【湿気た花火~拾壱~】

文字数 759文字

 懐かしさが一気に込み上げて来た。

 おれは目に止まった冊子を手に取った。取るに足らない市の広報紙だった。『外夢報』という何の工夫もないその冊子は、ひと月に一度発行され、市民の家に配られるモノで、市政の流れや市のイベント等の情報が載っている。おれは別にこの外夢という街が好きではないのだが、故郷ということもあってか、今現在の市の流れがどうなっているのかは結構気になってしまう性質らしかった。おれが、この街の経済の殆どを担っている大手の自動車工場が他の街に移転するというショッキングなニュースを知ったのもその広報紙からだったりするのは、どうでもいい話。

 さて、おれは久しぶりにこの冊子に手を伸ばして読んでみることにしたのだ。市の広報紙とはいえ、おれみたいな普段アパート暮らしのひとり身の部屋には届かないらしく、これを読むのは随分と久しぶりーーそれこそ、最後にこれを読んだのは、家を出る前だから結構前ということになる。

 この冊子がおれの気を引いたのは、表紙に何よりも主張の強いひとことが書いてあったからだった。それはーー

 『外夢祭、今年も開催!』という文言だった。

 外夢に暮らしていて、外夢祭を知らないのは、最近越して来た人間か、昔、レイ・ブラッドベリの小説で読んだような、生まれてこの方、外へ出たことがないヤツくらいだろう。まず、子供なら学校に通っていれば外夢祭の話題はイヤでも耳にするし、他県や他の市から移り住んできた身でも、駅前から少し行った所の通りの多くを封鎖して開催するこの祭りを目にしないことはまずない。駅を利用していればまず100%、装飾もワードも目にすることもあって、外夢に住んでいる以上は外夢祭を知らずに生きることは不可能だ。

 懐かしさに駈られて、おれは外夢祭の特集ページを開いた。

 呆然とした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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