【一年三組の皇帝~拾壱~】

文字数 1,047文字

 切羽詰まった横顔がヌルリと映る。

 田宮だ。焦燥感が全身から滲み出ていて、いかにも余裕がないことが伺えた。手には力が入っていた。無駄な力が入っていた。そして、その手の中で一枚のトランプがクシャッと歪んでいた。

 そう、田宮も『ネイティブ』のプレイヤーだったのだ。それもかなりドップリはまってしまっていて、もはや抜け出せなくなっているくらいに。しかもそれの何が悪いかといえば、まったくといっていいほど勝てなくなっていたのだ。

 始めこそ田宮はバカ勝ちしまくっていたが、ある時を境にまったく勝てなくなっていった。だが、勝ちの味を一度しめてしまった田宮は、もうその沼からは抜け出せなくなっていた。あとはジリ貧、少しずつ吐き出すモノを吐き出し、今や関口グループの遣いパシリのようになっていた。

「何ていうか、無様だよね」

 ぼくの机に手を掛けて、和田はいった。ぼくはそれに対して何もいい返せなかった。無様。その通りだったから。曖昧に頷きはするけれど、何処かその現実を認めたくない自分がいるのもまた事実だった。

「キミは興味ないの?」

「ぼくはトランプなんてやらないよ。対戦はオンラインだけでいいし」

 和田はつまらなそうにいった。現代を生きる極端な少年。現実を否定し仮想現実にて戦い続ける現代の皇帝ネロとでもいうべきか。いや、それならば今目の前には領地を広げ続ける現代のアレキサンダー大王がいるが。

「でも、林崎くんってああいうの強そうだよね」

 それはぼくがアナログの人間だといいたいということだろうか。あまりいい気はしなかったけど、トランプ自体は結構好きだった。好きだったけど、どうしても今の『ネイティブ』には乗り気になれなかった。それは楽しんでいるように見えて、まるでクラス内のカーストを目に見えるように形作っているようにしか見えなかったからだ。

「まぁ、でもあんなんで強くなったところでって話だよね。ほら、アレ見て」

 和田が密かに指さしたのは辻、海野、山路の三人だった。見るからに物腐れているといった感じだった。

「負けが込んでるのもそうだけどさ、クラスのトップを取られて悔しいんじゃない?」

 和田のいう通りだったのかもしれない。最初、この『ネイティブ』に乗り気になったのは紛れもない辻たち三人だった。だが、それも田宮と同じく勝てたのは最初だけで、以降は負け続き。田宮ほどではないが、辻たちもクラスでのカーストを大きく落としていた。

「うん。態度の悪い奴隷ってたちが悪いよな」

 ぼくは辻から目を離さなかった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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