【見知らぬお前はお知り合い】
文字数 2,607文字
電話というモノがあまり好きになれない。
どういう要因でそうなったのかは覚えていない。ただ昔から電話が余り好きではなかった。
何故好きになれないのか。その理由は恐らくだが、自分の少年期にはまだ家庭の電話に電話を掛けるという文化が残っていたことがあるのかもしれない。
そう、改めて考えると、誰かと遊ぶにもわざわざその人の家に電話を掛けなければならなかったーーそれがある種、自分にとって電話を掛けるということに対するトラウマというか、余り好きになれない要因のようなモノを植え付けたのだと思うのだ。
別にこれといった切っ掛けがあったワケではない。ただ、深層心理のどこかにイヤな何かがあったのかもしれない。
後は大学時代だろう。
大学時代、パニックを発症してからというモノ、何かと電話が掛かってくることが多くなったのだ。理由はーー余りいいたくないのだけど、早い話が毎日のように説教の電話が掛かってくる、とそういった感じである。これだからキョロ充の体育会至上主義は……。
ついでにいえば、とある施設を利用するのに、そのサービス内容を確かめる問い合わせをしたら、そこの店長に、
「あぁ!? テメェ、何がいいてえんだよ?」
と恫喝されたりと、そんな経験ばかりなので、正直今でも電話に関しては掛けるのも、掛かってくるのも嫌いだったりする。マジで変なことは何もいっていなかったのだけど、何故恫喝されたのか、今でも疑問だったりする。
さて、そんなアンタはどうだろう。電話は好きだろうか。
そもそも電話というのはリアルタイムで会話の出来る、コミュニケーションにはちょうどいいツールではあるので、電話が好きという人も多いのではないかと思う。
中には、毎日のように恋人と電話してますみたいな話だってあると思うのだ。確かに、殆どラグもなく相手の声を聞いて話ができるとなると、電話をありがたがる気持ちもわかる。
だが、やはりおれは電話が嫌いなのだ。
それこそ急を要するシチュエーションでもない限りは電話など使いたくないし、恋人相手でも出来ることなら電話もしたくない。
恋人の声を聴きたくないのかといわれたら、それは違う。ただ、電話のために使う時間、相手に割かせる時間というのが勿体無い。どうしてもそう思ってしまうのだ。
まぁ、とはいえ現代ではスマホの台頭もあって、いつでもどこでも電話で呼び出されるのは当たり前になっている。
最近じゃラインのようなメッセージアプリを通じて電話を掛けるというのが殆どだろうが、中には今でも普通の通話が行われることがある。だが、メッセージアプリが主流となってしまった今となっては、電話番号を通じて掛かってくる電話など、大抵はろくなもんじゃない。
詐欺は勿論、仕事の電話なんかもメッセージアプリではなく、普通の電話を通じてするのが当たり前だ。となると、やはり普通の電話なんてろくな内容じゃないことが多くなる。
そして、電話が掛かってくる度に電話帳に登録した名前を見てウンザリするのだ。
とはいえ、中には「こんな人、登録したっけ?」という名前もちらほらある。まぁ、ガラケー時代は特にそれが多かったのだけど、それは何も過去の遺物とは限らないのだ。
さて、今日はそんな話ーー
あれは昨年のことだった。
その時は既に仕事からふけて家でゆっくりしていたのだ。まぁ、緊急事態宣言下で居合も芝居の稽古もなくなっていたこともあって兎に角ストレスがマッハだったワケだ。
そんなこともあって、おれは帰宅後、メシを食いながらジョニーウォーカーの黒ラベルを滅茶苦茶に呷っていたワケだ。
そんな中、唐突に電話が掛かって来た。
誰だよ、と苛立ち半分にディスプレイに目をやると、そこにはーー
知らない名前が表示されていたのだ。
非通知や公衆電話、登録外のナンバーだったということではない。そのナンバーはちゃんとスマホに登録されており、通知もなされていた。だが、表示されていたのはーー
こんなヤツ知らねえよ、って名前だったのだ。
おれはフリーズした。誰だっけ、この人。まぁ、その名前を仮に「野原武則」とするけど、おれには「野原武則」なんて知り合いはいなかったのだ。
野原という名字なら二名ほど知り合いがいたが、ひとりは殆ど関わりのなかった小、中学時代の同級生で、もうひとりは職場の上司。当たり前だが、ふたりとも下の名前は全然違う。
じゃあ、誰?
