【帝王霊~玖拾弐~】
文字数 1,098文字
スマホが振動した。
こんな時に何だと思いつつも、ぼくはズボンの尻ポケットで振動するスマホを取り出して眺めた。電話だった。相手は山田さんだった。山田さんーー確かハルナを探すために川澄まで来てくれているはずだった。もう到着したのだろうか。わざわざ電話を掛けて来るというのは、その可能性が高かった。ぼくはグングン先へ進んで行こうとするいずみを制止して通話ボタンをスライドさせた。
「もしもし」
「もしもし、シンちゃんか!」
山田さんのことばは真に迫っていた。当たり前だろう。今は一刻を争う時。そんな中でゆったりとしている暇はない。だが、その声色には何処となく明るい響きがあったようにも感じられた。何か希望に満ちたような、そんな感じの明るい響きが。
「はい!」ぼくは答えた。「山田さんも川澄に来られたんですか?」
「うん、来たよ」明るい響きーーやはり何かあるようだ。「今どこにいる?」
「今は友達と一番街にいる」
そういうと、電話の向こうの空気が変わったような気がした。一番街が何かあるのだろうか。いや、あるのだろうかではなく、あるに違いない。気持ちがはやる。だが、恐らく山田さんはそのことを教えてくれはしないだろう。ぼくは山田さんのことばを待った。
「一番街か......」
「うん。山田さんは今どこ?」
「川澄通り商店街にいるよ。それより、お父さんは川澄署の刑事さんだったね?」
ぼくははいと答えた。同時に、何か手掛かりを得たのだ、という確信も得た。
「はい、そうです」
「個人的な連絡先を教えて貰えないか? 署のほうに電話しても何とかなるだろうけど、直接連絡がついたほうが早いだろうから」
「......ハルナが見つかったんですね」
ぼくがそう訊ねると、山田さんは口を紡いだ。そういうワケでもない、というのだろうか。それとも、ぼくにはいえないワケでもあるというのだろうか。
「ごめん、それはまだだ」
「じゃあーー」
「でも、キミはもう家に戻ったほうがいい。ハルナちゃんがいなくなって、かつこれが誘拐だとしたら、尚更キミやキミの友達を危険な目に遇わせるワケにはいかないんだ」
「でも!」
「お願いだ。おれのことを信じてくれよ」
いつになく弱気な山田さんの声に思わずたじろいだ。強いと思っている人の弱い姿は、それだけで人のこころを揺さぶる。それはぼくのこころも例外では決してなかった。
ぼくは、はいと答えるしかなかった。それから父さんの連絡先を教えて電話を切った。
「何だよ?」
いずみが訊ねた。ぼくは今までの話を全部話した。いずみはイラ立った。だが、ぼくには感情を昂らせる元気はなくなっていた。
またもやスマホが振動した。
【続く】
こんな時に何だと思いつつも、ぼくはズボンの尻ポケットで振動するスマホを取り出して眺めた。電話だった。相手は山田さんだった。山田さんーー確かハルナを探すために川澄まで来てくれているはずだった。もう到着したのだろうか。わざわざ電話を掛けて来るというのは、その可能性が高かった。ぼくはグングン先へ進んで行こうとするいずみを制止して通話ボタンをスライドさせた。
「もしもし」
「もしもし、シンちゃんか!」
山田さんのことばは真に迫っていた。当たり前だろう。今は一刻を争う時。そんな中でゆったりとしている暇はない。だが、その声色には何処となく明るい響きがあったようにも感じられた。何か希望に満ちたような、そんな感じの明るい響きが。
「はい!」ぼくは答えた。「山田さんも川澄に来られたんですか?」
「うん、来たよ」明るい響きーーやはり何かあるようだ。「今どこにいる?」
「今は友達と一番街にいる」
そういうと、電話の向こうの空気が変わったような気がした。一番街が何かあるのだろうか。いや、あるのだろうかではなく、あるに違いない。気持ちがはやる。だが、恐らく山田さんはそのことを教えてくれはしないだろう。ぼくは山田さんのことばを待った。
「一番街か......」
「うん。山田さんは今どこ?」
「川澄通り商店街にいるよ。それより、お父さんは川澄署の刑事さんだったね?」
ぼくははいと答えた。同時に、何か手掛かりを得たのだ、という確信も得た。
「はい、そうです」
「個人的な連絡先を教えて貰えないか? 署のほうに電話しても何とかなるだろうけど、直接連絡がついたほうが早いだろうから」
「......ハルナが見つかったんですね」
ぼくがそう訊ねると、山田さんは口を紡いだ。そういうワケでもない、というのだろうか。それとも、ぼくにはいえないワケでもあるというのだろうか。
「ごめん、それはまだだ」
「じゃあーー」
「でも、キミはもう家に戻ったほうがいい。ハルナちゃんがいなくなって、かつこれが誘拐だとしたら、尚更キミやキミの友達を危険な目に遇わせるワケにはいかないんだ」
「でも!」
「お願いだ。おれのことを信じてくれよ」
いつになく弱気な山田さんの声に思わずたじろいだ。強いと思っている人の弱い姿は、それだけで人のこころを揺さぶる。それはぼくのこころも例外では決してなかった。
ぼくは、はいと答えるしかなかった。それから父さんの連絡先を教えて電話を切った。
「何だよ?」
いずみが訊ねた。ぼくは今までの話を全部話した。いずみはイラ立った。だが、ぼくには感情を昂らせる元気はなくなっていた。
またもやスマホが振動した。
【続く】