【帝王霊~捌拾玖~】
文字数 1,065文字
夜ーーだが、そこには紛れもない太陽があった。
おれにはヤエ先生の笑顔だけがたくさんの人が行き交うストリートの中で唯一光って見えた。最初の時から印象は変わっていなかったーーいや、むしろどんどん良くなっていた。
「カズマサくん、ありがとう」そういってヤエ先生は近づいて来た。「......あたしの不注意でこんなことになっちゃって」
ヤエ先生は笑みを浮かべながらも、目からは涙を流していた。おれは思わずヤエ先生を抱き締めた。広場の中央、多分、はたから見たらイタイカップルもいいところだろう。だが、そんなことはどうでも良かった。今はそんなことよりもーー
「まったく、手掛かりはないんだね」
ヤエ先生を軽く離しておれがいうと、ヤエ先生は頷いた。さっきまで明るく晴れていた表情に雨雲が差していた。
「誰も、目撃者はいない感じか」
悔しそうにヤエ先生は頷いた。そりゃそうだ。もし目撃者がいるならとっくに警察が動いている。それがないということは、具体的な目撃者もおらずに犯人は逃亡しているということだ。そして問題は犯人が車の持ち主かどうかということである。かつ、車持ちならば犯人はひとりとは限らない。だとしたら、犯人が何処にいるのかを個人で特定することなど、もはや不可能。
......くっ。そもそも、誘拐なんて大抵は計画的に行われるモノだ。対象は誰でもいいにしても、行うとなったら逃走経路や手段をしっかりと確保しておかなければならない。恐喝や殺人といった突発的な要素のある犯罪と比べると、一般の人間では一気に太刀打ちできなくなってしまう。
いや、そもそも一般の人間が何かの事件に介入して解決へと導くなど、夢物語でしかない。もちろん、ひったくりや何かを捕まえたなどというニュースもあるにはあるが、出来てそれが限界だ。
そう、一般人は犯罪の前では基本的に無力でしかないということだ。
「あれ、先生、どうしたんですか?」
和雅とヤエが声のしたほうを向くと、そこには制服を着たイケメンの少年が立っていた。身長は165くらいだろうか。細身で、引き締まった身体つき。髪は短いながらもスタイリッシュに決まっていた。目は大きく、優しげに垂れている感じ。だが、その優しさは何処か機械的な感じで、正直あまり関わり合いになりたくないような雰囲気を放っていた。少年はまるで何かを見透かしたような目でこちらを見ていた。正直、不気味だった。
「あれ、関口くん」ヤエ先生は涙を拭い、笑みを浮かべていった。「どうしたの?」
「あぁ、受け持ってる生徒さんか」
ヤエ先生は頷いた。
【続く】
おれにはヤエ先生の笑顔だけがたくさんの人が行き交うストリートの中で唯一光って見えた。最初の時から印象は変わっていなかったーーいや、むしろどんどん良くなっていた。
「カズマサくん、ありがとう」そういってヤエ先生は近づいて来た。「......あたしの不注意でこんなことになっちゃって」
ヤエ先生は笑みを浮かべながらも、目からは涙を流していた。おれは思わずヤエ先生を抱き締めた。広場の中央、多分、はたから見たらイタイカップルもいいところだろう。だが、そんなことはどうでも良かった。今はそんなことよりもーー
「まったく、手掛かりはないんだね」
ヤエ先生を軽く離しておれがいうと、ヤエ先生は頷いた。さっきまで明るく晴れていた表情に雨雲が差していた。
「誰も、目撃者はいない感じか」
悔しそうにヤエ先生は頷いた。そりゃそうだ。もし目撃者がいるならとっくに警察が動いている。それがないということは、具体的な目撃者もおらずに犯人は逃亡しているということだ。そして問題は犯人が車の持ち主かどうかということである。かつ、車持ちならば犯人はひとりとは限らない。だとしたら、犯人が何処にいるのかを個人で特定することなど、もはや不可能。
......くっ。そもそも、誘拐なんて大抵は計画的に行われるモノだ。対象は誰でもいいにしても、行うとなったら逃走経路や手段をしっかりと確保しておかなければならない。恐喝や殺人といった突発的な要素のある犯罪と比べると、一般の人間では一気に太刀打ちできなくなってしまう。
いや、そもそも一般の人間が何かの事件に介入して解決へと導くなど、夢物語でしかない。もちろん、ひったくりや何かを捕まえたなどというニュースもあるにはあるが、出来てそれが限界だ。
そう、一般人は犯罪の前では基本的に無力でしかないということだ。
「あれ、先生、どうしたんですか?」
和雅とヤエが声のしたほうを向くと、そこには制服を着たイケメンの少年が立っていた。身長は165くらいだろうか。細身で、引き締まった身体つき。髪は短いながらもスタイリッシュに決まっていた。目は大きく、優しげに垂れている感じ。だが、その優しさは何処か機械的な感じで、正直あまり関わり合いになりたくないような雰囲気を放っていた。少年はまるで何かを見透かしたような目でこちらを見ていた。正直、不気味だった。
「あれ、関口くん」ヤエ先生は涙を拭い、笑みを浮かべていった。「どうしたの?」
「あぁ、受け持ってる生徒さんか」
ヤエ先生は頷いた。
【続く】