これだけ考えるとかなりマズイのだが、松平天馬自身がその元締めなのだから、恐れることはないのかもしれない。
ただ、お雉という女は基本はいつも新河岸川の傍で夜鷹をやって銭を稼いでいる。川沿いの夜鷹ともなれば奉行所のご厄介になる危険も十二分にあるのだが、大体お雉が捕まる時は、相手が斎藤と時だけで、それ以外はちゃんと逃げ延びてしまうのがいつものことだったりする。いずれにせよ、お雉の存在は屋敷内では異物そのものだった。
「あぁ、何処に行ってたんだよ」
縁側を早足でかけていると、お雉は猿田と牛野寅三郎に会った。何故か着物が乱れていた。
【続く】