【ナナフシギ~弐拾苦~】

文字数 1,103文字

 弓永は薄ら笑いを浮かべた。

 まるで祐太朗の言動を嘲笑うようだった。確かに祐太朗のことを嘲笑する傾向にある弓永ではあるが、この時ばかりはまた趣が異なっていたともいえる。

 というのも、弓永の祐太朗に対する嘲笑は何処となく友人同士のじゃれ合いのような感じがあるのだが、今祐太朗の目の前にいる弓永の浮かべた笑みはそれとは逆、苦し紛れでまったくの他人をせせら笑うようだった。

 祐太朗の表情は非常に固かった。緊張が目に見えるようだった。エミリは恐怖と緊張と混乱が入り交じったような複雑な感情を顔に反映させていた。

 突然、弓永は声を上げて笑い出した。

 高笑いーー弓永が本来上げないような高笑い。その響きが祐太朗とエミリの身体をより一層硬直させた。

「よくわかったね」弓永がいった。

 よくわかったーーすなわち、目の前にいる弓永は弓永ではなかったということだった。祐太朗はより一層の緊張を顔に貼りつけた。

「ムカつくのは同じだけどな。でも、ムカつく感じがアイツとはまた違ったんだよ」

「へぇ、それはどういう?」

「アイツはあからさまに人を見下すようなモノいいをしやがるけど、お前は下手に出たようにして友達ぶった様子を見せて来る」

「あぁ、なるほどね。キミたちは友達であって友達でなかったんだ」

「友達なんかじゃねえよ、あんなの」

「こんなところに一緒に来てるのに?」

「アイツが勝手について来ただけだ。そんなことより、弓永をどうした?」

「どうした、って?」

「とぼけるなよ。お前は弓永の姿をマネしただけで、本物の弓永は別のとこにいるだろ」

 祐太朗の声はより強張りを見せた。それもそうだろう。本物の弓永は別の場所にいる。そしてそれは実質、弓永が極めてマズイ状況にあるということを示唆している。

 祐太朗のことばに、弓永に擬態した何者かは相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。

「音楽というのは、メロディ次第でどんな顔にもなる」弓永らしき者はいった。「そしてそれは人間も同じなんだと思う」

「ワケのわからないこといってないで、ヤツが何処にいるか教えろよ」

 声を荒げる祐太朗に、弓永らしき者は、

「そう慌てないでくれよ。ぼくだって、自分のペースがあるーー」

 そういおうとすると、突然、弓永らしき者の顔がうしろに弾かれた。祐太朗が弓永らしき者のアゴを正面から思い切り蹴りあげた。後頭部から床に叩きつけられる弓永らしき者。

「やめて!」

 エミリはそういって祐太朗の着ているシャツの袖をギュッと掴んだ。が、弓永らしき者は踵を起点に、重力に逆らうような立ち上がり方をした。そして、その目には狂気が浮かんでいた。口が開かれるーー

「じゃあ、連れて行くよ。地獄へ」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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