もうワケがわからなかった。とはいえ、一度は自分の手で電話帳に登録した人物なのだ。如何わしいナンバーではないだろう。そう思い、おれは通話に応答してみることにしたのだ。
「もしもし、あのぉ……」
通話ボタンをスライドし、話し出す。すると、
「あぁ、もしもし五条くん? オフの時間にゴメン。今ちょっと大丈夫?」
と、電話の主はそういったのだ。そこで、おれはわかってしまったのだ。というのも、この電話の主ーー
職場の上司だったのだ。
いやいや、確かに名字は「野原」だけど、下の名前は「武則」じゃないだろう。そう、この上司の名前は「武則」ではなく、「野原聡」だったのだ。
じゃあ、どこから「武則」という名前が出て来たんだ?
もはやワケがわからなかったよな。
「え、野原さんですか!?」
思わずおれも訊いてしまったよな。そしたら、野原さんは、
「え、そうだけど」
困惑しているのが丸わかりのトーンでそういうワケじゃない。とはいえ、おれもワケがわからなかったモンで、更にーー
「何で、『野原武則』とかいう名前で登録されてんだ……」
と、もはや頭がエデンの園みたいな感じのワケわからないことをいってまして。そしたら、野原さんも笑いながら、
「知らないよ。てか、おれの名前は『聡』だよ!」
ごもっとも。でも、何故こうなっているのか。必死にそうなった理由を思い起こしてみようとしたのだけど、
わかるワケがなかったよな。
結局、その理由はわからず終い。ちなみに電話の内容は、シンプルにおれの仕事のミスに関してでした。良いところが何処にもない。
しかし、仕事のミスより、何がどうして間違った名前で電話帳登録をしたのか、そっちのほうが気掛かりだったよな。
やっぱ、おれの頭は可笑しいのかもしれない。かも、じゃなくて、そうだって?ーー否定できねぇわ。
電話帳の登録は慎重にーーするようなことでもないよなぁ、普通は……。
アスタラ。
どういう要因でそうなったのかは覚えていない。ただ昔から電話が余り好きではなかった。
何故好きになれないのか。その理由は恐らくだが、自分の少年期にはまだ家庭の電話に電話を掛けるという文化が残っていたことがあるのかもしれない。
そう、改めて考えると、誰かと遊ぶにもわざわざその人の家に電話を掛けなければならなかったーーそれがある種、自分にとって電話を掛けるということに対するトラウマというか、余り好きになれない要因のようなモノを植え付けたのだと思うのだ。
別にこれといった切っ掛けがあったワケではない。ただ、深層心理のどこかにイヤな何かがあったのかもしれない。
後は大学時代だろう。
大学時代、パニックを発症してからというモノ、何かと電話が掛かってくることが多くなったのだ。理由はーー余りいいたくないのだけど、早い話が毎日のように説教の電話が掛かってくる、とそういった感じである。これだからキョロ充の体育会至上主義は……。
ついでにいえば、とある施設を利用するのに、そのサービス内容を確かめる問い合わせをしたら、そこの店長に、
「あぁ!? テメェ、何がいいてえんだよ?」
と恫喝されたりと、そんな経験ばかりなので、正直今でも電話に関しては掛けるのも、掛かってくるのも嫌いだったりする。マジで変なことは何もいっていなかったのだけど、何故恫喝されたのか、今でも疑問だったりする。
さて、そんなアンタはどうだろう。電話は好きだろうか。
そもそも電話というのはリアルタイムで会話の出来る、コミュニケーションにはちょうどいいツールではあるので、電話が好きという人も多いのではないかと思う。
中には、毎日のように恋人と電話してますみたいな話だってあると思うのだ。確かに、殆どラグもなく相手の声を聞いて話ができるとなると、電話をありがたがる気持ちもわかる。
だが、やはりおれは電話が嫌いなのだ。
それこそ急を要するシチュエーションでもない限りは電話など使いたくないし、恋人相手でも出来ることなら電話もしたくない。
恋人の声を聴きたくないのかといわれたら、それは違う。ただ、電話のために使う時間、相手に割かせる時間というのが勿体無い。どうしてもそう思ってしまうのだ。
