【帝王霊~百弐拾玖~】
文字数 594文字
想定など、何にもしていなかった。
いや、想定など出来るはずがなかった。こんなことがあるワケないはずだから。
祐太朗の口許は震えていた。そこにはあらゆるネガティブな感情が浮かび上がっていたようにも見えた。口許だけでなく目も震えていた。目は口ほどにモノをいう。
教祖室ーーその真ん中でこの宗教における最高位を意味する黒いローブを羽織ったひとりの男が立っていた。ハリーーホーリーネームではあるが、紛れもない祐太朗の父だった。そして、床には血塗れで倒れた女の姿があった。女はこの宗教のホーリーローブとでもいうべきか、位の高い人間でなければ着ることを許されない真っ白なローブを着ていた。だが、その真っ白なローブも、今ではドス黒い血を浴びてそこら中が赤黒く変色してしまっていた。
女はシャンティーー祐太朗の母だった。
「何してんだ......」
祐太朗の声は震えていた。そのことばはもはや疑問ではなく、ただのひとりごとに近くなっていた。殆ど呆然とし、口をついて出たひとりごとといったほうが自然だったかもしれなかった。祐太朗のことばにハリは振り返った。顔には返り血が点々と付いていた。ローブが黒いせいか、血がついているかどうかは一発で視認するのが困難になっていた。
ハリの目は死んだように虚ろだった。いつも虚ろだったとはいえ、この時はいつも以上に虚ろだったように見えた。
ハリが口を開いたーー
【続く】
いや、想定など出来るはずがなかった。こんなことがあるワケないはずだから。
祐太朗の口許は震えていた。そこにはあらゆるネガティブな感情が浮かび上がっていたようにも見えた。口許だけでなく目も震えていた。目は口ほどにモノをいう。
教祖室ーーその真ん中でこの宗教における最高位を意味する黒いローブを羽織ったひとりの男が立っていた。ハリーーホーリーネームではあるが、紛れもない祐太朗の父だった。そして、床には血塗れで倒れた女の姿があった。女はこの宗教のホーリーローブとでもいうべきか、位の高い人間でなければ着ることを許されない真っ白なローブを着ていた。だが、その真っ白なローブも、今ではドス黒い血を浴びてそこら中が赤黒く変色してしまっていた。
女はシャンティーー祐太朗の母だった。
「何してんだ......」
祐太朗の声は震えていた。そのことばはもはや疑問ではなく、ただのひとりごとに近くなっていた。殆ど呆然とし、口をついて出たひとりごとといったほうが自然だったかもしれなかった。祐太朗のことばにハリは振り返った。顔には返り血が点々と付いていた。ローブが黒いせいか、血がついているかどうかは一発で視認するのが困難になっていた。
ハリの目は死んだように虚ろだった。いつも虚ろだったとはいえ、この時はいつも以上に虚ろだったように見えた。
ハリが口を開いたーー
【続く】