【酒の神は類をくっつける】

文字数 4,020文字

 類は友を呼ぶという諺がある。

 これはまさにその通りだと思うのだ。友人にしろ恋人にしろ、やはり対岸にいるような相手とは中々上手くはいかないし、上手くいくとしてもどこか利害が一致しているか、上手い形で関係が成り立つような相互フォローが出来ているからだと思っていいだろう。

 まぁ、類は友を呼ぶというと、おれの友人たちはみなおれに似て性格の悪いチンピラのクズなのかって話になりそうだけど、それは違う。

 そもそも、おれだけが例外的にアウトサイダーなだけなのだ。

 だからこそ、おれと友人たちの関係というのは、「類は友を呼ぶ」という諺とは必ずしも一致するモノでもないワケで。

 大体、おれには味方よりも敵のほうが多い。中学、高校は幸いにも味方のほうが多かったけれど、大学は敵ばかり。職場でもそうーーというよりか、シンプルにウマが合わない。

 そして、それは『ブラスト』でもそうだ。

 まぁ、これまでに書いた内容から考えても、ブラストの人間の中に不仲な人間が多いというのは一目瞭然かと思うのだけど、これは簡単な話、おれがとんでもなく性格が悪いというのもあるだろうし、根本的なスタンスの違いという問題があるからだと思うのだ。

 そもそも、人はすべての人に好かれることはできない。育ってきた環境や境遇、付き合ってきた友人たちの影響なんかもあって、人格というモノは基本的にどこかに偏るのはいうまでもないし、それ故に反目の立場に立つ人が出てくるのは当たり前の話だろう。

 ただ、そんな中にもちゃんと仲間はいる。

 人間の脳はバカなモノで、ネガティブなモノにばかり目を向けガチで、それ故にポジティブなモノを蔑ろにしてしまいガチだ。

 大体、生きていれば良いこともあるし、悪いこともある。その比率がイーブンになるかどうかはわからないが、大抵の場合、悪いことが起きている中で、良いことも起きているのだ。

 同僚がどんなに仕事をしないクソでも、別の部所の人が自分に好意を持ってくれているなんてことはよくある話だしな。ちなみに、これはおれのことではないです。おれに好意を向ける物好きはいないからな。それはさておきーー

 ネガティブなことばかりに目を向けるくらいなら、ちょっとしたポジティブなことを全力で喜んだほうが、人生も幸せというもんだ。

 そして、自分を蔑ろにする人間のことなど気にする必要などない。自分を好いてくれる誰かの為に生きるべき。おれはそう思う。

 自分を嫌う人もいれば、好いてくれる人も必ずいる。これは自然の摂理だと思うのだ。

 さて、『遠征芝居篇』の第三回目である。あらすじーー

「森ちゃんからの依頼、それは自分と一緒に芝居を作って、他県のイベントに出て欲しいというモノだった。が、おれは躊躇った。それは、共同主催の劇団に対し、過去にうしろめたさがあったからだった。五条氏は返事を保留にしつつ、森ちゃんに興味があることを伝え、話だけは聴くことを伝えたのだった」

 とまぁ、こんな感じか。毎度のことだけど、詳しいことは前回の記事を読んでくれよなーー

 森ちゃんからのメッセージが届いて以来、おれは迷っていた。どうしようか。やろうか、やめようか。やらなきゃ後悔するだろう。だけど、相手の劇団にどう顔向けすればよいのだ。

 頭の中で様々な要素が回る。だが、答えなど殆ど出ていた。

 森ちゃんと一緒に芝居がしたい。

 森ちゃんの書く本で芝居がしたい。

 この気持ちは偽りがなかった。後は、自分の小さくて下らないプライドを捨て去ればいいだけだった。

 確かに相手の劇団には顔向けしづらいだろう。どういわれるかわからないのもいうまでもない。ただ、そんなのは杞憂かもしれない。

 いつだって、ちょっとした出来事を大事にするのは自分のマインドだ。

 井の中の蛙。精神を蝕む無駄な不安が現実を暗礁へと導き、すべては闇に包まれる。恐怖がそこにある。人のマインドの中にある。

 恐怖、不安、そんなものは所詮、自分が作り出した幻想だ。過去など所詮過去でしかない。パニック、気絶、そんなモノを思い出させる人間の脳が欠陥品なのだ。

 自分の内から来る警告など聴かなくていい。そんなゴミより、自分のやりたいこと、興味のあることに対して正直になるべきだ。

 おれは自分にそういい聞かせた。

 やるーー絶対にやる。出演する。自分の知らない地で芝居をやる。その意向を森ちゃんに直接伝える。おれはそう決心した。

 数週間後、おれは再び『ブラスト』の稽古場に姿を現した。退団し、ゲスト出演を終えてからは初めての顔出しとなった。

 稽古場では、年の始めのイベントで公演する短編芝居を二チームに分かれて稽古していた。

 片っぽのチームには、たけしさんにさとちん、ゆーへー、医者の石原くんといった、前回のゲスト公演の際にお世話になった人たちがチームとなって、芝居を作っていた。

 もうひとつのチームには、正さん、Xという、おれと因縁のあるメンツに、新人団員がひとり。

 ちなみに、たけしさんは正さん、Xのチームでは役者をやる予定なのだが、もうひとつのチームでは演出を務めることもあって、その時は代役を立てていた。

 森ちゃんの姿はなかった。というのも、彼は前回の公演を終えた時点で『ブラスト』を退団していたのだ。理由は、次の遠征公演を終えたら、これからイベントを行う地へと引っ越して、新天地で自分の劇団を作るためだった。