まぁ、とはいえ現代ではスマホの台頭もあって、いつでもどこでも電話で呼び出されるのは当たり前になっている。
最近じゃラインのようなメッセージアプリを通じて電話を掛けるというのが殆どだろうが、中には今でも普通の通話が行われることがある。だが、メッセージアプリが主流となってしまった今となっては、電話番号を通じて掛かってくる電話など、大抵はろくなもんじゃない。
詐欺は勿論、仕事の電話なんかもメッセージアプリではなく、普通の電話を通じてするのが当たり前だ。となると、やはり普通の電話なんてろくな内容じゃないことが多くなる。
そして、電話が掛かってくる度に電話帳に登録した名前を見てウンザリするのだ。
とはいえ、中には「こんな人、登録したっけ?」という名前もちらほらある。まぁ、ガラケー時代は特にそれが多かったのだけど、それは何も過去の遺物とは限らないのだ。
さて、今日はそんな話ーー
あれは昨年のことだった。
その時は既に仕事からふけて家でゆっくりしていたのだ。まぁ、緊急事態宣言下で居合も芝居の稽古もなくなっていたこともあって兎に角ストレスがマッハだったワケだ。
そんなこともあって、おれは帰宅後、メシを食いながらジョニーウォーカーの黒ラベルを滅茶苦茶に呷っていたワケだ。
そんな中、唐突に電話が掛かって来た。
誰だよ、と苛立ち半分にディスプレイに目をやると、そこにはーー
知らない名前が表示されていたのだ。
非通知や公衆電話、登録外のナンバーだったということではない。そのナンバーはちゃんとスマホに登録されており、通知もなされていた。だが、表示されていたのはーー
こんなヤツ知らねえよ、って名前だったのだ。
おれはフリーズした。誰だっけ、この人。まぁ、その名前を仮に「野原武則」とするけど、おれには「野原武則」なんて知り合いはいなかったのだ。
野原という名字なら二名ほど知り合いがいたが、ひとりは殆ど関わりのなかった小、中学時代の同級生で、もうひとりは職場の上司。当たり前だが、ふたりとも下の名前は全然違う。
じゃあ、誰?
もうワケがわからなかった。とはいえ、一度は自分の手で電話帳に登録した人物なのだ。如何わしいナンバーではないだろう。そう思い、おれは通話に応答してみることにしたのだ。
「もしもし、あのぉ……」
通話ボタンをスライドし、話し出す。すると、
「あぁ、もしもし五条くん? オフの時間にゴメン。今ちょっと大丈夫?」
と、電話の主はそういったのだ。そこで、おれはわかってしまったのだ。というのも、この電話の主ーー
職場の上司だったのだ。
いやいや、確かに名字は「野原」だけど、下の名前は「武則」じゃないだろう。そう、この上司の名前は「武則」ではなく、「野原聡」だったのだ。
じゃあ、どこから「武則」という名前が出て来たんだ?
もはやワケがわからなかったよな。
「え、野原さんですか!?」
思わずおれも訊いてしまったよな。そしたら、野原さんは、
「え、そうだけど」
困惑しているのが丸わかりのトーンでそういうワケじゃない。とはいえ、おれもワケがわからなかったモンで、更にーー
「何で、『野原武則』とかいう名前で登録されてんだ……」
と、もはや頭がエデンの園みたいな感じのワケわからないことをいってまして。そしたら、野原さんも笑いながら、
「知らないよ。てか、おれの名前は『聡』だよ!」
ごもっとも。でも、何故こうなっているのか。必死にそうなった理由を思い起こしてみようとしたのだけど、
わかるワケがなかったよな。
結局、その理由はわからず終い。ちなみに電話の内容は、シンプルにおれの仕事のミスに関してでした。良いところが何処にもない。
しかし、仕事のミスより、何がどうして間違った名前で電話帳登録をしたのか、そっちのほうが気掛かりだったよな。
やっぱ、おれの頭は可笑しいのかもしれない。かも、じゃなくて、そうだって?ーー否定できねぇわ。
電話帳の登録は慎重にーーするようなことでもないよなぁ、普通は……。
アスタラ。