【ナナフシギ~弐拾死~】

文字数 1,179文字

 誰もいないーーにも関わらず、ピアノは鳴り響いていた。

 エミリは顔を真っ青にして呆然と立ち尽くしていた。祐太朗の服と腕をギュッと掴み震える。祐太朗はざっと辺りを見渡すと、腕をギュッと掴むエミリをもろともせず、ズカズカとピアノの旋律が洪水を起こす教室内へ入っていった。ちょっと待ってよ、とエミリも祐太朗の後を追い教室の中へ入った。

 ガタンーー教室のドアが音を立ててひとりでに閉まった。

 エミリは勝手に閉まったドアの取っ手に手を掛けて、思い切りドアを引いた。ビクともしない。いつもは何の苦労もなく開いてしまう教室のドアが、まるで大岩にでもなったかの如く重くなっていた。

「祐太朗くんッ!」エミリは振り返っていった。「どうしよう、開かないッ!」

「だろうな」祐太朗はエミリのほうを振り返らずに教室内を依然として見渡しながら、そんなことはわかっているとでもいわんばかりにそういった。「ドアだけじゃなく、教室全体に霊障が起きてる」

「そんな......。どうするの? わたしたち、閉じ込めーー」

 祐太朗はパニックを起こすエミリのことばを制させ、辺りに耳を澄ませた。エミリは縮こまって泣きそうになりながらも、祐太朗を見詰めていた。祐太朗はまず教室前方にあるスピーカーに目を向け近づいた。スピーカーを見上げながら目を閉じ、片方の耳をスピーカーのほうへ傾けた。

 かと思いきや、今度はレーザーディスクのほうへ歩き、機器の様子を確かめた。それから同期されているカセットプレーヤーとCDプレーヤーもチェックした。それから準備室のドアのほうへ行き、聞き耳を立てたかと思うと、教室後方に鎮座しているの楽器のほうへと歩き、最後にピアノの前に立った。

 舌打ちする祐太朗。

「......どうしたの?」

 エミリの声はけたたましいほどのピアノの音色に掻き消されんばかりだった。だが、祐太朗はピアノの音色など気にもしないといった様子でエミリのほうを振り返ると大きくため息をついた。

「このクソうるさいピアノの音、何処から響いてると思う?」

 エミリは一瞬呆然としつつも、その問いに答えた。

「え、それは......、ピアノから......?」

「違えよ」祐太朗はウンザリしたようにいった。「このピアノ、この部屋の何処からも聴こえてねえんだ」

「え......?」ワケがわからないといった様子のエミリ。「どういうこと?」

「楽器にプレーヤー、スピーカー、色んな音を出すモノを調べてみたけど、何れもこの『荒城の月』を演奏しちゃいないんだ。もちろん、ピアノも、な」

 祐太朗のことばに、エミリはことばを失った。

「このピアノの音は霊障そのものだよ」

「よくわかったじゃねえか」

 祐太朗の推理を激賞するような声が響いた。祐太朗とエミリは声のした、教室後方へと顔を向けた。後方のドアもとに少年の姿があった。

 弓永だった。

 【続く】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み