【雪降る電車でただひとり】

文字数 3,178文字

 この駄文集に季節感がないのはいうまでもないことだろう。

 まぁ、この文章をよく読んでいる変わり者がいるとするなら、そんなことはとっくに知っていると思われるかとーーこの導入も使い過ぎなんで次回から止めるわ。発展性がなさすぎる。

 それはさておき、どうしてこうも文章に季節感がないのかといえば、その日思い出した過去の記憶をそのまま書いているからだろう。

 それこそ、『体育祭篇』みたいなシリーズモノともなれば、そのシーズンに合わせたモノを書き続けられるのだろうけど、単発回を重ねていく中で同じシーズンの出来事を書き続けるのはおれの人生のボキャブラリーだけではまず不可能だ。

 そもそも、記憶なんて曖昧なモノで、その日、その時のシチュエーションをパーフェクトに記憶している人間なんて殆どおらず、それこそ、映像記憶みたいな特殊な能力を持っていない限りはそのようなことは不可能なワケで。

 となると、おれみたいな凡人にできることは、記憶の断片を繋ぎ合わせてひとつの集合体に復元することぐらいしかない。

 が、当然、その出来上がった集合体も、当時の形を完全に再現しているワケではなく、足りないピースは何かしらの形で埋め合わせていくことになる。それこそ、その場にいたメンツが違うってこともあるだろうし、異なる事実もたくさんあるはずだが、それはそれで。

 さて、ここ最近は比較的受験がどうのって話が多かった気がするのだけど、やはりこの時期ともなるとそういうモノを意識してしまうのはいうまでもない。

 正直、受験を退いて何年にもなるのだけど、未だにこの時期になると、受験期の自分のことを思い出すのだ。

 というワケで、今日は受験は受験でも大学受験に関する話をひとつしようかと思う。『妄想間違い電話篇』は明日か明後日書くわ。

 では、いくーー

 あれは高校三年の二月の最初のことだったと思う。その時点で、受験する私立大学の試験が半分程終わっていたおれは、国立大受験の出願をしなければならなかったのだ。

 まぁ、これまで散々地方の三流大学卒とはいってきたけど、おれも地方の三流大とはいえ腐っても国立大卒なワケだ。

 何で地方の大学を受けることとなったかといえば、その経緯はまた別の機会に説明するとして、地方の国立大ーー通称「駅弁国立」を受験すること自体は、国立大を受験する学生にとってはそう珍しいことではなかったりする。

 しかし、地方の大学となると願書の郵送も早めに済ませなければならない。まぁ、この当時でも運送業は発達しており、よっぽど変なトラブルが起きでもしない限りは願書も早々に着くのだが、おれの場合はそうではなかった。というのもーー

 願書を手にしたのが、提出締め切りの二日前だったからだ。

 どれだけ行き当たりばったりなことすればそうなるんだよって話なんだけど、まぁ、色々あったんよ。いずれ話すけどさ。

 で、そのことを担任に電話で相談したんだわ、そしたらーー

「なら、直接出しにいってきな」

 これには流石の五条氏も首を傾げてしまいました。何いってんだこの人って感じで。

 でも、訊き返したところで答えが変わるわけでもなく、むしろーー

「だって、郵送じゃ締め切りに間に合わないんだろ? ならいくしかないだろ」

 今考えたらまったくもってごもっともなのだけど、この当時はマジでどうかしてしまったのかと思ったよな。まぁ、どうかしてんのはおれだったんだけどさ。

 とはいえ、この時期は私立の受験がまだ残っていて、三日に一度のペースで試験を受けていたのだ。そうなると当然勉強しなければならないと危惧したものなのだけど、

 いくことにしましたよ。

 条件が条件なだけに仕方ないね。というワケで、出発は願書提出の締切日に決め、それまでにしっかりと願書を書き提出日に備えたのだ。

 出発当日、空は雲に覆われ今にも雨が降りそうだった。おれはバスで駅まで向かうと、電車に乗って通い慣れた駅へと向かった。

 いつもの駅に着くと、今度はそこから少し歩いてJR線に乗り換える。いってしまえば、ここからが未知の領域だった。

 ガラパゴスケータイで辿るべきルートを確認しながら電車に揺られる。目的の駅へ着くと、また別の電車に乗り換えて電車に揺られる。

 MDプレイヤーからは当時好きだった『Nine Inch Nails』や『Megadeth』のハードなサウンドが流れており、それに紛れて線路の上を走る電車の振動音が聴こえてくる。

