【ナナフシギ~参拾弐~】

文字数 1,094文字

 その顔はもはや人間のモノではなかった。

 森永の顔は友人であるはずの鮫島の顔を見て完全に引き吊っていた。それも無理もないだろう。目をひん剥いて口を大きく開けた鮫島の顔は狂人のようになっていた。加えていえば、顔だけでなく力が抜けきってしまって今にも崩れてしまいそうなほどのスタンスとなっている様は完全に人形で、生きた人間の様相を呈していなかった。

 鮫島は突如人間のモノとは思えないような甲高い奇声を発した。金切り声というか、本当に金属を切り刻むのようなイヤな音だった。そのあまりに不気味な声に森永は目を見開きながら耳をふさいだ。目には涙がたまっていた。まるで恐怖が沈殿しているようだった。声はブラックホールに飲み込まれたように小さく、ただただ鮫島の名前を呟くことしか出来なかった。

 弓永は何処か緊張したように表情が固かったが、ふとニヤリと笑って見せた。強張ってはいたが、自信のある笑みだった。今にも笑い声が漏れ出して来そうだった。森永はそんな弓永を見て、

「お前、怖くねえのかよ?」と訊ねた。

「怖い、だぁ?」弓永の声は強張りつつも裏返り掛けていた。「まぁ、怖いわな」

「はぁ......? なら何でそんな強がれるんだよ」

「別に。でも、こんな野郎にどうにかされてくたばるようなおれじゃあねえんだよ。殺せるモンなら殺してみろよ。地獄がおれを待つんじゃない、おれが地獄を待ってやるんだよ」

「......何いってんだよ、お前」

 気が狂ったような弓永のモノいいに森永は呆然とした。が、弓永はふと不気味な笑い声を洩らした。まるでこの異常な状況を楽しんでいるかのようだった。弓永は全身の力をフワッと抜いた。マリオネットのようになった鮫島とはまた違う、完全にリラックスしたように肩をダランと落として、鮫島を真っ直ぐに眺めた。

「来いよバカ頭。キチガイになっても所詮お前はおれを殺すことなんか出来やしないんだからな」

 弓永の挑発などまったく耳に届いていないといった様子ではあったが、鮫島は首をカクカクと右に左に傾けたかと思うと、大きく腕を広げた。

 そして、鮫島は弓永に向かって突進してきた。

 息を飲む森永ーー目を瞑る。弓永は動かなかった。鮫島は大きく広げた腕をハサミのように鋭く閉じた。

 だが、鮫島の腕の中には弓永の姿はなかった。

 突然、鮫島の表情が無になり、カッという声と共に唾を吐き、その場に倒れ込んだ。

 一瞬のことだった。広がった鮫島の腕が閉じようとしたその時、弓永は腕を掻い潜り、鮫島のレバーに左のフックを打ち込んだのだった。

 倒れた鮫島を見下ろす弓永ーーその目はまるでゴミクズを見るようだった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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