【不動明王の前に跪く健太郎くん】

文字数 3,006文字

 スポーツにはルールやマナーがある。

 これはスポーツをやっていようがいまいが、誰だってわかることだと思う。そもそも、そういったルールやマナーがなければ、それはただの殺し合いのようなモノになってしまう。

 まぁ、スポーツで人を殺すなんて、某テニスマンガや格闘技、武道ならあり得るとしても他の種目でそんなことはそうそうないだろう。

 確かにそうなのだけど、ひとついえるのはルールやマナーがあるから不正なく正々堂々と勝負して結果を出せるというワケだ。尚、八百長ーーいえ、何でもないです。

 まぁ、大まかのルールに関していえば、各々の種目にて定義されているので、気になればルールブックでも読めばすぐにわかるのだろうけど、問題はーー、

 暗黙のマナー、ルールというヤツだ。

 この「暗黙の」というのが厄介なのだ。そもそも暗黙であるが故に、ルールブックのようなモノに載っているかも怪しいし、暗黙である以上、当たり前に出来てなければならないというプレッシャーがそこにはある。

 おれはそういった無言の上で執行されるマナーやルールというのが、どうにも苦手だ。

 スポーツではないけど、まだ右も左もわからないような若僧だった頃に結婚式の招待状を貰って「御出席」というほうに丸をつけたら、

「『御』には罰して『出席』にだけ丸をつけるのがマナーなんだよ」

 といわれた時はそれは衝撃的だった。だったらはじめから『御』なんかつけるなよ、と思うのだけど、やはりここら辺のもはや形骸化しているような二度手間な風習も未だに残っているワケだ。シンプルに煩わしいよな。

 話は逸れてしまったけど、スポーツにもこういった暗黙の内のマナーやルールが存在する。ただ、それを当たり前のようにいわれた所で、門外漢や初心者ではわからないのが当然だ。結局、そういったモノは経験と共に身につけるしかないのだと思う。

 かくいうおれはマナーの欠片もない品のない男なのだけど、ことスポーツに関していえば、マナーに関しては特に無精なところがある。

 いいわけには決してならないのだけど、結構いい年になるまで真面目に運動もしてこなかったたちであるせいか、どうもそこらへんに対する意識が薄い部分があるのだーーまぁ、私生活でもそうだろっていわれたらそれまでだけど。

 ただ、そんなマナー無精のおれがまともに知っているスポーツのマナーがある。それが、

 卓球でストレート勝ちしてはいけないというモノだ。

 これに関しては、何となくそういうマナーがあるという話だけは知っていた。とはいえ、ストレート勝ちなんて、よっぽど実力が離れてでもいない限り、そうそうない。

 こんな話をするのも、ここ最近のオリンピックにかこつけてか、オリンピックの種目競技に関する記事をよく見掛けるようになったからで、それに追随するように卓球のストレート勝ちがマナーに反するということも記事になっていたのだ。

 ただ、予想通り、その記事のコメント欄には、「わざと点を与えるって手抜きじゃない?」とか、「そんなことして点を得ても嬉しくない」とか、「その一点分のミスでペースが崩れることもあるんだし、やめたほうがいい」といったような感じで、「卓球でストレート勝ちしてはいけない」という暗黙のマナーにもの申すといった声がたくさんあったワケだ。

 まぁ、それもそうよな。しかし、果たしてそのマナーが本当に機能しているかはまた別の話なんだろうけども。さて、今日はそんな卓球の暗黙のマナーに関する話ーー、

 あれは中学二年の時のことだった。その日は東五村中との練習試合の日で、我々五村西の面々は、ホームの校舎、ホームの体育館にて東五村中の連中を迎え撃つこととなったのだ。

 東五村中の卓球の実績についていうと、そこまで目立ったモノはなかった。が、試合するとそれなりに強いということで、当たったら当たったで厄介だなといった感じだった。

 さて、そんな中である。おれは二階バルコニーでダラダラと東五村の三軍連中と練習試合をしていたーーつまり、おれも三軍。

 まぁ、とはいえ、三軍の中でもやや上のグレードに位置している人は、一階のアリーナにて一軍、二軍と試合する機会もなくはないといった感じだった。で、まぁ、おれも顧問の座頭市川先生に呼ばれて、一階にて東五村の二軍選手と勝負することとなったのだけどーー、

 余裕で負けたよな。

 流石は怠惰な三軍の雑魚、何も出来ずに負けてしまったよな。とまぁ、そんな感じで試合に負けた後は他の一、二軍の人の試合を見ていたのだ。そんな中ーー、

 健太郎くんが試合を始めたのだ。

 相手は東五村中の二軍と三軍を行き来している山村というヤツ。

 山村は背の小さい小太りで、どこか日本人ばなれした趣のある顔つき、と中々に特徴的な容姿をしていた。卓球の腕に関しては、おれに負けるレベルなのでそれほどでもないと思う。

 さて、健太郎くんと山村の試合だ。

 健太郎くんは、遅刻と寝坊の常習犯ではあるけど、勉強は出来るし卓球の腕もいい。五村西の二軍の中核として活躍するような腕前なこともあって、健太郎くんは山村に対して果敢に攻めていく。スマッシュに次ぐスマッシュ、回転の掛かったサーブが唸りを上げる。だがーー、

 何故か健太郎くんの球が全部打ち返されているではないの。

 これに関しては、おれも「あれ?」とは思ったのだけど、どういうワケか健太郎くんのスマッシュやサーブがまったく決まらない。
 
 それどころか、小太りな山村くんは小型の戦車のような侵攻力に、要塞のように重厚な守りを敷いているじゃない。まるでドラシェル・フォートレス。隙なんて一分もない。コロコロコミックだったら、モブキャラ一歩手前みたいな雑魚が、

「あの健太郎くん先輩が振られてる!?」

 みたいなことをいって驚いていたと思う。それくらいに健太郎くんは格下であるはずの山村に弄ばれていたのだ。とまぁ、そんなことをしていたら、

 健太郎くんがストレート負けをしてしまったのだ。

 これに関しては顧問の座頭市川先生も苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、「あぁーぁん?」みたいなことを呟いてた。まるで暴力団。それもそうよな。

 ちなみに、この時点ではストレート勝ちがマナー違反みたいな話は誰も知らなかった。そもそもこの時期に公開した映画の『ピンポン』でも普通にストレート勝ちの描写もあったし、ストレート勝ちがマナー違反だとかどうとか知る由もなかったんだけど。

 というか、中学スポーツにマナーなんてモノを期待する時点で間違いなんだけどな。普通にどの学校の卓球部もマナー悪かったし。それはさておきーー

 で、その後は試合もせず、呼び掛けにも答えずに友人と喋ってたグッチョンも座頭市川先生に怒られまして、東五村中との練習試合は無事終了しましたとさ。

 最後の反省において、座頭市川先生は、

「んえぇッ! グッチョンは話聴いてねぇし、健太郎は何してんだかわからねぇしーー」

 という未だに我々友人間でネタにされつづれることとなる迷言を放ったのでした。

 それからというもの、この健太郎くんのストレート負けの話は、キャナによってメチャクチャに脚色され、コロコロコミックだかジャンプだかに出てきそうな展開に改変されてネタにされ続けるのでした。いつかその話も書くかも。

 そう考えるとやっぱストレート勝ちはよくないかもしれない。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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