 一体、何本の電線と電柱が目の前を通り過ぎただろう。気づけば景色も灰色から緑色に変わっている。都市部を離れ、辺りはすっかり田舎街。そこにあるのは、自分の知らない世界。

 経由地の駅に着き、また電車を乗り換える。が、次の電車は三〇分後。駅にも関わらず辺りは殺風景で、人もおれ以外誰もいない。

 冷たい空気が身体を打つ。吐く息は白く、それを凍えた両手に吹き掛け、擦り合わせると、一瞬ではあるが、指先の血流が戻ってきたように感じられる。長い線路の先を見つめた。

 走ってくる電車ーー少しずつ大きくなってくる。目の前に停車すると、おれは三車両しかない無人の電車に乗り込んだ。

 電車に揺られながらお気に入りのMDを何度リピートしたかわからない。ただ、わかるのは、緑色の田舎街が次第に灰色の都市部になりつつあるということ。

 最終目的地である駅に着いた。腕時計に目を落とす。時間は家を出て実に四時間半以上経っていた。ひとりでここまで遠出したことがなかったこともあってか、ストーブの温もりのような暖かい感動が内から込み上がって来た。

 駅で大学までのバスの運行状況を調べた。大学いきとだけあって、田舎の鉄道と違って本数は随分と多い。

 バスが来て、それに乗り込む。見慣れないストリートの街並みが音を持たずに視界を通り過ぎていく。もしかしたら、ここに住むことになるかも。そう考えるとワクワクする反面、不安だった。二〇分程で、バスは大学前に着いた。

 大学のキャンパスはパンフレットの色彩豊かな様相とは裏腹に、セピア色な印象だった。無機質というよりは、どこか古風な感じがしたのだ。まぁ、暖かみはなかったけど。

 手続きはあっという間に終わった。もはや、何をしたかも思い出せないくらいに。

 それからすぐにバスに乗って駅に戻ると元のルートを辿って帰ることにした。

 一度通ったルートも、戻る時には見慣れた景色。電車を降りて次の電車を待つのも、不思議と手慣れた気がした。

 二度目の乗り換えの後、電車が点検のためストップした。ドアは開きっぱなし。するとーー

 白い小粒の塊が車内に吹き込んできた。

 さっきよりも空気が冷たくなった気がした。白い小粒がひとつ、おれの頬に当たった。

 冷たい。

 雪だ。

 かと思いきや、雪はどんどん、その強さを増していく。

 点検を終えた電車が再び運行を始めると、走る車窓からは、横殴りに降る雪が世界を白く染めていた。

 そうして真っ白な景色を見続けていると、電車はおれのよく知るストリートを降り頻る雪の間から覗かせた。

 帰って来た。

 電車を降り、白銀の世界へと変貌した見慣れたストリートを歩いた。気づけば、空も暗い。だが、街を覆う白い雪が、ストリート全体を明るく照らし、闇は夜の向こうに葬られていた。

 それから、行き慣れた駅にいき、乗り慣れた電車に乗って、おれは五村に戻った。

 五村のストリートは白一色になっていた。真っ白な夜。真っ白で明るい夜。

 傘なんか持っていなかった。

 だが、おれはひとり歩き出した。

 不思議と、バスに乗る気分ではなかった。おれはただひとり、白夜のような明るい夜の五村を歩いた。身体は冷えていたが、こころはとても熱かったーー

 うん、懐かしいな。珍しくまともな内容におれも吐き気がしてきたわ。寝る。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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