 もう片方のチームへ役者として稽古するため、たけしさんに、さとちん、ゆーへー、石原くんチームの演出代理を頼まれて、三人の芝居を見ていると、森ちゃんが稽古場に現れた。

 軽く会釈をし、稽古に戻る。かと思いきや、今度は『ゆうこ』、更には『よっしー』が稽古場に現れた。恐らく、今回の遠征芝居のメンバーとなるであろうメンツだった。

 稽古を終えると、ブラストのメンバー一丸で居酒屋へと向かった。そこで、おれ、森ちゃん、ゆうこ、よっしーの四人で固まり、遠征芝居の話をすることとなった。そこで、

「森ちゃん」話の始まる前におれは口を開いた。「おれ、やらせて貰うわ」

 宣言。もう戻れない。いや、戻る必要などない。ただ、前に進むだけでいい。

 おれが宣言すると森ちゃんは、

「ありがとうございます! 台本はある程度は完成してるんですけど、もう少し手直しが必要って感じですね。よっしーさんとゆうこさんはどうですかね?」

 森ちゃんが女子ふたりに話を振る。ふたりの答えは同じだった。是非やりたい、日程さえ合えば。よっしーとゆうこは仕事の関係上、休暇が取れるか微妙な立場にあった。

 が、よっしーが何とか上に掛け合ってみるというと、ゆうこもそうしてみると受け合ってくれた。ふたりのことばを聴いた森ちゃんは、本当に嬉しそうにしていた。

 それから、イベントの大まかな概要を聞き、芝居の概要を聞いた。

 イベントは某県某市の喫茶店で行われ、公演としては三公演行うとのことだった。

 喫茶店での芝居と聴いて、喫茶店内に舞台になりそうなスペースがあるのか、と訊ねたのだけど、森ちゃんがいうにはーー

 喫茶店の店内そのモノが舞台になるとのことだった。

 これは今までにない試みだった。面白い。平場の舞台にセットを組むのではなく、喫茶店というスペースをそのまま使って芝居をやるのか。好奇心と興奮が沸々と湧いてくる。

 それから、芝居の内容だが、これは某映画の設定をベースにした恋愛モノということだった。キャストとしては、メインヒロインがよっしーで、おれがその相手役、ゆうこと森ちゃんがサブキャラクターとのことだった。

 恋愛モノのメインとは、驚きだった。それも、前回のブラストの公演で相手役だったよっしーが相手役とは。これだけでも充分に面白いのに、脇を固めるのが森ちゃんにゆうことなると、もうワクワクしかなかった。

 そもそも、この四人はプライベートでも飲むようなメンツだった。このメンツでの芝居とは、もう贅沢もいいところだった。

 それから芝居の内容について少し話し、酒とフライドポテトをつまみながら、取るに足らない話で盛り上がった。

 時間も経ち居酒屋を出ると、ブラストのメンバー数人でカラオケへ。よっしーとゆうこは翌日早いということで、帰ったのだが、森ちゃんはもう少し芝居のことで話したいということで、カラオケにもついてくることになった。

 カラオケのメンツとしては、おれ、たけしさん、さとちん、石原くん、森ちゃんの五人。

 ちなみに、石原くんも今回の遠征芝居のメンツとプライベートで飲む仲間ではあったのだけど、インターンの関係で近い内に遠くへ引っ越さなければならないとのことで、出演以前に公演にも足を運べないことが確定していたのだ。こればかりは本当に残念。

「五条さん」カラオケが始まる前に、森ちゃんが声を掛けてきた。「チラシやイベント情報を公開しなきゃいけない関係で、団体名をつけなきゃいけないんですけど、何かいい案はありますか?」

 そういわれて、おれは適当に思考を凝らした。といっても、既に五杯くらいビールの中ジョッキを空けた後だったので、頭も回らず、大した案も出て来なかったので、適当にーー

「今日の飲みの場でいい感じに話が進み始めたんだし、酒の神の名前を取って『デュオニソス』ってのはどうよ?」

 もう、安直も安直。思考すらまともにしていないのがまるわかりなアイディアで鼻で笑われても仕方ないと思われるのだけど、森ちゃんの答えはーー

「『デュオニソス』ですか。いいですね! それで行きましょう!」

 まさかの団体名が決定である。

 そんな適当な名前でいいのか?とも思ったけど、こういうのは思考を凝らせば凝らす程にドツボにハマり、ダサくなっていくもんだ。これくらいがちょうどいいのかもしれない。

 そんな感じで団体名も決まり、仲良し劇団『デュオニソス』は、少しずつ、その歩みを始めるのだった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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